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2-5. 武蔵小金井潤一郎は混乱している・3

 ――安留賀駅銃撃事件の後、被疑者である高松洋介を連れ帰った潤一郎は、調書の作成を部下に指示すると、現場の証拠のリストをまとめようとデスクに戻り、その日初めて自分の椅子に腰掛けた。


 すると突然、銃声が鳴り響いた。


 パァン、一発の炸裂音の後、「がっ」という、先程調書の作成を指示した相手である部下の一人のうめき声が上がる。


 パァン、続く銃撃音で、「ひぎっ」という断末魔が上がる。これも部下の声であった。


 何か異様な事象が起きている。


 潤一郎はすぐさま立ち上がると、調書を取っているはずの取調室に向かい走り出した。署内の人間で銃声を聞きつけた者達が集まっていたが、本来平穏なはずの署内で響く銃声にたじろぎ部屋には入れずにいた。彼はそれを掻き分けてドアを開ける。


 パァン。三発目の銃声。それが鳴ったのは、彼が取調室へ飛び込んだのと同時であった。


 入った瞬間に立ち込めるのは咽ぶような血の匂い。倒れているのは二人の部下と、容疑者である高松洋介。


「累……?お前何をした!!」


 そしてそこに硝煙を纏うように立っていたのは、部下である前橋累であった。手元には未だ発射して間もない拳銃が握られている。彼が三人を撃った事は明らかであった。


「警部、退いて下さい」


 そう言うと彼は潤一郎に向けて発砲した。そこには何の躊躇いも感じられなかった。


 シュッ、と潤一郎の頬を銃弾が掠める。


「!?」


 生肌を銃弾が掠め、血が流れた事で、潤一郎は思わず一瞬だけたじろいだ。その隙を突いて、累は彼の横を通り抜けていった。


「捕まえろ!!」


 潤一郎は同僚達に叫ぶが、直前の四発目の銃声で他の人々は取調室から距離を取ってしまっていた。


 累はそのまま横の取調室へと入る。


「まずい……!!」


 そこはもう一人の調書作成対象、被害者である赤坂唯が事情聴取を受けている部屋であった。


 パァン。


 一発の銃声。伊都宮署で使われているリボルバーは五発装填式。これで恐らく弾切れのはず。


「間に合ってくれ……!!」


 潤一郎は祈りの言葉を思わず口にしながら、隣の部屋へと滑り込む。



 制服を着た警官が倒れていた。頭から血を流している。そして怯えた表情を浮かべ部屋の隅にへたり込んでいる唯の姿と、彼女に向けて銃を持ちながら弾丸を装填している累の姿が目に入った。


「私と一緒に来い。この世界をより良くするために、君の命が必要なんだ」


 そう言って累は唯に手を伸ばす。


「やめろ!!」


 潤一郎は叫びながら累に飛びかかった。装填中の銃弾が四発、転がり落ちた。


「放して下さい警部。彼女は我々に必要なんです」


 そう言って累が抵抗する。


「そうだ!!だから撃つなと言っている!!」


「分かっていませんね警部」


 累がそう言って彼に銃を向ける。装填中の弾倉が潤一郎の目に映る。実弾らしきものが、一発だけ入っている。


「我々の邪魔をするなら死んで下さい」


 撃鉄を起こして撃つ準備に入る彼の目は、明らかに正気を失っていたが、声色から本気で撃つ気である事は容易に理解出来た。


「よせ!!」


 潤一郎はそれを掴んで自分の頭を射線から外そうともがく。


「何事ですか!?」


「大丈夫ですか!?」


 取っ組み合いの最中、取調室に入ってきたのは昴と千夏であった。


 二人の姿を見て、累は呟いた。


「もう無理か」


 その言葉に潤一郎が反応する間も無く、彼は自分に対して銃を向けた。


「次の世界で会いましょう」


 バァン。


 装填された弾丸が、その持ち主だった人物に向けて放たれ、その眉間を貫いた。赤い鮮血が彼と潤一郎に降り注ぐ。


 潤一郎が累を抱き起こすが、既に彼は事切れていた。


「……ダメか。だが彼女が無事で……」


 彼が唯の方を見ると、そこには誰も居なかった。


「彼女は?」


「私達が……来た時には、既に居ませんでした」


 千夏が答える。


「見た者は居ないか!?」


 昴が周囲の人間に大声で尋ねる。


「さ、さっき駆けて逃げて行きました!!」


「バカ!!見逃したのか!!」


 真っ赤に染まった体で立ち上がると、潤一郎は駆け出そうとして、


「せ、先輩、その状態じゃダメですよ!!」


 昴がそれを止めた。確かにこのまま署の中を駆け回ると、民間人の目にも留まるかもしれない。潤一郎は止む無く「くっ」と事態を受け入れた。


「署の入り口見てきます!!」


 そう言って千夏が駆け出し、昴もそれに続く。


 事態が収束したのに気付いた署内の人々もまたそれに続いた。



 だが数分後、潤一郎の元に届いた知らせは、「外に出たまま何処かに消えたようです」という絶望的なものであった。

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