10-3. 幽谷鳴斗は資料を読む・1
[2019/6/7 0:30 茨城県東茨城郡大嵐町 大嵐駅周辺]
「ふぁーあーあー」
車内に大きな欠伸が響き渡った。幽谷鳴斗が後部座席で大きく口を開けた。
「大丈夫か」
武蔵小金井潤一郎が尋ねてくる。
「ああ勿論だいじ……ふぁぁぁぁぁぁぁ……」
大丈夫、と答えようとして欠伸が出た。口では何と言えても、体は嘘は吐けない。
彼はただただ疲れていた。追って追われて捕まってのドタバタ珍道中は、彼の体に眠らねば治らない類のダメージを蓄積させていた。が、かといって寝るわけにはいかない。いや、寝る程の精神的余裕が無いと言った方が正しい。この逃亡状態では「じゃあおやすみ」と言って寝られるような気分ではない。むしろ気持ちの方はテカテカと冴えていた。
体と心が全く相反する状態にあり、鳴斗は何かしなければならない衝動に駆られていた。
先程から見ていた捜査資料に再び目を通し始める。
「何かわかったか?」
潤一郎が尋ねてくる。
「ああ。被害者の、魔法陣が描かれていた被害者の資料に目を通しているが、ちょっとした共通点は見える」
大宮昴に逃げる前に渡されたもの、ありったけの捜査資料の写しに目を向ける。
一人目と二人目、安留賀駅で死んだ人々。一人は安留賀駅の近くにいて、もう一人は近くのビジネスホテル。
三人目と四人目、鷹崎駅で死んだ人々。二人共職場は鷹崎だが、一人は猪沼市からの出張。一人は高野沢町。
五人目、大嵐のショッピングモール。6/4当夜の行動については分からないが、少なくとも住居は伊都宮の北部。
そして赤坂唯。彼女は家は都内だが、当夜は実家――旧伊都宮署近くに居て、父親が安留賀駅近くに職場があるのでそこまで車で移動、そしてバスで安留賀に向かうという手続きを踏んでいたと、鳴斗誘拐時に聞いていた。
「6/4、儀式の当夜、全員、見事に伊都宮周辺にいたようだ。
特にキーとなる彼女、赤坂唯は旧伊都宮署の近く。つまりあそこで儀式が行われ、その近くを中心として円状に居た無作為の人間が選ばれた、という可能性が出てくる。」
「……そんな共通点があったのか。……もう少し早くに気づいていれば……救えた命もあっただろうか」
潤一郎はハンドルに力を込めてぼやいた。
「……率直に言って、まず魔法陣という考え方に気付くこと、それ自体に無理がある。私だって最初はそんな考えに至らなかった。加えて、無作為で選ばれるならばその対象は、幾ら栃木とはいえ数万人に至るだろう。キリが無い。自分を責めるべきではないと私は考えるね。
で……。今のところの犠牲者は県北に集中している。円を描くように対象者が選ばれているとするならば、残る五人は6/4当夜に県南に居た人間が選ばれている可能性が高いというのは分かる。……だがやはり対象も範囲も広すぎるな」
「魔法陣の波長が分かればいいのですが」
「そうだなぁ。だが当然資料からは分からないしなぁ」
「……波長?」
ラシーヌの言葉に潤一郎が疑問の声を上げる。




