10-6. 幽谷鳴斗は最悪のタイミングで自らの優位性に気付く
静かな家々の合間を縫ってアウトレットへ向かう。
明かりは乏しいが、お陰で誰にも見つからない。
二人共急ぐとは言ったものの、五分もしない内に走る足が緩み始めた。潤一郎も疲れているのだろう、足がガクガク言っている。
それでももう少し、坂の下に港が見えたというところで、
「くそっ」
鳴斗は悪態をついた。緩い下り坂の下にあるアウトレットの辺りには、深夜にも関わらず光が見える。それは警官達のものではなく、私服の人間達のもので、しかしどうにも一般人とは到底思えないものであった。
スマホの望遠レンズを使って連中の様子を探る。見覚えのある人間はいない。フードの人物もいない。が、何かを探している。アウトレット付近もだが、海の方にライトを当てて何かを探っている。
「あれは警察じゃないな。……組織?の奴らに先回りされたか」
「海を見ているあたり、そのバルダンワット?とやらの存在も気づいていそうだな。なんでバレたんだ」
潤一郎が嘆く。
「スローシャの助言か、それとも……シュマが消えたのが此処だから探りに来たか?」
「何を?何を探るっていうんだ」
「それは……あっ」
思い当たる節を鳴斗は思い出した。
『これは最後の、世界と世界の間の境界線を壊す剣じゃ』
ハルワダットの言葉が思い返される。
「……世界を繋ぐために必要な秘宝がある。あれを回収しにきたのかもしれない」
「取り調べの時に唯さん達が言っていた剣か。アンタが持っていると聞いていたが」
「ああ。どこにやったっけかな……あ」
鳴斗はまた思い出した。あの剣は――
「しまうから大丈夫だって。しかし、悪用?これで何が出来るっていうんだ?」
指を弾いて生み出した収納空間にそれをしまいこみながら鳴斗が尋ねる。
収納空間にそれをしまいこみながら
収納空間にそれを
収納空間
「あああああああああああああ!!」
鳴斗は己の記憶力の無さと浅はかさと運の良さとその他諸々により思わず大声を上げてしまった。
「お、おい!!バレるぞ!!」
潤一郎が咄嗟に口を押さえる。
だがしかし、時は既に遅く、アウトレット側の人影のライトが鳴斗達を照らした。
「やべ」
逃げようか?後ろを向く。警察のパトランプとサイレンが向いた方から響く。到底逃げる事は出来なさそうである。
「いや、その、大変な、そう、大変な事に気づいてしまったんだ。これは、この事態は良いか悪いか全く分からなくなってきた。とにかく逃げよう」
だが鳴斗の願い虚しく、向こうは完全に二人に気づいてしまった。
「捕えろ!!」
その声を合図に、アウトレットに居た連中が一斉に鳴斗に向かって走り出した。




