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4-2. 幽谷鳴斗は朝食を摂る・2

「いやその、全く。この魔法陣、少々複雑がすぎるのです。少なくとも相当難しい魔法を発動させようとしているという事しか分からないのです」


「難しい魔法、ねえ」


 鳴斗の記憶には魔法陣が必要となるような魔法について思い当たる節は無かった。彼は大概の魔法を詠唱なしで発動出来、それ以外で困った記憶が無いためであったが、となると、余程特別な魔法である可能性が高い。


「なーにしようとしてんだかなあ」


「全く困ります。何れにせよ、スローシャめは引き下がれません、引き続き解析は進めてみます」


 そう言うと珍しく彼女は自主的に頭を引っ込めた。


「今のところ手掛かりは無しか」


「困りましたね……。でも鳴斗さんがいるから大丈夫ですよね!!」


 白米を口元につけながら、キラキラとした目で唯が彼を見つめた。


 彼は悪い気分では無かった。人との関わりが殆ど無かった彼としては、頼られるという経験は少なかった。そうした事情もあり、今の唯の視線というのは、なかなか心地の良い物のように感じられた。


「ハハハ。まあ任せ給えよ。私が居るんだから余裕よゆ」


 キキーッ、ドカン。


 調子に乗ろうとした出鼻を挫くように、ホテルの外から何か大きな音が聞こえた。


「……また?」鳴斗が言い、


「また、ですか?」唯が嘆き、


「またなのですか?今の音はもしや、また何か起きたのですか?」スローシャが若干高揚したような口調で言った。こいつちょっと今の状況楽しんでないか?と鳴斗は思った。


 ちょうどビュッフェの会場は一階で、人一人のサイズがある窓から外の様子を眺める事が出来た。彼はそちらの方を向く。


 車が何かが激突しているのが見えた。ひしゃげたボンネットから煙が上がっている。ホテルのまさにこの会場に向いて突っ込む所だったようで、車が激突した何かが無ければ危険だった事は明らかであった。


 問題はその何かである。それは今もそこに立っていた。


 立っていたといっても柱では無い。いや、一見して柱にも見えなくはなかった。それほどまでに、自家用車が激突したにも関わらず、それは平然とそこにあり続けていた。


 それは鎧であった。いつの間にこんなものが置いてあったのか。鳴斗が食事を取って席に戻ったときには確か無かったはずである。そんなものが何故。


 と、その時。


 ギギギギギギ、という音を立てて鎧が動き出した。


「ひぃっ!?ップ」


 思わず唯が高い声を上げた。同時にゲップも出た。


 動き出した鎧はそんな彼女の行動を無視して、窓のガラスに手を当てた。


 ガシャァン!!


 腕力故か、鎧の籠手がガラスにちょっと触れたかと思うと、そのガラスは割れてビュッフェ会場の窓際に飛び散った。


 鎧を見ていた者も、鎧に気付いていなかった者も、全員の視線がいっぺんに窓際を向いた。


「きゃぁーっ!!」

「なんだ!?」


 思わず声を上げる者もいる。


 だが鎧は気にも止めずに前進しようとして、窓の縁に足を引っ掛けて体勢を崩した。


 瞬間、鎧の頭部が、宙を舞い、山盛りになった唯の白米の上にちょうど乗っかかった。


「           」


 首とちょうど相対する形となった唯は声も上げられず白目を剥いている。気絶したようであった。ここまで見事な気絶の仕方をするのを見るのは鳴斗も初めてで、少し驚いた。


 が、驚くのはそこからであった。


 首がグググと回転し、自分の、鳴斗の方を向いた。


 何が起きているのか分かりかね、ただ鳴斗は呆然とその姿を見つめるしか出来ない。


 そして、


「あたた」


 騎士の兜から女性の声が轟いた。


 そして近寄ってきた兜のない甲冑が、その兜をむんずと掴むと自分の頭の部分にグリグリと押し付けた。


 瞬間、耐えきれなくなったのか、ビュッフェ会場から恐怖の声が上がると同時に、ホテルの従業員も含めた殆どの人間がそこから出ていった。


 後には鳴斗とそのポケットに入り込んで状況が掴めていないスローシャ、そして白目を剥いて卒倒した唯だけが残された。


「大変申し訳ございません」


 甲冑が鳴斗の方を向いて言った。


「あの箱が突然ぶつかってきたのですが、箱の中の方はどうも怪我をしているようです。某、そうした魔法には不慣れでございます。貴方様は大変な魔力の持ち主とお見受け致します。どうか、代わりに助けて頂けないでしょうか」


 鳴斗は頭を抱えた。


 状況がいまいち掴めないが――とりあえず、また朝食の食べ直しが確定した。

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