3-10. 幽谷鳴斗はやってくる・1
[2019/6/5 13:00 東京都砺波区 城場臨海警察署]
城場臨海警察署の入り口。時が止まり、爆風というものが破片と共に具現化し硬直したこの世界に一人、いや二人、動く影があった。
「音声を決めた時に適当にしたのが失敗したか」
ワープしてきた幽谷鳴斗は、頭を掻きながら唯側の防犯ブザーの音声に不満を漏らした。
「変な音になってしまった」
「何処です?此処」
鳴斗の手から離れたスローシャが疑問の声を上げた。
「さあ。戦場か何かか?」
爆風が吹き荒れる最中に時間が止まって飛ばされた来たせいで、彼には此処が何処でどのような状況であるかすぐには理解出来なかった。だが、警察のマークが目に入った事で、大凡の特定は出来た。
「いや……警察署か?なんだってこんなところで呼び出しが……。それにこれは、なんだ、砂埃?違うな、爆風か?」
「けいさつしょ、ですか?なんですかそれは」
ジュラ・オスタに警察は無かった。
「今は分からんでよろしい。……おっと、呼び出した本人は酷いことになる数秒前だな」
鳴斗は爆風の中に紛れた唯の姿を見つけた。爆発の爆風と爆弾の欠片が彼女の周りを取り囲んでいて、赤い彼女のシャツが鮮血に染まるであろう直前の状態で止まっていた。
鳴斗はそれに向けてパチンと指を弾く。すると爆弾の破片は原子へと分解され、破片が有していたエネルギーは霧散した。
もう一度指を弾く。すると辺りの爆風の色は薄くなり、ただの風程度に変化した。彼はこれで風力や熱を調整し、温風程度に変更させた。それでも完全にゼロには出来ない。朝からの魔法の連続使用で、エネルギーをゼロにするような高位魔法を連発出来る状況では無かった。多少の怪我人は出るかもしれないが、全てを無かった事にする程の余裕は無い。この後も魔力の使用が予想される事を考えると、少しばかり温存しなければならない。
それでも死者は出ない事は確信出来る程度には、彼としては最善を尽くした。
「これでとりあえずは大丈夫だろう。事情聴取と行くか」
彼はそういうと、再び指を弾く。すると唯だけが、時の止まったこの空間で、鳴斗とスローシャと同様に動き出した。
「ひぃやぁっ!?……あれ、あれれれれれれ?」
「何かあったら迷わず呼べとは言ったけれど、随分早いじゃないか」
今自分がどのような状況に置かれているのか理解できないのか、唯が辺りをキョロキョロと見渡す中、鳴斗が冷静に言った。
「あ、鳴斗さん」
「呼べと言った手前、ちゃんと来てあげたぞ。で?何処此処。何があった」
「鳴斗さんが行けって言ってた警察署です。で、そこで警官に襲われて、爆弾まで持ち出されて」
「爆弾、ねえ……。ああ、これやっぱり爆風か……」
事が大きくなっていくのを感じて、鳴斗の吐く溜息が強くなる。
「一体なんでそこまで狙われているんだ」
「わかりませんよ!!」
唯が声を荒げた。
「わからなくて、困ってるんです……」
そして、すぐに声が萎んだ。目には涙も浮かんでいる。
「もう何が何やら……。鳴斗さんが来てくれなかったら私死んでました。ほんと、ほんとうに……」
時が止まった世界の地面が濡れ始めた。
「ああよしよし、よく頑張った。わかった、その件は後にしよう。だから落ち着け。私が居るんだから安心出来るだろう」
「う……はい」
唯は目元を擦って、赤くなり始めた目でパチパチと瞬きした。




