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5-4. 幽谷鳴斗は魔法陣を調べる・2

「なんかこう……嫌な予感しかしない言葉だな」


 鳴斗は率直な感想を述べた。


「はい。そして、此処まででした。これ以上は申し訳ございません、某にも解読が不可能でございます」


「いや、それだけ分かれば十分、とは言えないが、手掛かりとしては有り難い。スローシャ、単語と意味を紐付けしておいてくれ」


「はいです」


 スローシャはサラサラとメモしていく。字は汚いが読めないわけではない。


「二人共ありがとう。しかしよく読めたな」


「これらの言葉は某の部族に伝わる壁画で読んだ事がございましたので。秘宝を封ずる神殿に描かれていたのを、かつて長老に教わりまして」


 そこまで言ってラシーヌは肩を竦めた。


「……その長老も、先日殺され、秘宝も奪われました」


「すまん、嫌なことを思い出させた」


「とんでもございません。忘れた事はございませんし、鳴斗殿のせいでもありませぬ、お気になさらず。――先程申し上げたシュマが、正にその下手人なのです」


「なるほど」


 使命として追っている相手の罪状、忘れるわけが無いというのは納得出来た。


 他方、唯の方を見ると、何とも状況が呑み込めないようで、呆けたままで固まっていた。


「秘宝……」


 スローシャは何やら深刻そうな顔を浮かべている。


「どうしたスローシャ」


「いいいいいいいいえ、なんでもございませんですよ!!」


 嘘だ。それは心の色を読む必要すら無い。この慌て具合から容易に想定出来た。


「ままま、万が一何かあったとしても、まー大した事ではございませんですよ、はい。スローシャめが保証致します!!」


 全く安心の出来ない保証であった。転売屋が「アフターフォロー万全です」と謳っているようなそんな感覚を覚えた。


「ちゃんと本当の事を言え、言わないと……」


 そう言って鳴斗がスローシャを握ろうとした時、


「――――む」


 ラシーヌが突然窓の方を向いた。目を見開き、何処かをじっと注視している。


「どうした」


「感じる。あの愚者の気配を。――失礼、行かなくては」


 静かに彼女はそう言うと、


「あ、ちょっ」


 鳴斗の静止を振り切るように窓のガラスに向けて駆け出し、


 ガシャァン!!


 音を立ててガラスの破片を飛び散らしながら、窓の外へと飛び出した。


「ここ六階だぞ!!お前は大丈夫でもガラスは危ないだろうが!!ああもう!!」


 鳴斗は憤りながらパチンと指を弾く。ガラスの破片が地面に落下する前に、それは元の姿を取り戻した。だが離れすぎたラシーヌは戻らない。


「追う!!あれを放置したらどうなるかわからん!!」


 そう言って鳴斗はホテルの廊下目掛けて走り出そうとして、


「ちょっ、チェックアウトとかは!?」


 状況が理解出来ず呆けていた唯が、ハッとなって言った。


 鳴斗はその言葉を聞いて足を止めて、頭を掻いた。


「はぁ……すぐ準備してくれ、道中で説明する」


 唯はその言葉を聞いて、ひとまず部屋へと戻っていった。


「大変ですね鳴斗様、スローシャめは同情致します」


 輝きながらスローシャが心底憐れむような声で言った。


「ありがとうよ」


 鳴斗はそう答えるしかなかった。

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