2-6. 武蔵小金井潤一郎は混乱している・4
――思い返す度に恐ろしい光景だったと思う。眼の前で部下が三人も死んで、自分も下手をすれば撃ち抜かれていた事は明らかである。
そして引っ掛かったのが、累の最後の言葉。
「次の世界、か」
次の世界なんてあるのだろうか。死後の世界なんて。
潤一郎はそういったものは信じない口であった。死後に救い等を求めたところで、それは逃避にしかならない、それより今を生き抜くしか無い、それが彼の考え方であった。
もし彼の言葉が救いを求めてのものならば、宗教か何かだろうか。それに傾倒した事で、彼が暴挙に走った?だとしてもここまで躊躇なく人を殺して自分も死ぬ等という事が出来るだろうか?彼には到底そうは思えなかった。
催眠でも掛かっていた可能性はあるだろうか。最後に会った人物は誰だ?それとも催眠では無く、正気のままこれだけの暴虐を実行したのだとすれば、それは何かの信念に基づくものなのだろうか?
疑問は尽きないが、さりとて今はまだ当分結論は出ない。
彼の身辺を調査する、この件に関しては、それしか当面の道は無さそうである。
「しかし……轢き逃げまでまとめてやらされるとは」
上司である国立藤助からは、「駅の事件だからまとめてやってくれ、人手も足りないし」との事であったが、随分と適当な指示であるなと呆れてしまう。
ただ、彼、潤一郎個人としても、合わせて捜査した方が良いように思っていた。完全な勘でしか無いが、駅の近くで起きた計画的な轢き逃げ事件、そこから連続して起きた駅と署内での発砲殺人事件、この一連の事件には、何か関連性があるように思えてならなかった。
勿論証拠も根拠も無い。ただし、今は、の話である。
彼は立ち上がると、赤い血が染みついたスーツのジャゲットを羽織ると、署の出口に向かい歩き出した。クリーニングに出したいが、そのような暇は無い。
「すみません、警部」
悲嘆に暮れていると、部下が呼び止めた。
「なんだ」
「赤坂の目撃証言が出たとの事です」
「おっ、何処だ。場所によっては俺も――」
彼は車の鍵を取り出した。今すぐにでも向かうつもりだった。
「東京です」
それを聞いて彼は思わず車の鍵を落とした。
「……は?」




