4-3. 武蔵小金井潤一郎は未だ何も分からない・1
[2019/6/6 7:50 東京都砺波区 城場臨海警察署]
ビービービー。
スマホのアラームが鳴り響く。
「がー……んんん……」
ビービービービービー。
反応が無いせいで延々とアラームは続く。
「だぁ…………むぅ……………?」
ピシャァン!!
スマホの音とは全く無関係の、激しい雷鳴に驚き、仮眠室で眠っていた武蔵小金井潤一郎は飛び起きた。
「あ、あ?なんだ?」
寝ぼけ眼で仮眠室から外を見る。空は真っ黒で、雨が激しく降り、そして雲の隙間から光を覗かせながらゴロゴロという音が鳴り響いている。
「雷雨か……。しかも近いな」
この城場臨海署に落ちたらどうなるだろう。パソコン上で編集していた書類は消え、連絡がつかなくなり、下手をすれば取り調べ中の――。
そんな事を考えて、少しばかり恐怖を覚える。
潤一郎は頭を振った。最悪の可能性ばかりが浮かぶ。
それより今は何時だ。疑問を解消すべくスマホの画面を見た彼は愕然とする。
二十時頃眠りに就いたはずが、今は七時、いやほぼ八時といったところ。
「寝すぎた」
大凡12時間。健康的な生活を送る上での睡眠時間を超えてしまっている。本来それは咎められる程の行為ではないが、何分彼の立場がそれを良しとしない。松田は朝まで休んで良いとは言っていたが、そうもいかない。まだ事件は解決していないのだ。
飛び起きて荷物をまとめて走り出す。スマホを見ると幾つかの通知が入っていた。松田安芸からは無かった。彼が一番大変だろうにと思いつつ、仮眠室から急いで会議室――署内爆破事件の捜査本部へと向かう。
途中で通知、それが示すメールを確認する。
二通来ていた。一つは轢き逃げ事件を担当している高崎千夏、もう一つは駅員殺害事件を担当している大宮昴からのものであった。
まず千夏のメールを確認すると、昨日時点での轢き逃げ事件に関する捜査状況の報告であった。
轢き逃げについて現時点で、被疑者特定に関わる発見は無し。魔法陣か落書きか分からない紋様に関しても、引き続き情報収集中。それ以外の被害者の共通点は無し。被害者の内、紋様が描かれた一人は安留賀駅周辺に住んでいて、もう一人は出張で近くのビジネスホテルに泊まっていたという事は判明したが、それ以外に共通事項らしきものは、やはり先の紋様のみだという事であった。
ただし、一件気になる目撃証言を得たという。それは、赤い服の女性がそのバスの近くを通っていたというものであった。
赤い服。
普通なら「そんなの普通の事だろう」と一蹴するところだったが、潤一郎は引っかかるものを覚えた。それは千夏も同様であったらしい。
メールの続きには、その目撃者の証言によると、赤い服の女性というのは赤坂唯の顔に似ていたという。勿論、まだ確定では無い。他の証言からも裏付けを図るという文面でメールは終わっていた。
潤一郎は、その女性は唯の可能性が高いと考えていた。根拠は無い。あくまで勘である。しかし、ここまで不可思議な事件が続き、轢き逃げ事件以外全てに赤坂唯という女性が絡んでいるという状況で、轢き逃げ事件に赤い服の女性が絡んでいるとなれば、それが赤坂唯でない可能性の方が低いのでは無いかとすら考えていた。わざわざ「赤坂唯とは確認出来ていない」という報告をしてきた時点で、恐らく千夏もそう考えているのだろう。
となると、問題はその唯の居場所となるが、果たして。
それは安芸に聞くしかないと割り切って、潤一郎は二通目のメールに目を通す。
昴からのメールも千夏と同様、駅員殺害事件の捜査状況についてであった。
だがこちらは成果に乏しく、被疑者である高松洋介と前橋累の家宅捜索を実施、物品を押収したものの、動機に繋がるような物は見つかっていないという事であった。
各人が持っていたスマホについてはセキュリティロックの解除中で、完了にはもう少し時間を要するらしい。もどかしいが、それを待つしかないというのが、彼の文面に現れていた。
結局の所、どちらの事件も大きな進展は無い、というのが実状であった。赤坂唯が関係する可能性の浮上は一つの手掛かりではあるが、それも未確定である以上、大きな進展とは言えない。
「仕方ない、か」
今は向こうは待つしか無い。となれば、自分が出来るのは、赤坂唯という大きな手掛かりを追う事だけだ。




