3-9. 赤坂唯は彼<助け>を呼んで
「ひいいいいいいいい!!」
あの女本当に撃ちやがった!!警察署に向けて撃つバカは居ないだろう思っていたのに本物のバカだった!!わたしのバカ、なんで底抜けのバカが存在する事を想定しなかった!!愚行に走った彼女と高をくくっていた自分を心の中で罵倒しながら、女と距離を取る唯。
今の一発、音源が銃弾だった事は疑いようもない。また撃たれたら、今度当たったら、そう考えると自然に足は早くなる。逃げるため、生き延びるために。
「なんだなんだ!?」
「銃声!?」
玄関に居た警官や一般人が慌てている。今だ。
「襲われてます!!あの女の人に!!」
後ろを指差しながら、唯は署の玄関を潜る。チラと後ろを見ると、女は途中で足を止めていた。
代わりに何かが飛んできた。
「え?」
銃弾ではない。もっと大きい何かが。
それは唯の足元に落ち、コロコロコロ、と彼女の目の前に転がってきた。
黒く、丸い物体。
――まさか。
唯の脳裏に最悪の事態がよぎる。
――爆弾?そんな事ある?この日本に?令和も訪れようというこの時代に?
咄嗟に女の方を見ると、彼女は手に何かスイッチのような物を持つ動作をしている。
――押される!!
唯の理性が「有り得ない」と囁くのを押さえつけるように、本能が危険信号を鳴らす。
『何か命の危険が近付いた場合はこれを迷わず押せ』
鳴斗の言葉が頭に蘇った。
凄まじい爆風と爆弾の破片が彼女を襲い、今まさに自分の皮膚に接触し突き刺さるであろうと思われた瞬間、彼女は咄嗟に防犯ブザーを押した。
『ピロロロロロロン♪』
――誰も聞いていない、動いてもいない空間の、止まっているはずの空気を震わせて、防犯ブザーから音が鳴る。
『お呼び出し、お呼び出し♪』
――押した本人も動きを止めた。爆弾の破片も、爆風も、それが発する衝撃も、温度上昇すらが静止した空間に、その音は孤高に響き渡る。
『ただいまお助け野郎を呼び出し中♪』
誰も聞いていない音。
「誰がお助け野郎だ」
その音を遮るように、男の声が響いた。




