5-1. 武蔵小金井潤一郎は鷹崎へ向かう・1
[2019/6/6 9:20 東京都台上区 東京中央駅発新幹線内]
いい後輩を持ったなあ。
新幹線の席で少し休もうと思っていた武蔵小金井潤一郎警部は、開いたスマホに届いた安芸からのメールを見て思わず涙を溢す勢いであった。
忙しい間を縫うように、わざわざ事件についてまとめたメールを送ってくれるとは。しかも千夏や昴にも送ってくれているので、今後の情報共有もしやすくなるだろう。内容についても特に申し分ない。
しかし目は疲れたし、元々疲労が蓄積している。改めて休もうとスマホの電源を押そうとした彼であったが、間違えてブラウザを立ち上げてしまった。気にせず消そうとしたが、そこに表示された最新ニュースを見て手が止まった。
「………………なんで死体の映像が映ってるんだ」
それは、群馬は鷹崎での通り魔に関するニュースをであった。
彼はそれを見て青褪めた。
まず死体の映像が映る事自体が事故である。生々しいそれが映るのは視聴者の気分を害する可能性が高いため放送倫理として禁止行為にされている。
加えて死体のあの魔法陣らしき絵柄。あれはマスコミに伏せている情報のはず。それが公開されていいわけがない。
席を立って連結部近くの通話スペースに向かい、群馬県警と連携しているという轢き逃げ事件担当の高崎千夏警部に連絡を取る。
『私もあれ見てびっくりしました』
千夏に繋がると、彼女は疲れ切った声で言った。
『確認しましたが、どちらもただのミスだそうです』
「ミスぅ?」
『元々あの事件は路上での通り魔的と思われる事件で、路上の写真や映像が幾つか撮られていまして。それを間違って群馬県警の担当者が公開してしまって、公開情報がそれしか無かったので、マスコミもそれを映すしか無かったという事だそうで』
「誰だその担当者は。俺の全権限使って現場から下ろしてやるぞ」
『仙台孝平警部です』
その名前を聞いて潤一郎は絶句した。そして納得した。彼、いや、奴と呼ぶべきだろう、奴ならそれくらいやりかねない、いややる、と。
仙台孝平はかつて彼が群馬県警に勤めていた頃に共に捜査していた警部であり、歳は四十、彼からすれば先輩に当たる。
しかし彼には問題があった。恐ろしく無能なのである。
様々な現場を転々としつつ実績を積んでいた潤一郎から見て、彼の捜査手腕は最低の一言に尽きた。情報漏洩、証拠の紛失から誤認逮捕まで、考えうる全ての失敗を繰り広げたのではないだろうか。クビにならないのが不思議な程であった。一部には、彼の父親が警察官僚だったという事から、クビにならないのは父親に媚を売るためという噂すら流れていた。
「あれか……。ありゃあ、大変だぞ」
『はい、私も連携を取っていて困っているので是非そうして欲しいのですが……難しいですよね』
彼女もまた、彼の噂を聞いているようだった。
「分からんが、担当してしまっている以上は、こちらからも強く文句は言えん。分かった、その辺りの折衝は俺が引き継ぐ。どの道現場に行かないといけないとは思っていたしな。そっちは引き続き捜査にあたってくれ。特に被害者の関係性や、文字列……というか絵柄というか、それの解読を」
『分かりました。お気をつけて』
その言葉を聞いて、潤一郎は通話を終えた。
「はぁ」
またあの男と組まねばならないのか。彼は憂鬱な気分のまま席に戻り、鷹崎到着までの一時、千夏から送られてきた、今分かっている群馬での通り魔事件の情報について目を通す事にした。
お読みいただきありがとうございます!!
よろしければ感想・ブックマーク・レビューなど頂けましたら幸いです!!




