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未知との遭遇

「アミシュっ!水の精霊で動きを封じてくれっ!」


王宮魔術師団でアミシュと同じ班に所属する

マクシムがアミシュに向かって叫んだ。


只今巡回中に遭遇した魔物の討伐真っ最中である。


スライムのような粘体の魔物が形態を変化させ、

のらりくらりと攻撃を躱すのが厄介なのだ。


アミシュは水の精霊で大量の水を出現させ、

魔物の体ごと包み込んだ。


それを確認したマクシムが術式を詠唱し、

水と共に魔物を凍り漬けにする。


そしてすかさず今度はアミシュが風の精霊で

氷ごと粘体の魔物を切り刻んだ。


「やったぁ!アミシュっナイス!」


マクシムのガッツポーズを見て、

アミシュも安堵した。


「良かったぁ……あぁいう粘体の魔物って、気をつけないとネバネバでくっさい体液を浴びる羽目になるもんね」


しかしアミシュがそれを言った次の瞬間、


「キャーーーッしまった!

爆発するわよーーーっ!!」


というポピーの切羽詰まった声が辺りに響いた。


〈爆発って……!まさか!〉


そう思った途端にポピーの炸裂魔法が別の粘体魔物の体にヒットし……爆発した。


辺り一帯にネバネバした粘液が降り掛かる。


アミシュも他の魔術師たちもローブを翻し身を守るも、大量の粘液を全身に浴びてしまった。


「ちょっ……」


「うわっ臭っ!!酷ぇっ!!」


「アラザン!貴様っ!!」


「ひーーーっゴメンなさぁぁいっ!!」


班長の怒号と同時にポピーの泣きが入る。


「アラザン……教えただろう、この手の魔物に炸裂魔法を掛けてはいけないと……」


副班長のバルデがポピーにダメ出しをした。


「ホントにゴメンなさいぃ……

うぇ~ん、臭いよぉ~汚いよぉ~っ」


「大丈夫よポピー……全員同じ有り様だから……」


アミシュが呟くと、班長のゲランがため息を吐きながら言った。


「まぁとりあえず、討伐は出来たし、全員無事だったんだから良しとするか……おい、詰所へ戻るぞ」


その班長の言葉を合図に

班員全員が班長の元へと集結する。


班長が転移魔法の魔道具を取り出した。


魔力を込めて魔道具を発動させる。


すると次の瞬間には王宮の転移魔法ポイントへと転移していた。


本当に便利な道具だが、この魔道具一つの価格は

アミシュの給料の一年分もする。


粘液でベトベトになり、重みを増したローブを引き摺るようにしながら詰所へと歩いて行く。


脱いで手に持つと重いし手が汚れるので

着たまま歩く方がまだマシだ。


〈あぁ臭い……早くシャワーを浴びたい……〉

と思っていると突然、鈴を転がすような可愛らしい声が聞こえた。


「まぁ嫌ですわ、アレは一体なんですの?」


「ひっ」


声がした方へ目をやり、

アミシュは思わず小さな悲鳴をあげる。


だってそこには第二王女レティシアと彼女の騎士

たちが居たのだから。

当然、王女の専属騎士であるハルトもいる。


〈ま、まずいわ、こんな至近距離で……〉


アミシュは被っていたフードを更に目深に被る。


班長のゲランが王女に向かって一礼し、こう告げた。


「これは王女殿下、この様な見苦しい姿で御前に出ました事をお詫び申し上げます」


「貴方たちは魔術師なの?

嫌ですわ酷いにおいっ……汚らしいわ、王宮魔術師として恥ずかしくないのかしら」


王女はまるでアミシュ達を汚物でも見るような目で見た。


それを聞き、班長が答える。


「魔物の形態如何(いかん)によってはこの様な事態に陥ってしまう事もあるのです。ですが、王女殿下のお目を汚しました事、平にお詫び申し上げます。では討伐直後にございますれば、これにて失礼いたします」


その言葉を受け、副班長がアミシュ達を促す。


「ホラ行くぞ」


〈良かった……ハルトに気付かれる前にさっさと去りたい……!〉


アミシュ達は一礼してから歩き出そうとしたが、


王女は笑いながらこう言った。


「お待ちなさい。見たところ、女性魔術師もいるじゃないの。見窄らしい……女として恥ずかしくないのかしら、ねぇ?貴方たちもそう思うでしょう?」


そして王女が自身の騎士たちの方へと視線を向ける。


〈ちょっ…!こっちに注意を引かせないでぇぇ〉


王女に話を振られ、騎士の一人が大きく頷いた。


「えぇ誠に。でも所詮はレティシア殿下とは別のイキモノでございます。お気になさる必要などございませんでしょう」


〈別のイキモノだって。でももうなんでもいいから解放してぇ……!〉


心の中で叫びながらもアミシュはフードの中から

チラリとハルトを覗き見た。


ハルトはさして表情を変えずに立っている。


バレる恐れ以前に

絶対に、絶対にこんな姿をハルトに見られたくないとアミシュは思った。


だけど王女はまだアミシュ達を解放する気は無さそうだ。


「まぁ、違うイキモノなの?

