5-6. 武蔵小金井潤一郎の到着・2
「ただの通り魔だとは思うんですが、凶器と目撃証言が何とも理解出来んのですねえ」
孝平は潤一郎を案内しながら、現状について説明する。
「甲冑を来た人間が襲いかかってきた、首が取れた、そんな事有り得ると思いますかねえ?わたしは全く信用ならないと思っておりましてねえ。目撃者の証言は複数ありますが、全部劇団員とかそういう類の演技だと思ってるんですよねえ」
孝平は馬鹿らしいという態度を隠さずに言う。
「そういう先入観は捨てるべきだと以前も言ったはずだぞ。まして劇団員?そっちの方がありえんだろう」
年上ではあるが、潤一郎の方が警部への昇進は早く、かつ、そもそも潤一郎は全く孝平の事を尊敬していなかったので、口調も厳しいものとなる。
それを聞いている孝平はというと、誰にでも敬語で喋りながら胡麻を擦る事が習慣となっていたので、全く気にする素振りは無い。
「へへ、まあ、そうなんですが、でも思いませんかねえ?有り得ないって」
「……本来であれば、そう言いたいところだが、有り得ないと断じる事は出来ない。今の俺には」
「ふへえ。本気ですか。本気で首が取れる甲冑、小説かなんかで出てくるデュラハンみたいなのが切り捨てたと?」
「普段なら有り得ないと言い切ったんだが、最近色々ありすぎてな。到底無いとは思うが、絶対有り得ないとは何とも言い切れなくなってきた。もう何が起きても多分驚かないと思う」
それを聞いて孝平は目を見開いてきょとんとした。
「そんなに。一体何があったんです」
「知ってるだろう?伊都宮の事件」
「ええ、警察の中ではだいぶ広まってますからねえ。消せないモザイクに消えた人間。不可思議な事もあるもんですが、アレはただの噂でしょう?」
「そうだったら良かったし、そうだったらきっと此処には来てない」
「……え、マジですか?」
「マジもマジだ。詳しくは後で話すから、まずはそっちの情報をくれ。例の模様を見せて欲しい」
「ああ、アレですか。ほい」
軽い口調で渡してきた写真と、千夏が送ってきた写真を見比べる。同じ模様に見える。
では唯の物と比較するとどうか。こちらは違う。細部が異なっている。やはり唯の紋様だけが特殊な物になっているように見えた。
「よく分からんですよねえ。そちらの高崎さんから連絡ありましたけど、こっちも読める人間なんて勿論居ませんで。ウチらも困っとりましてねえ」
「そう聞いている」
オカルト専門の部署でもあればそこに任せたいくらいだ、と潤一郎は心の中でボヤいた。
「ところで、甲冑の足取りは分かっているのか?」
安芸のように請われているわけでは無いのに、管轄外の事件に口を出すような事をするのは本来良くない事ではあるのは分かっていたが、過去に組んだ事があり、尚且つ孝平が相手という事もあり、思わず上司のような問いが声に出てしまう。
「防犯カメラの映像とかはどうなんだ。鷹崎の駅前だぞ、安留賀駅とは違ってしっかり映ってるんじゃないのか」
安留賀駅前の防犯カメラには何も映っていなかった。正確には、駅に入る高松洋介の姿くらいしか残っていなかった。轢き逃げ事件の現場付近に関しては、田舎という事もあり、防犯カメラなど何も無かった。それと比較すると、鷹崎駅の駅前となれば、何かしらの情報が得られているのではという期待があった。
「まだ取り寄せてません」
「は?」
潤一郎の足が止まった。聞きたくもない言葉を聞いた気がする。




