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5-8. 赤坂唯は走る・1

[2019/6/6 9:20 群馬県鷹崎市 鷹崎市内]


 赤坂唯は夢でも見ているのかと自問した。


 夢だったら本当良かったのにと自答する。


 甲冑が動いて首が取れて……という事象だけでホラーのそれであるのに、それが魔物で生物で、異世界の住人だと?


 全く理解が出来ない。寝言でももう少しマシな事を言うのではないだろうか。


 だが妖精は目の前に居るし、何よりこの話をしている男、幽谷鳴斗は魔法使いだ。魔法かどうかは本当か定かでは無いが、いやしかし、魔法で無ければ出来ない事を平然とやってのけている。そんな彼が言う話であれば、もはや信じる他無い。


 よくない宗教の洗脳にかかっている気分だ。


 だがここ最近の出来事を考えれば、多少無茶な話であっても受け入れざるを得ないのが現実であった。


「それで、そのデュラハン、ラシーヌさんは何処に?」


 急いで荷物をまとめてホテルの外に飛び出しながら、唯は鳴斗に尋ねた。鳴斗は朝からずっと虹色に輝くTシャツを着ていて目立つ。目立ちすぎてすぐに脱いで欲しいくらいであったが、恩人に余りそういう文句を言うのも何とも失礼にあたるような気もしたので、今は黙る事にした。


「魔力を感じるのは西側、あっちの方だな」


 鳴斗は大きな道の先を指差す。


「変な匂いもしませんか!?」


 幻想的生物の第一号、スローシャが鳴斗のポケットから口を挟んだ。


「なんかこう、血の匂いがしますですよ。スローシャめはそういうのに鋭いのです」


「そういう匂いが鼻についたら逃げるからな」


 スローシャの光が見るからに萎んだ。


「……いや別に責めるつもりは無い、そういう生存戦略も大切だから咎めるつもりはないが」


 スローシャの光が明らかに強くなった。分かりやすい。


「しかし血の匂いなんて物騒な……」


 そう唯が言い掛けた。次の瞬間、凍りついた。


「ひぎゃぁっ」


 道路を走っていたであろう車が真っ二つに――横に二枚に下ろされていた。果たしてどのような技巧によるものなのかは全く分からない。中に乗っていた運転手らしき男も、その後ろに乗っていた子供も、体と首が――。


「おえ……」


 気持ちが悪くなってきた。朝からとんでもないものを見てしまった。


「既に完全に魂が抜けている。……すまない、助けられない」


 そういって鳴斗は膝をついて祈りを捧げた。その姿は到底「魔王」という単語からイメージされる傲慢な姿とは似ても似つかないものであった。


 が、そんな事よりも唯はその情景にこみ上げる吐き気を耐える事で精一杯だった。


「大丈夫か」


 鳴斗が足を止めて唯に尋ねる。


「ふ、ふぁい……何とか……。これがラシーヌさんとやらの……?」


「……いや、残存する魔力からして、ラシーヌのものに近いが、若干の差異がある。それにさっきから、ラシーヌの近くに別の魔力を感じる。こちらと、此処に残っている魔力が同じものだ。つまり犯人は今ラシーヌと一緒に居る……と思われる」


「な、なるほど……」


 唯は納得して、次の瞬間その言葉の意味に気づいた。


「え?なんです?もう一人……一人……?魔物がいるんですか?」


「そういう事になる。……どうなってんだとは私も思う。つーか困ってる。どうなってんだ!!」


 鳴斗は叫んだ。


「……すまない取り乱した。しかし叫びたい気持ちも理解してくれ」


「分かります。わたしもいっそ倒れたいです」


「倒れたところで目覚めれば同じ現実に戻るだけだ。ともかく……何とかしよう」


 そう言って鳴斗は再び走り出した。唯は大きな溜息を吐いた後、止む無く彼に付き従い走り出した。

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