5-14. 幽谷鳴斗は調べたい・2
聞き覚えのない声がしたのでそちらを見た鳴斗は、目を丸くした。
その声と共に見せられていたのは警察手帳であった。
「何かトラブルですか?」
よく考えれば当然の話である。警官が近くにいる状態でこのような騒ぎを起こせば、警官が近付いてくる事など予想出来て然るべきである。鳴斗は頭を抱えた。
「……ん?そちらの女の方……」
近付いてきた警官は、唯の顔を見て、何かと照らし合わせ始めた。
「間違いない、あかさかゆ「忘れろ!!」
言い終わる前に状況に気付いた鳴斗は、指を弾き記憶を飛ばした。そして三人を連れて少し離れた。
「……あれ、僕は何を……?」
手帳を見せてきた警官――手帳には『大宮昴』と書かれていたと思う――は辺りを見渡し、自分が何をしようとしていたのかを必死に思い出そうとしているようであったが、やがてどうやっても記憶が蘇りそうにない事を悟ると、首を傾げてまた駅へと戻っていった。
「危ねえ……。どうやら君の顔は既に出回っているらしい」
鳴斗は胸を撫で下ろしそれから唯に向き直って言った。
「やっぱり来なきゃよかったんじゃないですかココ」
「そんな事はない。手掛かりは得られそうだ。こっち」
そう言うと鳴斗はコソコソと歩き出した。
「ああ危ないから君には隠れて貰うか」
鳴斗が指を弾くと、唯の顔が別人のソレに変わった。
「これで良し」
「え、どうなったんです?」
「別の顔にした。透明化は日持ちが悪いんだ。変装の方が手軽だ」
「どういう顔に?」
「後で鏡で見てくれ。微調整はするから」
鳴斗は再び歩き出した。
「ちょ、先に見せて欲しいんですけれど」
「問題ございません。明らかに別人の顔になっております」
憮然とする唯に、ラシーヌが優しい声を掛ける。
「はい、ちゃんと別人でございます、スローシャめが保証致します」
「そう?じゃあ、まあ……」
「今までスローシャめが見てきた中で、目と鼻の位置がここまでズレた方は見たことがございませんで」
「は?」
「左様に御座います。某も拝見した人相とは少ないものでございますが、ここまで異なれば貴方様が唯殿であると特定出来る方はいらっしゃらないでしょう」
「ちょっと待って」
唯は鳴斗の肩をむんずと掴んだ。
「……ラシーヌ程考える時間が無かったんだ。後で直すから、うん」
そう言うと鳴斗は走り出した。
「待って、ねえ、待て!!鳴斗!!わたしは今どんな顔になっているんですか!!」
彼の背を追いかけて、福笑いの大失敗作――目と鼻と口の位置がズレた唯――が走り出し、そしてそれに続くようにラシーヌと光の珠――スローシャが駆け出した。