道理で臭くて見窄らしいと思ったわ。この様な者たちが王宮内を歩いているなんて我が国の恥ね、

お父様に言って、追い出して貰いましょう」


〈このお姫様の頭、大丈夫なのかしら?

ちょっと何言っておられるのかわからない。

未知との遭遇だわ。にしても酷い言われよう。

誰だって好き好んでこんな事してるわけじゃないのに〉


アミシュがそう思った時、後ろに控えていたハルト

が王女に言った。


「失礼ながら殿下、この者達を追い出したら王都は魔物で溢れ返ります。そうなれば当然王宮内にも魔物が押し寄せて来て、次は殿下がこの様な姿になるのです。この者達はそうならない為に必死で戦ってくれている。労いこそすれど、貶める言葉を吐くのはお慎み下さいますよう」


〈ハルト……!〉


アミシュはハルトが自分たちを庇うような発言をしてくれた事を感動すると共に、久しぶりに聞いた婚約者の声に胸がいっぱいになった。


2年前よりも低くなった声。


アミシュが大好きな声だ。


「まぁハルト、私はべつに貶めているわけではなくてよ?事実を言っただけだわ。でも優しいのね、このような者たちを庇ってあげるなんて」


そう言いながら、王女はハルトの胸に手を置いた。


〈ちょっ……王女殿下!近い!近いですよ!

彼はわたしの婚約者なんですけど!〉


とは言えない辛さ。


その時、別の騎士が王女に告げた。


「レティシア様、そろそろ陛下とお約束されたお茶の時間でございます。お急ぎください」


「まぁそうだったわね。この様な者たちに構っている場合ではなかったわ。戻りましょう」


その言葉を残し、王女は別の騎士に手を差し出す。


その騎士は王女の手を取り、王女宮へとエスコートし出した。


取り残され、唖然とするアミシュ達にハルトが言った。


「嫌な思いをさせてすまなかった。

その有り様だと粘体の魔物の仕業だろう?俺も現場にいた時に一度そんな目に遭った事があるよ。引き止めて申し訳ない。早く戻ってくれ」


〈え?ハルトもあるの?

ネバネバハルト……ちょっと見てみたかったかも〉


アミシュがそんな事を考えているとはいざ知らず、

ハルトは軽く頭を下げ、王女の後を追って行った。


アミシュはフード越しに遠ざかる婚約者の背中を

見送る。


やっぱりハルトはハルトだった。


近衛になって出世してもハルトのままだった。


アミシュはそれが嬉しくて、

魔物の粘液を浴びた事も王女に絡まれた嫌な気持ちもいっぺんに吹き飛んだ。


〈あぁ…ハルト……好き!やっぱり大好き!〉


でもポピーやマクシムは王女に対して憤りが収まらないようだ。


「何よアレっ!王女殿下ってあんなに性格が

悪かったの!?あんな酷い言い方ってある!?」


「俺達の事をゴミを見るような目で見てたぞ!

性格が悪くて行き遅れてるって本当だったんだな」


「え、何それ?王女様って行き遅れてるの?

今お幾つ?」


アミシュが問うと、ポピーが答えてくれた。


「確かもう21歳になられるはずよ」


その事実を聞き、アミシュは驚く。


「え?年上!?てっきり年下だと思ってた……」


「まぁ若く見えるのは確かだけど、あの性格じゃあねぇ……」


聞けば王女にも当然何度か縁談話があったそうだ。


でも王女が顔の悪い男は嫌だとか、

小さな国の者は嫌だとか、年上は嫌だとかアレコレ我儘を言っていると、次第に縁談話が来なくなってしまったらしい。

当たり前である。


そうこうしているうちに年だけを重ね……。


その憂さ晴らしを若い騎士達でしているのかもしれない。


〈あり得ない……まさに未知との遭遇……〉


アミシュはなんだがどっと疲れを感じた。


班長がアミシュたちに言う。


「ホラ、もう行くぞ。とんだ道草を食わされた……

まったく……」


「「「はい……」」」


そうして再び、アミシュ達は魔術師団の詰所へと

とぼとぼと歩き出したのであった。
























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