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転属

王宮のとある一画。


王太子宮の広い敷地内の奥まった場所に、

一人の青年がいた。


右手を(かざ)し、なにやらぶつぶつと術式のようなものを唱えている。


すると翳した手の平の上がボンヤリと光り、

何やら形作られてゆく。


チャポンと揺蕩う水音のようなものが聞こえるが、

()()は形になる事なく霧散してしまった。


「くそ……なぜ上手く顕現できないのだ……」


青年は悔しそうに呟く。


すると背後から声が掛かる。


「殿下」


青年が振り向き、声の主の名を呼んだ。


「コルベール」


「魔力の出力を一定にしないといけません。

精霊は術者の魔力を糧にして力を得ます。

その糧となる魔力が不安定では精霊は落ち着かず、

使役するどころか姿さえ見せてはくれないのです」


その声の人物、

ハルト=ジ=コルベールがこの国の王太子である

オリオル=リュ=ゼ=シルヴァン(24)に言った。


「なるほどな……ではどうやったら魔力を一定に保てる?」


王太子シルヴァンがそう尋ねると、

ハルトは端的に答えた。


「魔力は精神に作用されます。心の落ち着きを常に心掛ければ魔力も常に一定となります」


それを聞き、シルヴァンは苦笑した。


「ふっ……心の落ち着きか……あの父上を前に、

そんなものを保てるわけがない」


「………」


「お前だってそうだろう?コルベール。

我が異母妹の側にいて、まともな精神ではやっていられないだろう。だから俺に近づいた、違うか?」


「お察しの通りにございます……」


「俺が精霊魔術を習得したいと言っているのを聞きつけ、自ら指南役に名乗り出たのだろう?」


「はい」


「俺に精霊魔術を教える代わりに望むもの、

それはレティシアから俺の騎士への転属か?」


「殿下の専属騎士などと、大それた事は望んでおりません。ただ、レティシア殿下の専属さえ降りさせていただければ、辺境地でもどこでも参ります」


「なんだ、欲のない事を言うんだな」


「いえ、どちらかというと欲の塊です。

婚約者を一日でも早く迎えに行くために転属を希望しているのですから」


ハルトのその言葉に、シルヴァンは目を丸くした。


「なんだ、ベタ惚れじゃないか。まぁ確かに結婚したいから専属を辞めさせてくれといっても、レティシアは許さないだろうな」


わかっていた事だが、他者からそう告げられると

絶望に近い感情が湧く。


ハルトは思わずため息を吐いた。

そして直ぐに王族の前でとるべき態度ではなかったと改める。


「……失礼いたしました」


「はははっ、構わないさ。まぁ少し待て、悪いようにはしない。お前の実力はこの指南中によくわかったからな」


「ありがとうございます」


ハルトはシルヴァンに向かって頭を下げた。





◇◇◇◇◇



「……え、それ…本当なの……?」



オークションでハルトのグラスを競り合って以来、

友人となった侍女から信じられない事を聞き、

アミシュはお茶の入ったカップを手にしたまま固まった。


「ええ……第二王女宮勤めの侍女から聞いたんだから、間違いないと思うわ」


「ハル…コルベール様がレティシア王女殿下に求婚したって……?」


「そうなの~、その侍女がプロポーズの現場を見たんだって……ショックよね……。前々からお二人は恋仲だと噂はされていたけどまさか事実だったとは……あぁ、アミシュも私も、そして王宮の全コルベールファンが今夜は枕を濡らして眠るのね……」


〈ハルトが……王女様に求婚……?まさか……

まさかそんな事って……〉


護衛対象と専属騎士の恋愛や結婚はご法度とされているはずだ。


それに先日貰った手紙には、そんな事を匂わすような事すら一切書かれていなかった。


〈書けなかった……?わたしが悲しむと思って……?〉


これが単なる噂ならそんなはずはないと一蹴出来ただろう。


でも王女宮の侍女が見たって……。


その侍女がわざわざそんな嘘を吐く必要など

どこにもないはずだ。


それなら……


ハルトは既に心変わりをしていたというのか。


三年前に別れ、

手紙でしかやり取りのない婚約者よりも、

常に側にいる美しい王女の方に惹かれてしまったというのか。


わからない。


どちらを信じていいのかわからない。


離れて過ごした三年という年月がアミシュから

自信を奪ってゆく。



そして数日後、その王女宮の侍女の言葉を裏付けるような事実が公表された。


ハルト=ジ=コルベールが

第二王女付きから王太子シルヴァンの専属騎士へと転属する事が決まったと。



それは、王女と専属騎士ではなくなった二人の障害が何も無くなったという事だった。

















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