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とある騎士の一日

「よぉハルト」


夕日もすっかり鳴りを潜め、夕闇が支配しつつある

王宮の片隅でとある騎士が同僚に声をかけられた。


「ジランか」


「今日は珍しくもう上がりか?」


「ああ」


「いいねぇ、今日も麗しの王女殿下のご尊顔を

拝しながらの勤務……羨ましいねぇ」


「……代わってくれ」


「またまたぁ!あんな美貌の姫君の側にいられて、

尚且つ無茶苦茶楽な仕事を誰が好んで手放すんだよ!」


ジランと呼ばれたその同僚の騎士が、

とある騎士の肩をバンバン叩く。


それに対し、苦虫を噛み潰したような顔で

とある騎士は言った。


「楽な仕事をしたいわけじゃない。

精霊騎士として現場にいた方がやり甲斐があった」


「お前ってホント変わってるよな。

せっかく美女の側にいるだけで給料が貰えるオイシイ仕事をしてるってのに、あ、そうそう、美女といえば!この前庭園ですんごい可愛い子に会ったんだった♪」


「良かったな」


「アレ?つれないお返事。

なんだよ、興味ない?ホントに美人だったんだって!すぐにフードで顔を隠されたけど、ぶつかった時にばっちり顔を拝んだんだ。黒い目が印象的な美人だったな~」


記憶を反芻し嬉しそうに噛み締める相手に、

とある騎士はさして興味を示さず告げた。


「俺の婚約者の方が絶対美人だ」


「え?お前、婚約者がいるの?

てかそんな事ぶっちゃけちゃっていいの?

王女殿下に嫌がられるぜ?」


「専属騎士に上がる前にちゃんと伝えている」


「それでもお前がいいんだ。よ、憎いねこの色男」


「うるさい」


「あ、なんだよ!もう行っちゃうのかよ!

メシでも食いに行こうぜ!」


「また今度な」


「うぅんもう!相変わらずツレないんだから!

ハルト様ぁ」


淑女の様にハンカチを歯噛みする真似をして見せながらジランと呼ばれる男が言った。


その声を背に受けながら、

とある騎士は…ハルト=ジ=コルベールは自身が住む寮へと向かって歩みを進めた。




◇◇◇◇◇



朝起きて、いつもの朝練に参加する。

早朝の澄んだ空気の中、何も考えずに剣を振るったり、仲間と体術の鍛錬をするのはとても気持ちいい。


ギャラリーが多いのが気に入らないが、

別に邪魔するわけでなく見ているだけなのだから

無視をする。


一部の軟派な騎士たちがよく朝練後の朝食時に、

ギャラリーの中のどこそこの侍女が可愛いだとか

なんとかという貴族の令嬢が自分に熱い眼差しを

向けていただとか、ギャラリーの中にいつも目深に

フードを被った魔術師がいて、陰気な雰囲気が

不気味だとか騒いでいるが、ハルトは我関せずを

決め込んでいた。


〈魔術師がローブのフードを被っていても少しも

おかしな事じゃないだろ〉



朝食を食べ、身支度を終えると王女宮に出仕する。


王女は起きるのが遅いので

出仕時はまだ寝ているが。


王女が目を覚まし、朝の沐浴を終え、化粧など

身支度を終えるのを待っている。


それだけでもう既に時間は昼前だ。


だがそれまでは待つしかない。


ハルトは他の専属騎士と共に隣室の控えの間にて

待機した。


第二王女レティシアの専属騎士は四人。


一人はもちろん精霊騎士のハルト。


他は正騎士になった時から近衛を務める辺境伯家の三男坊のアルマン=ロバーツ。


一般の騎士から近衛に昇進した伯爵家次男のタイラー=ヒル。


侯爵家の庶子でありながらも王女に気に入られ、

専属騎士に選ばれたジュール=バランドだ。


皆、長身で端正な顔立ちの未婚の男たちである。


心無い騎士たちの中には彼らの事を王女の

コレクションなどと揶揄する者もいるが、

王族の身辺警護に値する実力の持ち主として

近衛騎士団長にきちんと認められた上で専属になっているのだ。


いくら我儘王女のご指名でも

実力の伴わない者に王族の警護は任せられないと

団長が譲らなかったからだ。


公正な目を持ち、常に正しい判断を下せる団長に認められたのは素直に嬉しいが、王女の専属騎士がこんなものだと知っていたらなんとかして辞退していただろう。



その後、昼前にようやく姿を現した王女。


これから朝食と昼食を兼ねたブランチとやらに

付き合わされる。


いつもの流れだ。


入室した王女を確認し、

他の騎士と共に起立して騎士の礼を執る。


ハルトの騎士としての一日が昼前にして

ようやく始まるのだった。





◇◇◇◇◇




夜番の近衛騎士と交代して、今日の任務を終える。


帰寮すると寮母から手紙が来ていると告げられた。


受け取るとずっしりと重みを感じた。


その事に思わず吹き出しそうになる。


先程ちらりとコルベール地方の消印が見えたが、

確認するまでもない。

手紙の送り主は婚約者のアミシュだ。

先週書いた手紙の返事だろう。


手紙を手にしたハルトを見て、寮母は珍しいものを見たと言う風に言った。


「あなたがこの寮に来て3年になるけれど、

そんな柔らかい表情は初めて見るわ。よっぽど

大切な人からの手紙なのねぇ」


「婚約者からです」


「あらまぁ!そうなの。ごめんなさい、

引き止めちゃって、早く読みたいわよね」


そう言って寮母は奥へと戻って行った。


少々気恥ずかしさを感じながらハルトは二階の部屋へと戻るために階段を上がって行った。


部屋に戻ると着替えもせずに直ぐに手紙の封を開ける。


婚約者のアミシュからの手紙には

結婚はいくらでも待つから気にしなくていいだとか

自分がどれだけハルトの事を変わらず大好きなのか

を延々と綴ってあった。

その他は昔の思い出話とかを振り返ったりして……

つまり、それが今の互いの現状なのだ。

今、二人の間にあるのは過去の思い出だけ。

今の時間を共有出来ずに三年も経ってしまった。


本当ならばもうじき結婚式を挙げるはずであったのに。


アミシュの花嫁姿はさぞ美しいのだろう。

きっと別れた時よりもさらに背が伸び、

大人びて綺麗な娘になっているのだろう。


じつのところハルトは焦っていた。

あと2年もアミシュと離れあんな王女の側でお飾りの護衛騎士でいなければならないのか。


マスコットのように連れ回され、忠誠を尽くす事で

王女の虚栄心を満たす事に使われる。


王家に忠誠を誓った騎士である限り、

どんな時でも全力で王女を守るつもりだが、

この状態はあまりにも……。


こんな事をしている間にアミシュを他の誰かに奪われたらどうしてくれる。


なんとか専属騎士を辞する方法はないのか。

ハルトはそればかりを考えていた。


アミシュに会いたい。


会ってあの柔らかな赤い髪を指で梳き、

抱きしめたい。


精霊と剣以外

他に興味はなく、わりとどうでもいいと思ってしまう自分が唯一、特別で大切に感じる存在。


「コルベール領か……遠いな」


ハルトは遠い故郷にいるその大切な婚約者の事を想い、深くため息を吐いた。



実はむっちゃ近くにいる事を


この時のハルトは知る由もない……☆































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