10-10. 幽谷鳴斗は作戦を立てる
『なんで魔王がまた来たのかね』
「ちょっとな、頼みがあってきた」
『頼み?儂に?』
「ああ。私の自分にかけた魔法を解いてほしい」
『それはまた何とも……不可思議な依頼じゃが……』
ハルワダッドの胃壁が何かを測るかのように蠢く。
『ふむ、ああ、そういう事か』
ハルワダッドの声色は得心したようなものであった。
「分かってくれたか」
『記憶の封鎖か。何かあったのかね?』
「奪われそうになってね。空腹で魔法を使えないタイミングを狙われた」
『なるほど。良かろう、お主の依頼ならば勿論やってあげよう』
鳴斗は小躍りし、潤一郎と抱き合った。
「これで事件解決がスムーズに進むな」
「ああ。ラシーヌの救出も楽だろう」
『すぐに取り掛かろう。すぐに終わる。ざっと一週間くらいじゃな』
それを聞いて鳴斗と潤一郎は同時に真顔になった。
「すぐ?」
「一週間?!」
『すぐじゃろ?』
鳴斗はこの噛み合わない会話に察しがついて頭を抱えた。この海竜は超長命。数万という時間を過ごしている。なので必然的に感覚が常人とズレているのだ。ジュラ・オスタの上位生物全体も似たような思考ではあるが、この海竜は特に長命であるため、感覚のズレが激しい。
『ああお主らからすると長いのか?じゃがすまん、解除の魔法は難しいのじゃ。それにお主が結構深くまでしまい込んでおるものじゃから余計にな』
「それは仕方ない……がもう少し早くならないだろうか?一刻を争う事態なんだ」
『ふむ……まぁお主の頼みとあれば……なんとか頑張ってみるが、どのくらい時間が掛かるかは分からんぞ』
これ以上は難しいだろう。解除して貰えるだけ感謝せねばならない。
「……わかった、じゃあ――」
鳴斗はとある方法を示す。
「――どうだ?」
「ふむ、ならば出来なくはないな」
「よし、じゃあ頼む」
そう言うと鳴斗は潤一郎に向き直る。胃壁が蠢き、ハルワダッドが詠唱を始める。
「作戦がある。その時間に情報収集をすると共に、唯の身柄を確保する、そんな作戦をさっき、大声上げた時に思いついた」
潤一郎が呆れたような顔を見せた。
「あの時か。捕まりたいのかと思った」
「まぁ似たようなもんだ」
「……よくわからないな」
「いいか?まず……」
そう言って鳴斗は潤一郎にとある話を切り出した。
「……あの人の手、暖かかった……」
真顔の鳴斗を見ながら、レナが顔を赤らめてポツリと呟いた。その呟きは誰にも聞こえる事は無かった。




