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9-1. 武蔵小金井潤一郎はとりあえず逃げる・1

[2019/6/6 21:30 栃木県伊都宮市 国道119号線付近]


 夜も更け始め、車社会である伊都宮も徐々に大きめの県道を走る車の数も減り始めている。街灯は少なく、車のヘッドライトだけが道を照らす事も暗闇の国道を制限速度ギリギリで走る車が一台。


「はぁ」


 ハンドルを握りながら溜息を吐くのは、武蔵小金井潤一郎。警部という立場を得ていたが、今やそれは怪しい。バカ上司の妄言に腹を立て、署を飛び出してしまった。


『緊急、緊急。連続発砲事件の犯人が、現在伊都宮署のパトカーを一台強奪の上逃走中。ナンバーについては……現在不明。確認し次第捕縛し署まで連行する事』


 警察無線で、国立藤助の声が響く。だがどのパトカーからも「了解(ラジャー)」の声は返ってこない。彼の人望の無さを顕にしている。


「これで良かったのか」


 後ろに座っている幽谷鳴斗が尋ねてきた。


「何が」


「私達のせいにするとか、そういう逃げ方でも良かったんじゃないか」


「そんな事は出来ない。絶対に」


 潤一郎は強く答えた。自分に言い聞かせる意味も込めていた。そんな方法を、逃げどころの話では無い、警察官として絶対に取ってはならない行為――市民を犠牲にする行為――を良しとしてはいけない。何かしら、もっと良い方法を考えるにしても、それ以外の方法を取らねばならない、自分に強く訴える。


「……ありがとう」


「礼を言われる事はしていない。君達を守るのが私の仕事だからだ。……むしろ謝らないといけない。その仕事を果たせるかどうか分からなくなってきた。本当に……申し訳ない」


「それは気にしないでくれ」


「心意気だけでも大変嬉しゅうございます」


 甲冑の女性――ラシーヌに言われて、彼は純粋に嬉しく思った。普通であれば奇妙に思うのかもしれないが、先程の廃ビルの探検の経験もあって、もはや彼は彼女の姿形については疑問を抱かなくなっていた。むしろ信頼感すら抱いていた。


「不甲斐ないのは私の方だ。成り行きとはいえボディガードをやっていたのに、よもや失踪を許して、しかも私が守られる側になってしまうとは。……ハハ」


 彼の顔に自嘲気味の笑いが浮かんだ。


「あまり気に病むべきじゃない。さっきまでは貴方の方が苦労していたし危険な目に合っていたんだ。軽口が叩けるくらい回復したなら、ここから反撃と行こう。逃げながら、だが」


 潤一郎もまた自嘲を交えたジョークを言う。


「……そうだな」


 笑いこそ取る事は出来なかったが、少しだけ空気が緩んだ。

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