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3-14. 幽谷鳴斗は考える・1

[2019/6/5 13:00 東京都古宿(こじゅく)区 古宿駅付近]


 幽谷鳴斗と赤坂唯、そして妖精スローシャがワープした先は、往来の激しい古宿駅のビルの前。かつてはここから昼の番組が流れていたが、今は無い。それでも人の行き来は相変わらず激しく、途中から入り込んできた鳴斗と唯に全く気付いていないようであった。


「ここならば大丈夫だろう。ただスローシャは飛ぶと目立つから中に入れ」


 鳴斗はそう二人に言うと、まずスローシャをポケットに仕舞い、唯と共に歩き出した。傍から見れば、変なTシャツの男と赤い服の女というカップルにしか見えない。


「ふへぇぇぇぇぇぇぇぇ」


 ポケットから顔を出したスローシャが間の抜けた声を上げた。


「黙ってろ」


「いや、しかしですね、スローシャめはこんな見たこともないですよ!!」


「当たり前だろ、この世界はそっち(ジュラ・オスタ)と文化的進化形態が違うんだから。ほら、さっさと入れ」


「むぎゅう」


 鳴斗がスローシャを押し込む。スローシャは潰れるように不満気な顔でポケットの中へと入っていった。


「さて、ここからまず駅に向かって、……どうしようかね」


 鳴斗は歩きながら顎に手を当てて考え始めた。


「逃げた方がいいのか、それとも、狙われる理由を探った方がいいのか。出来れば両方がいいのだけれど、しかし当てが無いのが何ともね……ん」


 鳴斗はふと唯の方を見て、足を止めた。


「ど、どうしました」


 唯はどうにも状況についていけず、半ば呆けていたが、その視線を受けてハッとなったようで、鳴斗と目をあわせた。


「……」


 だが彼女の視線は気にせず、鳴斗は唯の右腕をじっと見つめる。


「あの、腕が、何か」


「破片が届いていたのか服だけが切れているな」


 唯は見られている腕を見る。確かに気づかなかったが、自分の赤い服の袖が千切れていた。


「も、もう少しで腕が切れてたってことですか」


「かもしれないが、問題はそこではない。……この紋様はいつから?」


 そういって鳴斗が指差した先には、タトゥーのように腕に刻まれた紋様があった。黒い円と文字、そして複雑に入り混じった線で描かれたそれは、魔法陣のように見えた。


「あ、ああ、これですか?……昨日からです。昨日……、いや、一昨日の夜、寝る前は無かったと思うんですが、昨日起きたら描かれてました。洗っても落ちなくて困ってるんです。全く見覚えも無いですし、なんで出てきたのか……」


 唯はそう説明した。その言葉に嘘は無いと鳴斗はわかる。しかし、見過ごせない。


「……私には見覚えがある」


「え?」


「スローシャめにもございます!!スローシャめの世界にございました!!」


「え?」


「煩い」


「むぎゅ」


 いつの間にか飛び出していたスローシャの頭を、鳴斗は再び押し込んだ。


「さて……実際のところ、スローシャの言う通りだ。私も朧げではあるが、これと似たようなものを見た。私が転生する前に居た世界、『ジュラ・オスタ』で」


「……熱でもあります?最近春の割に暑いですし」


「本気だよ」


 歩行者の信号が『ピッポ―』と青信号を告げる。


 歩きながら鳴斗は指を鳴らすと、軽い布を作り出し、まるで手元のポケットから出てきたかのように装った。


「巻いておいてくれ。見つかると面倒だ」


「は、はい」


 唯は急いでそれを受け取ると、自分の二の腕にそれを巻き付けて、魔法陣を隠した。


「さて……魔法陣というのは、往々にして儀式に用いられる」


「儀、式」


「どのようなギミックで君が選ばれ、君の腕にその魔法陣が刻まれたのか、それは一旦おいておこう。解読してからでなければ特定が困難だ。だが、昨日それが刻まれ、昨日から君が狙われている、そこから考えて、君が狙われる理由がその魔法陣にある、というのは飛躍のし過ぎでは無いと思う。少なくとも、可能性としては有り得る」


「そう、ですね。……いまいち、現実味が沸きませんけれど」


「それは仕方がない。魔法なんてこの世界には存在しないと思うのが普通だろうから。だが、ともかく、君が狙われる理由として考えられる候補の一つは垣間見る事が出来た。まずはこれを解析する、そこから始めよう」


「はい」


「ではまずホテルに入ろう」

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