2-3. 武蔵小金井潤一郎は混乱している・1
[2019/6/5 9:00 栃木県伊都宮市 伊都宮警察署]
署内が混乱に満ち溢れる中、武蔵小金井潤一郎は一人その混乱に惑わされないように心を保ちながら、『安留賀駅轢き逃げ事故並びに安留賀駅職員殺人事件』と書かれた戒名が貼られた部屋へと入った。
昨日から彼は家に帰るどころか一時も眠れずに居た。あまりにも立て続けに事件が起きるせいで、署内の人間の殆どが同様の状況であった。
それ以上に彼には重責がのしかかっていた。昨日から発生している事件三件について、合同の捜査本部が設置され、その指揮を彼が取る事になったからである。
連続した事件の発生には何らかの理由があるのではないかという点がその理由であるが、伊都宮や安留賀の人員不足というのも手伝っていた。潤一郎が事件の指揮を執るのも、それが原因であった。
「――さて、これから本日の捜査を開始する前に、一度状況を整理しよう」
彼は捜査本部で同じようにぐったりとしている刑事達に言った。
「昨日起きた事は三つ。まずは安留賀駅付近で起きた交通事故、いや轢き逃げ事故。これは死者が五名になり、重軽傷者が九名。原因となったトラックの運転手はその場から逃げて現在も逃走中」
潤一郎はホワイトボードに書き出しながら言う。
「被疑者と思われる人物の特定は」
彼の問いに、轢き逃げ事件を主に担当する高崎千夏警部が答える。
「依然情報が不足しています。トラックのドライブレコーダーには事件前後の記録が残っていませんでした。事件発生前に意図的に録画が停止された可能性があります」
「ドライブレコーダーの指紋は」
「検出されませんでした。車内には一切残っておりません。乗車時の取っ手もやハンドルにも残っていませんでした。以上の点を踏まえ、事故では無く計画的な犯行の可能性もあると見ています」
「他には」
「今のところは不明です」
「よし、次。安留賀駅の銃殺事件。被害者の女性、赤坂唯は現在行方不明。被疑者である高松洋介は供述書作成前に署内で射殺されてしまったので動機・銃の入手経路等は不明」
溜息が部屋の何人かの刑事から漏れた。
「この伊都宮署内の射殺事件について、被疑者の特定は」
その問いに、県警から派遣された大宮昴警部が答える。彼は潤一郎の直属の部下である。
「被疑者は前橋累、伊都宮署の巡査部長です。彼は高松と、高松を取り調べていた警官二名を射殺後、赤坂の取り調べ室に進入、取り調べ中の警官一名を射殺し、赤坂を射殺しようとしたところで取り押さえられ、自ら頭部を撃ち自殺。即死でした」
「はぁ……」
思わず潤一郎も溜息を吐く。捜査会議という事で説明を要求したが、それは全て既に知っていた。
何故なら、彼はその時の光景を目の当たりにしていたからだ。
血溜まりの中に立つ彼、掠めた銃弾、昨日の出来事が脳裏に蘇る。
「大丈夫ですか」
顔色を見た大宮が心配そうに小声で言った。
「いやすまない、大丈夫だ」
一旦彼はその考えを払う事にした。会議を進めねばならない。




