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10-7. レナ・サフは何か拾う

[2019/6/7 0:45  ?????????]


 『生きる事は辛い事である』とはジュラ・オスタの哲学者――名前は覚えていない――の言葉であるが、人魚(マーマン)の女性レナ・サフはこの辺鄙過ぎる場所で、その言葉の意味を改めて実感していた。


 食事はこの海竜の食いかけばかり。気を抜くと垂れ流される胃液で溶かされそうになり、それを避けたかと思えば生き残った他の魔物に襲われる。


 全くもって、気が休まる暇が無いとはこの事である。


 それなりの戦闘能力を有していたお陰で今のところ生き長らえているし、咄嗟の判断にも――自分としては――優れているためか、先程何やら押し寄せてきたデュラハンと……よくわからない人間が突然やってきて魔物狩りをしたかと思ったら帰っていった時も、無事生き延びる事が出来た。


 アレは誰だったのだろうか。あの魔力の感覚、もしや魔王様?しかし魔王様は死んだはず。なんだかそんな感じの雰囲気は醸し出していたが、しかし死者が蘇るという事は無いはずで、どうなっているのか全く分からない。


「はーあ」


 思わずレナは溜息を吐いた。何か良いことないかしら、と。しかし横のスケルトンはせせら笑う。そんな事あるはずがない、と。


 スケルトンをどついてから、海竜の胃の底を漁って餌を探る。と、何か変なものを見つけた。白い箱のような立体物に丸い何かがついている。なんだこれ。


 この丸い何かは押せるらしい。


 何か魔力を感じる。強い魔力を。


 押せば何かが起きる。彼女の直感がそう告げていた。


 そこでレナは考える。これは押して良いものかと。


 怪しさ満点のこれは本来押さない方がいいような気もする。いや、しかし。何か起きた方が良いかもしれない。爆発なら自分が巻き込まれて死ぬ。けどそうでなければ。もしワープの魔法が仕込まれているとかならば、この海竜の胃袋から出られるかもしれない。そうでなければ……何があるだろうか。


 色々なパターンを考える。火、水、土、風、雷、氷。しかし、どの魔法が発動しようと、この泥水を啜るような生活よりはマシなように感じられた。少なくとも、この状況を生み出した相手、海竜に少しばかり痛みを与える事が出来る。自分の命と引き換えかもしれないが、どうせ早晩衰弱死しかねない環境である。賭けに出るのが最も良いアイデアのように考えられた。


 レナは意を決して、その丸い部分を押した。




 その瞬間、時が止まった。




 レナは動かない。


 何も動かない。


 ハルワダットの胃液すら、ピクリとも波打ったりしない。


 ただただ静寂の空間が広がった。



『ピロロロロロロン♪』



 ――誰も聞いていない、動いてもいない空間の、止まっているはずの空気を震わせて、その白い何かからバカみたいに明るい音が鳴り響いた。



『お呼び出し、お呼び出し♪』



 ――押した本人も動きを止めているので何が起きているのか分からない。ただ音だけが鳴り続ける。



『ただいまお助け野郎を呼び出し中♪』




「よくやってくれた!!」


 そう叫んで誰かがその時の止まった空間へとやってきた。

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