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3-8. 赤坂唯は迷う・2

 署まで歩いて大凡十分。署の入り口に到着した唯は、静かに息を吹いた。


 果たしてこれで、この署に入る事で、自分は助かるのだろうか。


 いや、考えていても仕方がない。とりあえず中に入ろう。


 そう決めて歩き出し、入り口のドアを潜った瞬間、女性の警官とすれ違った。


 会釈する彼女に、唯も頭を下げる。


 そして頭を持ち上げようとすると、彼女は背中に何かが当たるのを感じた。


 もうこの数日で慣れたのか、その感触から形状が想定され、そしてその形状から何が突きつけられているかは瞬時に理解出来た。


「動かないように。手は上げなくていい。目立つと困るから」


 女性警官の声が、唯の耳に届いた。


「もう一人は?」


 もう一人?何の話かと一瞬戸惑ったが、


「男の方よ」


 男と指定された事で誰の事を指しているか理解出来た。


「あの人は別に、その、どっか行きました」


「何処へ」


 銃口が背中に食い込む。


「ししし知りません。助けてって言ったのに、な、なんかウダウダ言って着いてきてくれなかったんです」


 嘘は言っていない。むしろ真実しか述べていない。


 彼女の言葉を聞いて、銃口を突きつけた女が舌打ちした。


「まあ、あなただけでもいいわ。重要なのはあなただし。さ、私と大人しく着いてきなさい」


「い、いや、です」


 着いていけば十中八九殺されるだろう事は明白。唯は手を震わせながら勇気を振り絞って言った。


「嫌?じゃあ逃げる?その前に撃つわよ」


 女の声色は平坦としていて、嘘とは思えない。本当に撃つだろうという事は予想が着いた。


 着いていけば死ぬ、逃げても死ぬ。


 可能性があるとすれば――


 唯は思い切り脚を持ち上げると、後ろの女の爪先を踏みつけた。


「いたっ」


 背中に押し付けられた銃口の感触が無くなった。


 今だ。


 唯は走り出した。


「待ちなさい!!」


 女が後ろで叫ぶ。多分撃ってくる。いやここ警察署ですよ、撃ってくるわけがないでしょう。理性がそう訴えるのを、昨日からの出来事で強化を受けた本能が捻じ伏せ、唯は咄嗟に左に避けた。


 パァン!!


 破裂音。そして、


 シュンッ。


 右頬を何かが掠め、玄関入り口の眼の前の壁に小さな穴を開けた。

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