3-1. 幽谷鳴斗は買い物をしたい・1
[2019/6/5 12:50 東京都砺波区 城場臨海公園付近]
ショッピングモールはいい。幽谷鳴斗は弾む心を押さえながら、大型商業施設『アップデートパーク東京』の中を歩いていた。
観光地も兼ねたこうした商業施設には、彼の琴線に触れる物が多く置いてある。「JAPAN」と書かれたTシャツであるとか、「SAMURAI」と書かれたTシャツであるとか、中にはLEDを大量に並べて光り輝く、他人からは妙ちきりんとしか言いようのないであろう物もあった。だが、彼の趣味には合致していた。
「ありがとうございましたー」
明らかに海外からの客向けの店でそういった物を買い込むと、彼は指を鳴らしてそれを荷物整理用の空間へと放り込んだ。彼は着替えの洋服から土産物まで、魔法で生み出した空間に整理していた。実に楽だと彼はほくそ笑んだ。他の観光客を見ると、大きなキャリーバッグを引き摺って、身動きに大変苦労している様子が伺えた。翻って自分はどうだ、軽いバッグと財布、それとスマホだけで済んでいる。
ああ、魔法っていいよなぁ!!
鳴斗は心の中に、大平原を思い浮かべて、そこで手を広げて叫んだ。
勿論目立つ事は避けねばならない。なにせ、何故自分が引き続き魔法を使えるのか、その理由について彼は全く分かっていないのだ。恐らく誰にも分からないだろうと思われる。となれば。魔法という不可思議な技術を自分だけが使えるのだと周知されでもしたら。良くてテレビの人気者、悪ければ人体実験の材料になるだろう事は容易に想像出来た。そして、可能性としては後者の方が圧倒的に高いとも。
なので彼は基本的に目立たないように気をつけていた。朝の満員電車で人々を眠らせたのも、彼の存在を煙に巻くため。勿論記憶も消しているし、昨日と同様、監視カメラのデータも弄っている。
「ここまで苦労させられるのも辛いもんだけどなあ」
彼はさっきのカフェで買ったコーヒーをストローで啜りながらボヤいた。
「さて、次はどうしようかな」
今日は展示場でイベントをやっていただろうか。やっているならそっちに行くのもいい。やってなければ船で北上するというのも手だろうか。
そんな事を考えながら、午後の楽しみ方を脳内で展開していると、
「…………魔王様?」
突然、彼の背中にそんな声が掛かった。
「あ?」
鳴斗が振り向く。誰も居ない。居るには居るが、皆歩いて目的の店に向かう人ばかりで、自分に話しかけてきたと思われる者は居ない。
「形は多少歪……何か混じっているのか、それとも別の何かなのかは分かりませんが……貴方は魔王様ですよね!?」
だが声はする。何処からかとキョロキョロと辺りを見渡すが、それらしき影は無い。
影は無いが、光はある。
「お久しぶりでございます、アヴラ様!!」
眼の前で蝿の如く光の球体がふわふわと蠢いていた。
「えーと……スローシャ?」
「ああ覚えていて下さった!!スローシャめは感激でございます!!まさかこのような異世界でお会い出来るとは思わず!!」
光の球はぎゅるんぎゅるんと激しく回転する。
「ちょ、目立つし煩い、ちょっと来い!!」
そう言うと鳴斗はその光の球を掴むと、パチンと指を弾いた。
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