プロローグ わたしの婚約者なんですけどね!
よろしくお願いします!
「あ、第二王女殿下と近衛騎士たちだ」
魔術師団の同期であるマクシムが庭園へと繋がる
回廊の方を見遣った。
そこにはこの国の第二王女であるレティシア様と
彼女を守る精鋭の騎士数名の姿が見えた。
わたしはローブのフードを目深に被る。
なんともはや“王女と騎士たち”という字面だけでも
美しいのに、全員が見目麗しき美男美女なのだ。
「すごいなー、華やかだなー、俺たちとは住む世界が違うなー」
と、マクシムがやっかみモードに入る。
「……ホントね」
わたしは呟くように言った。
本当に信じられないくらい綺麗な光景。
豪奢なドレスに煌びやかな飾りの付いた騎士服。
こちらは魔物討伐直後の薄汚れたローブ姿。
彼らとは同じ人間であるはずなのに、
何故こうも隔たりがあるのか。
「あ、見て見てアミシュ!精霊騎士の
コルベール様よ!いつ見ても素敵ね~!」
今度は同じく同期のポピーがとある騎士を指差す。
「……ホントねー」
「アミシュったらなぜ棒読み?あ、階段の手前で
王女殿下がコルベール様にお手を差し出したわ!
エスコートをご所望よ!」
庭園へと降りる階段(たったの3段!)で
王女殿下が白く細く美しい手をある騎士に向けて差し出した。
騎士はその手を取り、王女が段差を踏み外さないように細心の注意を払ってエスコートした。
まるでお芝居のワンシーンを見ているように
美しい光景だった。
ただその騎士がわたしの婚約者だという事実は、
ここにいる者は誰も知らない。
彼の出世のためにも知られちゃいけないのだ。
でも彼は、ハルト=ジ=コルベールは、
紛うことなきわたしの婚約者なんですけどね!
遠く離れた場所にいるわたしの婚約者。
この距離が今のわたしと彼の関係を表す
距離でもあるのだ。
昔はいつも一緒だったのに……。
それでもわたしは彼を信じて待っている。
だってハルトは言ったもの。
必ず迎えに行くから待っててくれって。
もう三年も前の話だけど、婚約が解消されていない
という事は待ってていいのよね?
だからわたしは待つ事にした。
どこで待っててもわたしの勝手なはず。
だからわたしは彼に内緒で王宮魔術師団に入り、
こっそり彼を見つめているのだ。
え?ストーカー?
まさか、違うわよね?
え?違わない?