3-11. 幽谷鳴斗はやってくる・2
「ひっ……」
唯は泡を吹いて今にも倒れそうにガクガクと足を震わせた。
「……もう死んでいる。即死して魂が抜けている。もう助けられない」
鳴斗はその女性に近寄ると、冷静に状況を確認して言った。
「魔力は感じられない。こいつは魔法を使えない。爆破スイッチと同時に自殺を図ったみたいだな。良かったのか、悪かったのかはなんとも言い難いが」
「た、助けられないんですか」
「無理だ。私もこいつに事情聴取したいところだけれど、それは出来ない。魂が抜けてしまっては、この肉体の時間を戻しても魂は戻らない。世界全体の時間を戻せば出来なくはないが、生憎私に出来るのは時間停止だけだ。尤も、時間逆行が出来る人間――魔物も含めても、そういう生物は存在しないけれど」
「そういう、ものなのですか……」
唯には魔法が分からない。なので、ただそういうものだと理解する事しか出来ない。
「……どうやら警察も確かに信用できないらしい」
そういうと鳴斗は唯に向き直る。
「どうする?」
「どうする、とは……」
「この後だ。君はどうやら狙われているらしい。しかしその原因は分からない。そして警察も信用は出来ない。その状況でどうするか、という話さ」
「……どうすれば、いいんでしょう」
唯は肩をすくめて言った。
「もう私にはどうしようもないです。わからないんです」
「じゃあ、私と来るか」
鳴斗の言葉に、下を向いていた唯の視線がぐいと上がった。
「い、いいんですか」
「えー、こんな女を連れ歩くんですか鳴斗様。こんな女が好みなんですか鳴斗様」
「うるせえそういうんじゃないわい」
鳴斗はスローシャを叩き落とした。
「ぎゅえ」
彼女はハエの如く地面に叩きつけられた。なお、妖精族は見かけの割に頑丈であり、この程度では傷一つ負うことはない。
「全く。……勘違いしないで欲しいので改めて言っておく。好みとかそういう話ではない」
それは彼の本心であった。
「私としては君を見捨てるのは申し訳ないし、自分としても目覚めの良い事ではないから、原因調査と用心棒代わりという事で助力したい、そう思って申し出ているだけだ。迷惑なら――」
「め、迷惑だなんてそんな。わたしとしても先程お話した通り、是非お願いしたいところでした!!助けて下さい!!」
唯の懇願に、鳴斗は首を縦に振る。
「ここまで話が大きくなると流石にな。『後は頑張れ』なんて言って見捨てる事も出来ない。出来る限り助けよう」
鳴斗がそう言うと、唯の目に涙が浮かんだ。
「あ、ありがと、ありがとうございます……グスッ」
また唯の目から雫がこぼれ落ちる。
「もう、どうすればいいか、本当に……これで見捨てられたらどうしようかと……」
「過度な期待はしないでくれ。私は警察でも探偵でも無い。用心棒とは言ったが、元々そういう職に就いているわけでもないんだ。……だけどまあ、最善は尽くすよ」
そう言って鳴斗は手を伸ばした。
「改めて、幽谷鳴斗だ、よろしく」
唯はその手を取った。
「赤坂唯です。どうか、よろしくおねがいします」
二人の握った手に、極めて小さい手が添えられた。
「スローシャです、よろしくです」
「……え、お前も着いてくるの」
鳴斗が嫌そうな顔で尋ねた。
「当然です!!スローシャめは行き場がございませんで、もうまお……鳴斗様に着いていくしかないのです!!鳴斗様がなんと言おうと!!絶対に着いていきますからね!!」
そう言うと彼の『魔法TSUKAI』とデカデカと書かれた黒いシャツにしがみついた。
「……仕方ないか」
鳴斗は頭を抱えながらそう言った。
「まあ、ともかく移動しよう。此処に居るとまた狙われるかもしれないし、面倒事に巻き込まれそうだ」
鳴斗は唯の手を握ったまま、もう片方の手の指をパチンと弾いた。瞬間、彼と唯、そしてスローシャの姿は消え、そして軽くなった爆風が動き出し、吹き荒れた。




