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3-16. 幽谷鳴斗達はおやすみなさい

「またとんかつサンドか……」


 グリーン車の椅子に腰掛けて、鳴斗は手元のサンドイッチを持って不満気な顔をしながらモキュモキュとそれを頬張った。


「いただきます」


 唯は手を合わせた後、それを口に入れて上品に噛み締めた。一箱六切れのサンドイッチを、一瞬で。


「…………何、大食いファイターか何か?」


「そういうわけではないんですけれど、私はこう……奢りと聞くとどうにも食べたくて仕方なくなるのです。おかわりいいですか?」


「いいわけないだろ。私のも食べるつもりか。そのうち車内販売でも来るかもしれないから、それを待っていなさいな」


 鳴斗もさらりと平らげると、彼は同じくコンビニで購入したノートにさらさらと唯の右腕の魔法陣を写していく


「流石魔王様。上手いですね」


 スローシャがスケッチを見ながら言った。


「まあこういうのは得意でね」


 そしてパチンと指を弾くと、そのノートの切れ端が小型縮小化していく。


「じゃあスローシャ、ちょっと見ておいてくれ」


 縮小化した紙を渡して鳴斗が言った。


「分かりましてございます!!お任せ下さい!!ですので魔王様が世界征服の暁にはスローシャめを取り立ててですね!!」


「世界征服なんてしないからダメ。だがまあちゃんと言う事を聞いていれば食いっぱぐれないようにはしてやるよ」


「わーい!!これでスローシャめの立場は安泰というものです!!」


 スローシャは喜び勇んでその魔法陣をポケットの中で解析し出した。


「まったくでかい声だしやがって」


 幸い昼間、この時間帯のグリーン車は大変に空いており、三人以外には居なかった。


「じゃあ……とりあえず……」


 安留賀に行くにしても、ここ古宿から出ている電車で安留賀に止まるものはない。一度伊都宮に行ってから、各駅停車で安留賀に向かう事になる。その間約二時間。朝からのドタバタで鳴斗は疲れていた。


「寝るから、安留賀に着いたら起こしてくれ」


 そしてパチンと指を弾いた。特に何も起きたようには見えない。


「君にバリアは張っておいた。何かあっても大丈夫だ。窓際だし問題はないだろう。そういうわけで、おやすみ……」


「あ、ちょっと、魔王とか魔法とか改めて聞きたいんですけれど」


 その気持ちは鳴斗にも勿論わかっていた。目を見れば狼狽え続けで何が何だか分からないという様子であることも。しかし、今は口を開く事すら躊躇したい程度に疲れていた。そのまま目を瞑れば、鳴斗は寝息を立てて深い眠りに着いてしまった。



「んもー」


 改めて聞きたい事は山ほどあるのに、眼前の男は完全に寝てしまっている。


「スピー」


 ポケットの中からも寝息が聞こえた。おそらくはそういう事だろう。なるほど鳴斗が辛辣に扱うのも理解出来るというものである。


「ふぅ」


 唯は一人息を吐く。そして横の男の安らかな寝顔を見て、呑気だなあ、などと思いつつも、自分もそうしたいという欲求に駆られる。


 思えば昨日から緊張の連続であった。東京に戻ってきてからも襲われるのではないかという恐怖を拭い去る事が出来ないでいた。


 今もそれは変わっていないのは分かっている。結局、狙ってくる相手が誰なのか、真の目的は何なのかが分からない以上、油断は出来ない。


 が、それはそれとして。気を張り続けるというのは何とも疲れるものであったし、実際大変に疲労していた。


 彼にバリアとやらを張られて安心は出来るようである。となれば少し、少しくらい、気を緩めても良いのではないだろうか。


 唯はその考えに行き着くと、目をゆっくりと閉じていき――

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