9-2. 武蔵小金井潤一郎はとりあえず逃げる・2
「さて、となると問題はこの後どうするかだが……」
「署長が犯人じゃないのか?とすれば東京に向かって本庁に言いつけるぞ」
潤一郎が憤慨した様子で言った。
「その辺りだが、ちょっと事情がまだ飲み込めていない部分がある。教えてくれるだろうか」
鳴斗が言うと、潤一郎は愚痴を五割程増やした上で、先程署長室で起きた出来事の全てを語った。
「……うむ。まぁ怪しい。怪しいが……私が牢屋で見たのは若そうな人間だった。私と同時期に転生したので勇者が犯人であれば、そこまで歳は行ってないと思う」
鳴斗は続ける。
「勿論犯人の可能性はあるが、他に首謀者的な人間が居る可能性は高い」
「……なるほど。確かに、あの男の言葉に裏は無かった。ただ保身だけを考えているのがミエミエだった。となると、他に居るというのは考えられる話だ。……となると、どう手を打てばいい……?少なくとも本庁に連絡はした方が良いだろうが……検問などが設けられていると厄介だな……」
「まず提案なのだが、大嵐に向かえるだろうか」
潤一郎はその言葉に少し驚いた。
「大嵐?また?」
下道で行きやすい場所ではある。本庁に向かうよりも細道が多いので、その分検問も抜けやすかろう。だが、彼にとっては本日二度目である。
「行けなくはないが、何か心当たりでも?」
鳴斗の提案の理由が全く理解出来ない潤一郎だったが、
「……なるほど」
ラシーヌは何か得心したように頷いた。ちょうど道路の歪みで車が揺れて、彼女の首が飛んだ。
「ぐぇっ」
鳴斗にぶつかったのがバックミラーで見えた。
「失礼」
足元に転がったそれを掴んでよいしょと載せる。デュラハンだという事は聞いていた気がするが、改めて見ると怖いと思う。
「あ……ああ。それで……なんで大嵐なんだ。このまま当てもなく逃亡するのは意味が薄い、向かう事は全く構わないが、理由は聞いておきたい」
「私達が合流したとき、小さい波がアウトレットに押し寄せていたのを覚えているかね」
「ああ」
「あれは巨大な海蛇が起こしたものでね」
「……うみ、へび」
「その海蛇は私達の世界から迷い込んできたものです。彼は魔法を使えます。つまり鳴斗殿が自分で掛けた封印を解くことが出来るかもしれない、という事です」
「はぁ、なる、ほど……」
話の規模が一介の警察官には大きすぎて分からなくなってくるが、手掛かりになりそうだ、という事は理解出来た。
「儀式の阻止にせよ、捜査にせよ、逃げ続けながらそれを成すためには、私の魔法があった方が良いのは間違いない。無論、また記憶を吸収されないように準備した上で、ではあるが」
「それは、そうだな」
儀式、魔法、記憶吸収。使われる単語の胡乱さたるや、普通では絶対に納得しないが、事ここに居たり納得出来ないわけがなかった。
「そのためにも、ハルワダッド、その海竜に協力を依頼する」
「……分かった。大嵐の例のアウトレットだな」
完備されているパトカーのカーナビに目的地をセットし、下道のみ使用するルートを選択した。
三人を載せた覆面パトカーは、夜道を行く。大嵐、改めて設定された目的地へ向けて。




