4-4. 武蔵小金井潤一郎は未だ何も分からない・2
会議室ではスースーと寝息を立てて松田安芸が眠りに就いていた。
その手元には本庁に送ったらしい報告書が置いてあった。軽く目を通すが、進展は無いようであった。
「んが」
ペラペラと報告書をめくる音でなのか、安芸が飛び起きた。
「あ、先輩」
「すまん、起こしてしまったか。それに随分と寝込んでしまっていた」
「いえ、お気になさらず。僕もついそのまま寝てしまいました。――状況はご覧の通りです。青海が持っていた拳銃は彼女に支給された物でした。署の柱に突き刺さっていた弾丸も見つかりましたが、これも青海の物でした。爆破の犯人が青海なのは間違いないようですが、動機については依然不明のままです。また、爆発物を何処で入手したのか、何処へ消えたのか、その辺りは全く分かっていません」
「方法と動機、か。……伊都宮の、安留賀の事件と同じだな」
「そっちも動機が不明でしたね。今もですか」
「ああ。部下が参ってるらしい。……自分の命を捧げるような真似をしてまで人を殺し、人を狙う。一体何の目的が、彼ら彼女らに何の利益があるっていうんだ」
「……分からないですねぇ」
安芸は腰に手を当ててふぅと息を吐いた。
「全く、理解が出来ません。……しかし、理解出来ない事でも、理解しようとしなければなりません。そのためにも何か糸口があれば……」
安芸が顎を手にやってうーんと唸る中、
「糸口、ねぇ。赤坂に話を聞ければ、或いは何か分かるのかもしれないが」
「否定するようで申し訳ないのですが、以前の軽い取り調べの際は何も分からなかったんですよね。彼女自身はやはり何も知らないのでは」
「そうかもしれない。だが、命を狙われたり、襲われたり、彼女を中心に事件が起きている事は確かだ。……ん?」
自分で口にした言葉に、潤一郎はふと違和感を覚えた。
「どうしました?」
「……高松は殺そうと思えば赤坂を殺す事は出来た。前橋もそうだ。銃弾はあったのだから、その場で射殺する事も出来た。しかし、しなかった。何処かに連れて行こうとした節はあるが、殺す素振りは見せなかった」
「そうですね」
安芸は顎に手を当ててふむと考え込んだ。
「あれ、でも、昨日の署内の爆破事件。あの時、青海は赤坂さんを殺すつもりだったとしか思えません。彼ら彼女らが組織だって動いていると仮定すると、辻褄が合いませんね」
「そもそも青海はミヤコドリの中でも赤坂を狙ってはいなかった、ように見える。……赤坂を狙っているという点で同じ考えの人間達が絡んでいると思ったが、もしや二つのグループが存在するのか?」
「殺す方針のグループと、生かして連れて行こうとするグループの二つ、ですか?……確かに可能性はあります。確定とまでは言えませんが」
「そうだな、そこまで行くと性急すぎる。だが可能性の一つとして、考慮すべきだ。それと……犯人が警察官の事件があるという点も」
安芸は溜息を吐きながら、伊都宮署と城場臨海署の事件のデータを広げた。
「署内の発砲事件が二件もあるのは、明らかに異常です。警察内部にも犯人のグループなのか、それとも犯人そのものなのか、入り込んでいるのは間違いありません」
「そうだな」
「加えて……これは僕の想像ですが」
安芸は自信なさそうな声で、顎に手を当てて、潤一郎に自分の考えを提示した。
「多かれ少なかれ、警察の威信や信頼を削ごうという考えもあるのではないでしょうか」
「ふむ」
その意見には理解出来るものがあった。昨日の前橋の件もだが、特に今回の爆破――未遂と表現するのが適切なのだろうか――事件では、警察署という場所を狙った面も感じられる。爆破により殺す事を目的とするならば、ミヤコドリでも出来たであろう。警察署で爆弾を持ち出すという点に意味があるとすれば、警察の信用失墜を目的としていると考えれば確かにしっくりくるものがある。
「その可能性もある。が、それだけが原因と捉えるのも早計だ」
「ええ。その辺りを固めるためにも、糸口を得なければならないというのは間違いありません。……先程はああ言いましたが、やはり先輩の言う通り、少なくとも三つの事件に関係している、赤坂について調べた方が、何か掴めるかもしれません。勿論、他の捜査も平行しますけどね」
「そうだな。まずは本当に彼女が関わっているかどうかの確認をしよう。昨日の爆破事件の、赤坂らしき人物の映像を見せてくれ」
そう言いながら安芸のパソコンの中の資料を漁る。
「えっと、これです。正面からの動画はありませんでした」
そう指差した動画ファイルを再生すると、赤坂が爆風で消える直前の映像が映っていた。背中からの映像で、消える直前、服の袖が千切れるのが薄っすらと見えた。それと、何かが。
「ん……?」




