3-18. 武蔵小金井潤一郎は途方に暮れる・2
被疑者と思われる女性は死亡。彼女はこの署の巡査、青海美恵子。悪い事に、最初の事件、ミヤコドリの催眠事件で腕を切断――という表現が正しいかは分からないが――された人物であり、赤坂唯、或いはモザイクの男を殺そうとして発砲した犯人でもあった。そんな彼女は、大規模な昏睡事件の方で手一杯になり、その隙に逃げられ、挙げ句爆弾を爆破させた上で自殺した。
この時点で既に警察の威厳もクソもあったものではない。
そして分かっているのは此処まで。後は本人の自供が必要であったが、それより前に彼女が――それはそれは派手に――爆破という形で死んでしまったために、聞き出す事は出来ない。
そうなると、安留賀の駅同様、重要参考人たる赤坂唯を見つける事が最優先という事になる。安芸とも相談の上、この結論に至った。
が、こちらも現在頓挫している。
防犯カメラの映像では彼女或いはモザイクの男が殺されかけた後、忽然と姿を消している事だけが分かった。それ以降の足取りは全く掴めない。モザイクの男も同様で、逆にモザイクで目立つかと思ったが、全く見つからない。二人共、完全に、消えてしまったかのようであった。
睡眠状態に居た乗客に聞き込みをしても、「そんな女が居た記憶は無い」の一点張り。敢えて隠しているという気配も無い。まるっきり彼女とモザイクの男に関する記憶が失われているとしか思えない、そんな口ぶりばかりであった。
署内の爆破事件でも同様である。玄関から入ってきたと思うと、いつの間にか消えていた。消えた瞬間を見た者はおらず、爆風で吹き飛んだという可能性も、彼女の血一滴すら落ちていない事から可能性は薄い。
彼女、そしてモザイクの男は、何か手品か、それこそ魔法か何か使われているのではないかと思う程に、綺麗に姿を消していた。
「……魔法?はは」
有り得ない可能性が頭に浮かぶ。疲れているのだろうか。――疲れていないわけが無い、栃木では寝ずの捜査、東京に来てからもあれやこれやで振り回されてばかり。体も頭も限界が近い。
「うう、ああ、もう」
思わずうめき声が口から漏れた。と同時に、会議室のドアを開ける。
「どうしました先輩」
安芸がカタカタとパソコンで報告書――或いはマスコミ用の更なるカンペ――を作っている。
「分からん。何も分からん。……どうも予想以上に疲れているらしい」
潤一郎は堪え切れず弱音を吐いた。
「仕方ありませんよ。手掛かり一つ見つからない。被疑者は尽く死んでいくし、重要参考人は行方不明。目撃者は全員記憶を失っているとなれば、どうすればいいか分からないというのも頷ける話です。僕も……疲れました」
ふぅ、と安芸は溜息を吐いた。
「僕達の署での事件に巻き込んでしまってすみません。先輩は少し休んで下さい。朝から移動し続けでお疲れでしょう」
そう言うと安芸は仮眠室を指差した。
「あちら使って頂いて大丈夫です。ホテルに行くよりは今は署内で過ごした方が良いでしょうし。朝までゆっくりして下さい」
未だ玄関先にマスコミが張り込んでいる事を指しているのだろう事は今の潤一郎の頭でも理解出来た。
「そう、だな。……すまん、歳だな、俺も」
「気になさらないでください。僕ももう少し――本庁が納得出来そうな報告を書けたら寝ますから」
「分かった。悪いが、少し寝かせてもらう」
そう言って潤一郎は仮眠室に入るなり、ばたりと布団に倒れ込み、服を着替える事もなくそのまま眠りに就いた。




