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3-2. 幽谷鳴斗は買い物をしたい・2

 アップデートパーク東京屋上。


 広々とした駐車スペースを走り、他人との距離を取る。幸い平日、人気は少ない。停められている車も数える程。彼は奥の方の給水塔の裏手、誰にも見つからないような隙間に鳴斗は隠れ潜むことにした。


「痛いです!!痛いでございます!!」


 彼の手の中の光の球が叫声を上げる。


「お前が煩いからじゃい」


 そう言いながら鳴斗は手を開いた。光が漏れて再び羽ばたきだす。


「もう。いいじゃないですか」


「良くない。周りから見たら私は誰も居ない所に話しかける妖しい人だ」


「そんな不敬な思いを抱く輩は、魔王様の大いなる権能によって滅却すべきですよ!!」


「此処はそういう所じゃないんだよ」


 加えて、鳴斗はそのような残虐な行為を成そうと全く思えなかった。転生前の朧げな記憶では、人間という人間の尊厳を踏み躙る事に快楽を覚えていたはずだったが、今では全く牙の抜けた獣の如く、心内は常に凪いでいた。


 やる気が無いだけかもしれないと彼は思う。


 どちらにせよ、今は残虐性よりも正義感や現世における倫理観の方が勝り、それよりも「平穏で居たい」という思いが勝っていた。


「随分と腑抜けになられたものですね。そこもまた良い所ではありますが」


「抜かせ。お前は単に強い者に付きたいというだけじゃないか」


 そう言うとスローシャは「てへ」と自分の手を自分の頭にコツンと当てた。何も知らない者が見れば可愛らしいと思うのかもしれないが、半端にでも彼女について覚えている彼にはまったく可愛らしく無く見えた。



 スローシャについて、彼が覚えている事は限られている。彼女は普段は光球の姿を取っているが、実態は人間のような外見をしているが人間より遥かに小さい、フェアリー族と呼ばれる種族の一人であった。そして前世においては、彼の偵察係を担当していた。


 が。



「前世――ジュオ・ラスタについてはあんまりはっきりとは覚えてないんだが、それでもお前の裏切りについては脳裏に焼き付いてるぞ」


 彼女は勇者が攻め入った際、勇者に寝返り魔王ヴァルラへの道案内を務めていた。彼の朧げな記憶の中で、その光景はやけにしっかりと残っていた。死ぬ直前の出来事だったからだろうか。


「あ……はは……いやまあ、スローシャめも脅されていたのです。仕方ないではないですか」


「それで済むわけがあるか。だがまあ、まずは質問がある。……なんで此処にいる」


 前世の世界に戻りたいとは彼は欠片も思っていなかった。魔法が使える事には感謝しているが、それ以外はきれいさっぱり捨て去りたい記憶だった。それが目の前に現れているという事実が、彼には少々嫌悪感を覚える。


 スローシャは光のカモフラージュを解いて極小の人間に似た姿へと戻ると、手を肩の横でやり、くいと持ち上げ、「わかりません」のポーズを取った。


「太陽が一度か二度昇って沈むのを見たでしょうか、そのくらい前の話ですが、気付いたら此処に居たんです。巨人像とか色々あって驚きながら夜を過ごし、そして今、魔王様の魂の形が見えて安堵していたところなのです」


「巨人……ああ、あのロボットの」


 鳴斗も詳しくは知らなかったが、何やら有名なロボットアニメに出て来るロボットの実物大の像が、このアップデートパーク東京に立っているという話だけは知っていた。


「ろぼ……なんですか?それ」


「知らなくていい、今はな。で、気付いたらってどういう事だ」


「分かったら苦労しません。魔王様が死んでから魔王城を出てウロウロしていたんです」


「勇者と一緒に凱旋でもすればよかったろうに」


「覚えてらっしゃらない!!勇者さ……勇者は魔王様と相打ちになったんですよ!!」


 全く覚えていなかった。彼が覚えているのは爆発の瞬間だけであった。


「……相打ち」


「はい。それでスローシャめは裏切り者の名を受けて魔王城を追われ、かといってフェアリー族には戻れません」


 フェアリー族は、現世ではよく勇者陣営に居るものであったが、ジュオ・ラスタにおいては魔王陣営に属していた。彼女はその中でも珍しい裏切り者。おまけに彼女が裏切った後に魔王、自分が死んだとなれば、彼女を見る目がどうなるか、彼にも大凡想像が付いた。恐ろしく冷たい目であろう。


「それで放浪の旅を続けて幾星霜、とある星の夜、スローシャめが見上げた星空に一筋の光。スローシャめは願いました、もう一度ゆうし……もう一度魔王様に会いたいと!!」


 言いかけた言葉は鳴斗の耳にしっかりと届いていた。


「この野郎……」


「むえへへへ……いや本当にです、はい。それで、そしたら星の光がスローシャめに降り注ぎまして、気付きましたらスローシャめはこのよくわからない場所に飛ばされていたのでございます」

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