3-12. 武蔵小金井潤一郎はただ困惑する・1
[2019/6/5 13:00 東京都砺波区 城場臨海警察署]
武蔵小金井潤一郎が階段を降りて玄関に到達すると、そこには不可思議な光景が広がっていた。この二日間で何度不可思議な光景を見ただろうかと思い返すが、そろそろ数えられなくなってきていた。脳が疲れているだけかもしれないが。
光景に思考を戻す。
玄関の机や看板、ポスターがぐちゃぐちゃに吹き飛ばされていた。景観用に飾ってあった植木もバタンと倒れて土が散らばっている。散らばった荷物や小物類で傷を負った人々が多数。部下に当たる警官達も転んで怪我をしている。
彼ら彼女らも勿論心配であるが、やはり目を引くのは、玄関口に倒れている女性警官であった。彼女は銃と起爆装置らしき物を手にして、頭から血を流して倒れている。
彼女の安否を確認しようと近付いている警官に「どうだ」と尋ねる。彼は彼女の手を取り、脈を測って、そして首を横に振った。
「爆弾でしたか!?爆弾は何処に!?」
追い付いてきた松田安芸が尋ねる。
「う……」
吹き飛んだ机がぶつかり頭を痛めた警官が答える。
「わかり、ません、その女性警官が、赤い服を着た女性に向けて、何かを投げていました。そしたら突然、爆風……?が吹き荒れて、頭を打ちました」
そういう警官の肉体には火傷の跡は無かった。辺りを見回しても、火薬の焦げるような匂いはするものの、何故か火傷している者は居ない。怪我も最小限という印象で、飛んできた細かな物品による切り傷が殆どである。不幸中の幸いというべきだろうか。
「分かった。安静にしていろ」
答えた警官をゆっくり寝かせた後、潤一郎は安芸に言った。
「その”何か”が爆弾の可能性が高いな。破片を探そう」
潤一郎は率先して彼は這いつくばって辺りを調べだす。安芸は頷くと、現場の職員――署内から異変を聞きつけて駆けつけた者も含む――へ、怪我人の搬送その他細かな指示を出す。
数分もすると、混乱に溢れたこの現場に、若干の秩序が生まれた。
しかし、潤一郎の顔は晴れない。
「なーーーーーーーーーーーーんもないな」
確かに什器類は散乱している。しかし、爆弾の破片らしき物は、爆心地と思われる箇所に突き刺さった数点を除くと、全く見つからなかった。まるで消えてしまったかのように。
「怪我人も皆爆風で傷ついた方ばかりです。爆弾の破片で傷ついた方はいませんでした」
「どうなってるんだ?それにこれ」
潤一郎が視線を向けた先に、安芸も目を向ける。
爆心地らしき場所の近くに、くっきりと足跡が残っていた。――正確には靴のあった跡、爆風が通り過ぎた時にここに誰かが立っていたという跡である。
「ここにいた人間なんてモロに破片を浴びたはずだ。該当する被害者は?」
安芸は首を横に振った。
「そうか……。……わからん。一体なんなんだ」
他に手がかりが無いか探すと、壁に撃ち込まれた弾丸を見つけた。
「これは?」
「あの女性警官が撃ったという証言がありました。赤い服の女性に向けて」
「赤い服……まさか?……ありえんでも無い、かもしれないが、しかし……」
潤一郎が結論を出し倦ねていると、安芸の部下がパソコンと共に防犯カメラの映像を持ってきた。
「こちら、署内の爆発事件当時の映像を切り出したものです。ここの女性、例の件の女性ではないでしょうか」
そう言って部下は一箇所指を差す。
爆心地らしき場所の近くに立っている女性を。
それは赤い服を着た、潤一郎には見覚えのある女性であった。
「……赤坂、唯だ……」
潤一郎は絞り出すように言った。




