4-1. 幽谷鳴斗は朝食を摂る・1
[2019/6/6 8:20 群馬県鷹崎市 鷹崎駅近くのビジネスホテル]
「ふわあ」
赤坂唯は大きく欠伸をしながら、朝食ビュッフェを自由に取っていた。
「…………あー」
それを見ながら幽谷鳴斗は呆れていた。
ビュッフェ。所謂バイキング。自由な量を取っていいという、大変気前が良いが元を取るのは難しい物であるというのが彼の認識であったが、眼前の女性たるや、大食いファイターか何かかと思える程にそれはそれは自由に、大量に白米からおかずまでを確保していた。他の客が文句をつけようとして、その量を見て口をつぐんでしまう程に。
がめついというか、多分無料だからと欲張っているのだろうと、何となく予想がついた。短い付き合いではあるが、彼女はケチで金に煩く、無料や奢りという言葉に激烈に反応するという事だけは何となく理解出来ていた。全く自分の周りにはロクな奴が居ないな、と心の中で彼は嘆いた。
「スローシャめは何か悪口を想像されているような気がします」
ポケットからスローシャが顔を出した。
「そんな事は無いからとりあえずパンでも食って入ってろ」
そう言って誤魔化し、彼はスローシャを押し戻す。
「お待たせしました。ふぁぁ……」
大きな欠伸をしながら、唯は鳴斗から見て彼女の顔が顔が見えるか見えないかといった盛り方がされたトレイを置いた。
「昨日はよく眠れたかい」
「はい。別の部屋にしてくれましたし、あれこれやってくれたので、ここ数日で一番よく眠れました」
あれこれとは、何らかのよろしくない行為ではなく、魔法での結界の構築等、彼女の身を守るための行為である。他人の目があるので唯は口に出さなかったようだが、鳴斗はその配慮は有り難いと思った。ただでさえこの山の如きトレイに盛られた食物の量で人目を惹いている。下手に他人に聞かれて問題がありそうな事は伏せてもらった方が良い。
――出来れば、別の席に座ってほしかったが、流石にそれは口にしなかった。
「それは良かった。……で、それ全部食べるの?」
「勿論です。無料ビュッフェとなればこのくらい食べないと勿体ないですから。無料ですよ無料。貰えるだけ貰わないと損というものです」」
「……ああ、そう。残さないでね」
鳴斗は慎ましく納豆ご飯をかき込み、焼き魚を口にして、大量の食物が凄まじい速度で減っていくのを見ながら、無用なお願いだったなと思いつつ、その壮絶な食欲というかがめつさというか、溢れる欲望にもはや呆れ果てる事しか出来なかった。
「さて今後の方針だが……その前に改めて、昨日はすまない」
鳴斗は頭を下げて、昨日の事を思い出す。
あの時は極めて愚かであった。古宿駅の乗り間違いは良くある話、気をつけておくべきだったというのに、完全に間違えていた。
まだ昼過ぎという早い時間だったので、あのまま栃木に向かう事も出来たが、二人共疲れ果てていた。そのため近くのビジネスホテルにチェックインし、魔法で守りを固めた上で、早々に寝てしまっていた。
「いえ、まあ乗り間違い乗り過ごしは良くある事ですから……」
「そうは言っても……いや、今更どうこう言っても仕方ないか。気を取り直して、今日こそ栃木に向かう事にしよう」
「そうですね、それがいいです」
唯はものすごい勢いで白米をかき込みながら言った。
「鳴斗さんも食べて下さい。空腹だと魔法使えないんでしょう?」
「いや、これでも結構食べてる方だと……思うんだが……そうでもない、のか?」
鳴斗は自分の空になった皿三枚と白米の茶碗二つを見つめながら言った。和洋折衷の様々な――手頃な――おかずをたっぷり摘んで二膳。結構な満腹具合で、そうとう大規模な魔法を使わない限りは一日足りるだろうという感覚を持っていたが、眼前でそれ以上の量を食べている唯の姿を見ると、自分が少食なのだろうかという錯覚を覚える。
「……まあいい」
食べ過ぎも良くない。肉体年齢は若いのでまだ内蔵に負担は掛からないだろうが、それでも過度な飲食は体調を崩すし、体重も増える。
「で、スローシャ、何か分かったか?」
話を変えるため、スローシャに魔法陣解析の状況を尋ねる。呼ばれてスローシャは鳴斗のポケットから顔を出した。
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