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4-8. 幽谷鳴斗はデュラハンと出会う・2

「まず君にお願いがある。私は今は魔王ではない。そこを理解して欲しい」


 鳴斗の部屋に戻ると、唯をベッドに寝かせて、鳴斗は椅子に座った。透明の魔法を解除されたラシーヌは、ベッドにでも座ってくれという彼の指示を無視して床に正座した。


「承知致しました。何とお呼びすれば?」


「鳴斗でいい、幽谷鳴斗という名前だから」


「鳴斗殿、承知致しました」


 相変わらず堅苦しいが、魔王よりはマシだと判断した鳴斗は、それ以上突っ込むのを止めた。


「さて……君は何故此処に居るのか、少し詳しく聞かせて欲しい。こちらに来たのは?」


「某の認識では、つい先刻の事でございます。ある者を追って旅をしている最中、某は道中で眠りこけておりました。そして目を開けると、突然あの奇怪な箱が某に向けてやってきたのです」


 車の事だという事はすぐに理解出来た。


「箱の中の人間も焦っているようなので、ともかく箱を止めようとしたところ、あのような大きな音が生じてしまいまして。お恥ずかしい事をしました」


 記憶を消す前に尋ねたが、先程の運転手は目の前にいきなり甲冑が現れた事で驚いて間違えてアクセルを踏んでしまったらしい。気持ちは分かる。


「この世界に来た原因が知りたいな。目を開ける前に何か無かったか?朧げでいい、何か覚えている事は?」


 その問いに、ラシーヌは首を横に振って答えた。


「申し訳ございません。某にも全く心覚えが御座いません。ただ……」


「どうした、何かあるのか」


 鳴斗は手掛かりが欲しかった。身の回りに原因不明の事件が二つも平行しているのは、彼の精神に結構な負担を与えていた。特にスローシャやラシーヌの転移に関しては何の手掛かりもない状況、彼としては溺れる者は藁をもすがるという心境であった。


「最近……と申しましてもここ数日ですが、元の世界で、行方不明者が時折出ているという話は聞き及んでおります。ですが残念ながら、それがこの世界に飛んでいるのか、単純に行方不明なのかについては全く分かりません」


 鳴斗は少し残念であった。そこまで有力な手掛かりとは言えない。

 

 しかし、気になる話ではある。


 スローシャが来たのは昨日、ラシーヌは今日。ここ数日の行方不明者に分類されるであろう二人がこちらの世界に来ているという事は、同じような者が他にも居るかもしれない。


「関係あるのか無いのか。ともかく覚えておこう。……ところでこれは好奇心半分で聞くのだが、君は何を追っていたんだ」


「はっ、某は同族の犯罪者、憎むべきシュマ・ラ・アーエという者を追っておりました。彼奴めは同族殺しを犯した上、秘宝として伝えられている宝玉を奪った下手人。某は彼奴を殺す任務を帯びておる次第です」


「宝玉か……。差し支えなければ教えてほしいんだが、それはどんなものなんだ?」


 半分は興味本位であったが、半分は確認であった。彼は魔王の頃の記憶――魔法以外――が殆ど無い。そのため、デュラハン族の秘宝というものが何なのか全く覚えていなかった。だが聞けば思い出すかもしれない。そういった期待を込めて、彼はラシーヌに尋ねたが、


「分かりませぬ」


 予想外の回答に鳴斗は目を点にした。


「知らないのか?」


「はい。族長にのみ伝わる秘伝の品であり、他者には全く伝えられていないものでございますので」


「スローシャめも初耳でございます」


 横からピカピカと輝く妖精が割り込んできた。


「耳の敏いスローシャめ達妖精族ですが、デュラハン族の秘宝に関しては全く噂も聞きませんです」


「……そうか。私も、その辺りの記憶は全く残っていない。となると、此処にいる誰も知らないってことか」


 誰も知らない秘宝、どの道此処で話したところで結論も何も出る事は無い。それに関する話は其処で中断となった。


「さて、これからどうしたものか」


「それに関してですが、鳴斗殿、どうか貴方様の旅路に同行させて頂けないでしょうか」


 思いがけない話であった。鳴斗は何と答えれば良いか迷ってしまった。確かに彼女をこのままにしておくわけには行かないが、さりとて自分と同行して貰うというのも、彼としてはあまり好む話では無かった。彼は元来自由気ままに一人旅をしたい人間、同行者はあまり欲しくない。


「はー?スローシャめが同行するのです、アナタのようなのはゴメンなのです」


「お前もゴメンだよ。……とはいいつつ二人共、確かに放置は出来ない。少し考えさせてくれ。とりあえず甲冑は目立つから対処させてもらう。透明よりはこっちの方がいいだろう」


 そう言うと鳴斗はパチンと指を弾いた。甲冑姿のラシーヌは一瞬で金髪の女性の姿に変化した。


「他人から見える見た目だけ変えた。……首は取らないでくれ、普通に人の首が取れたように見える」


「承知致しました。努力致します」


 そうラシーヌが答えたところで、唯が眠りから覚めた。


「う……うーん……。何か、何か恐ろしいものが、首が……」


 起き上がって唯が目をぱちくりさせている。


「……あれ、わたしは食事を……??この金髪の美人は誰?」


 突然自分の借りているホテルの一室に移動していた事、そしてラシーヌの変装体を見た事で混乱しているのが見て取れた。


「もう大丈夫だ、彼女については後で説明する。まずはテレビでも見て落ち着け」


 鳴斗はテレビのリモコンを弄ってニュースをつける。


『――9:10頃、城場で大規模な停電が発生しました。原因は落雷によるもので、現在は復旧しているとの事ですが、ミヤコドリの運転には大きな遅れが発生しています』


 あそこは踏んだり蹴ったりだな、と鳴斗は心の中で同情する。


『次のニュースです。先程よりお伝えしております通り、群馬県鷹崎市の駅前で殺人事件が発生しました。無差別の殺人と見られています』


「またですか」


 唯は溜息を吐いた。また彼女や、この間のような犠牲者が出るのが嫌だというのが鳴斗にも良く伝わってきた。先程大飯食らいをしていた女性と同一人物とは思えないような憂いを帯びた目であった。


「嫌なニュースだな、変えようか」


 そう言ってリモコンを操作しようとした瞬間、被害者の腕がチラリと見えた。


「……………………」


 鳴斗の手が止まった。恐ろしいものを見た。これも偶然なのか?いやそれとも?


「どうしました?」


 唯が鳴斗の顔を覗き込み、そして画面を見た。


「あれは……」


 呟いて唯は、自分の服の袖を捲った。


 画面に映っている腕に描かれた紋様と似たものが、唯の腕に刻まれていた。

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