3-17. 武蔵小金井潤一郎は途方に暮れる・1
[2019/6/5 20:00 東京都砺波区 城場臨海警察署]
武蔵小金井潤一郎は、今日東京に来た事を後悔していた。
誰が悪いというわけではない。強いて言えばこんな所、この日本で、爆破事件なんていうものを引き起こした奴が悪い。後輩で上司の松田安芸が平謝りするので彼はそう言ったが、内心では引き起こした犯人を、許されるものであれば、徹底的に打ちのめしてやりたい、そう思わずには居られなかった。
何故そのような思考に至ったかと言えば、潤一郎は、通常業務の時間を超過する二十時現在も尚、マスコミや警視庁に向けた報告の整理をさせられているからであった。
起きた事件の規模だけに致し方ないという点は、潤一郎自身理解している。
今日起きたのはまずミヤコドリの乗客全員が一斉に眠りに就くという不可思議な事件。現時点で犯人は不明、死者も怪我人もゼロではあるが、何故万が一、これが未確認の毒によるテロだったとすれば、今後再発の可能性は捨てきれず、最悪のケースとして、強い毒が使われて死者が出るという事に至ったとしても不思議では無い。本庁もマスコミも大騒ぎしている。
だが二番目の事件は更に騒ぎが大きい。この城場臨海警察署の玄関で――最も事件が起きてはならないであろう場所で、更によりにもよって爆弾事件である。幸い死者はゼロ、軽症多数で済んだ――今の潤一郎には、不謹慎と分かっていても、済んだという表現しか出来ない。万が一死者が出ようものなら、今の比では無いほどの騒ぎになっていたであろうからだ。
署の前にはマスコミが駆けつけ、ほぼ常にフラッシュが炊かれている。今も窓の外が、まるで花火でも上がっているかのように光輝いている。仮眠を取るというタイミングで窓を開けていたら間違いなく眠れていないだろう。
署の電話はクレームと本庁からの問い合わせが多数でパンク状態。ほぼ全ての電話が常に鳴り続けているか話し続けているという悪夢のような状況である。
そんな状況であるから、ある種客人のような立場の潤一郎すら、特に二番目の事件の事後処理に駆り出されているのが現状であった。
よりによって自分が居る時に、何故このような、大きな事件が起きてしまうのか。思わず大きな溜息を吐く。
俯きながら廊下を歩いていると、誰かとすれ違った。
その男は、私有のスマホにすら電話が掛かってくるんだよ、と嘆いてきたので、潤一郎は同情したが、よく見るとそれはこの城場署の署長、台場昭彦であったので、彼は同情するのを止めた。
「それよりマスコミ対応のカンペ読み込んでおいて下さい」
そういうと昭彦は答えた。
「ははは……安心したまえ、一言一句全部……読むから大丈夫だ」
何が大丈夫なのか。潤一郎は怪訝な顔をしたが、昭彦は慣れているのか、全く意に介していないようであった。
「しかし君……武蔵小金井クンだったか。すまんね。単に情報収集で来たっていうのに巻き込んでしまって」
「いえ、こうなっては仕方ありません。しかし他の人々が無事で何よりでした。その後始末くらい軽いものです」
潤一郎は心の中に抱く二つの思いの内、綺麗な方をスラスラと口にした。
その答えに満足したのか、昭彦は「では引き続きよろしく。向こうにはちゃんと話してあるから」と言ってカンペとスマホを手にしたまま歩いていった。歩きスマホは注意すべきだったかもしれないが、そのような余裕は無かった。
話は通しているというが、果たして何処まで通っているのか。分からないが、今は目の前の巻き込まれた事件の整理をせねばどうにもならない。本庁が連絡してくるのも理解は出来る。こんな事件、早く解決しなければ、警察の威信に関わる事態だからだ。
「とはいえ……結局何の手掛かりもありゃしないしなあ」




