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第094話 扱いに困るドラゴン


 勇者君は最後の力でルブルムドラゴンを呼び出そうとしたが、失敗し、違うドラゴンを呼び出してしまった。


「赤いねー。ウィズ、知ってる?」

「赤いし、レッドドラゴンじゃないか? きっと火を吹くぞ」


 まあ、それっぽいけど…………


「レッドドラゴンか…………面倒なものを呼び出してくれたな」


 ベリアルがため息をつく。


「知ってんの?」

「竜種に階級はないが、力は大公級と思ってくれていい」


 ドラゴンはそもそも人種ではないので、階級はない。

 あるのは畏怖を込められた王級竜であるルブルムドラゴンだけ。


「大公級…………アンジュ、出番だよ」


 私は座っているアンジュを促す。


「もう無理です。私、疲れました。明日、筋肉痛確定です」


 つっかえねー…………


「ベリアルー、おねがーい」


 私は上目遣いでベリアルを見る。


「すまんが、魔力があまり残っていない。昨日までに大公級を3人、公爵級を5人潰したからな」


 すっげー!

 ってか、こいつ、こわっ!

 大物の天使達がまとめて殺されてるし。


 私はそれを聞いて、チラッとアンジュを見る。

 アンジュも聞いていたようで、パリティを掴み、盾にしようとしていた。


「あんた、ベリアルなんか潰せるとか言ってなかった?」

「言ってません! 尊敬していると言いました!! あ、こいつはバカにしてました!」

「嘘つけよ! 僕は一言も言ってないだろ! というか、放してよ! 物騒な悪魔がこっち見てるでしょ!」


 醜い天使共だわ…………


 うーん、ベリアルもアンジュもダメかー。

 ウィズはやんないだろうし、アイリちゃんもキミドリちゃんダメだろうなー。

 仕方がない…………


「ふふふ、地を這うトカゲに我の偉大さを分からせてやるとするか!!」


 私はゆっくりとレッドドラゴンに近づく。

 しかし、レッドドラゴンは私をチラッと見ると、無視し、背中を向けて、ゆっくりと歩いていく。


「あれれ?」


 私は立ち止まり、レッドドラゴンを見ていると、レッドドラゴンは端まで歩き、大きなあくびをした。

 そして、丸まって寝始めた。


「おーい!」


 私が大きな声で話しかけると、レッドドラゴンは片目を開け、私を見た。

 そして、すぐに目を閉じ、スヤスヤと寝始める。


「何、あれ?」


 私はレッドドラゴンを指差しながらベリアルに聞く。


「レッドドラゴンは非常に温厚なドラゴンだ。年に一回ほど狩りをするだけで、それ以外は寝てばかりなヤツだな」

「ニートじゃん。ニート竜」

「まあ、竜種なんて基本そんなもんじゃからのう……」


 そういえば、ルブルムドラゴンも寝てばかりだな。


「しかも、あれは襲ってくる敵には容赦せんし、力も強いから暴れる。始末しようとすると、街に被害が出そうだな」


 迷惑な竜だな。

 というか、面倒なものってそういう意味かい。


「私の魔法で瞬殺してやるわよ!」

「生命力も強い。首を飛ばしても数分は暴れる」


 すげー!


「どうすんの?」

「うーむ…………悪いが、ちょっと話してきてくれないか?」

「私が?」


 何故に!?


「君は多分、警戒されないと思う」


 まただ。

 また、私を遠回しにバカにする。

 とはいえ、ベリアルとウィズは好戦的な魔族だし、アンジュとパリティはめっちゃ嫌われている天使だ。

 アイリちゃんはビビっているし、キミドリちゃんはバカだし、怖いので私しかいない。


 私は渋々、レッドドラゴンの下に行くことにした。


「もしもし、レッドドラゴン。起きてる?」

『なんじゃい』


 頭の中に念話が響く。

 竜種はしゃべれないので念話がデフォなのだ。


「こんな所で何してんの?」

『寝てる。というか、ここはどこだ?』

「えーっと、アトレイアとは違う世界。異世界だよ」

『何を言っているんだ、このチビ吸血鬼は…………』


 イラッ!


「貴様、我を誰だと思っている? 真祖の王級吸血鬼であるぞ!」

『王級吸血鬼? エターナル・ゼロか?』


 寝てばかりで情報が遅れとるし……


「そいつは死んだ。我はハルカ・エターナル・ゼロだ」

『ん? 一緒だろ』

「ちょっと違うから。私の方がかわいいから!」

『ふむ。まあ、そういうことにしておこうか。で? 何か用か?』


 用?

 え? 用ってなんだろ?


「えーっと、邪魔なんだけど」

『邪魔か? では、どこう』


 レッドドラゴンは起き上がると、数歩ほど歩き、また横たわった。


「いや、そうじゃなくて、えーっと、アトレイアに帰ってくれない?」

『どうやって?』


 え?

 知らない……


「時渡りの秘術を使って帰ってよ」

『そんなもんをワシが使えるわけないじゃろ。ただのドラゴンだぞ』


 だよねー……


「ちょっと待っててね」


 私は走って、ベリアルの所に戻る。


「ど、どうしよう?」

「落ち着け。説明しろ。こっちには聞こえてないんだ」

「いや、あのドラゴンをどうすればいいのかな? 言うことは素直に聞いてくれるんだけど、どうしよう?」

「ふむ。暴れる気はなさそうか?」

「眠そうだった」

「ふむ…………」


 べリアルが悩み始める。


「ここで飼うのはどうじゃ?」


 いや、犬、猫じゃないんだから。


「年末にレイド戦があるからな。隠しきれん」

「その時に出たことにすればいいじゃん」

「ドラゴンがか? 大パニックになる」


 だよねー。


「誰も来ない山に捨ててこようよ」


 我ながらナイスアイディア!


「バレた時が怖いな。しかも、ヤツは飛べん」


 地竜だもんね……

 飛べないし、あんなのが街中を歩くのは無理だ。


「勇者君の置き土産、いらないなー」

「せめて、他のドラゴンなら諦めもついたのだが、あいつは話がわかる竜だからな…………」


 確かに会話も普通にできるし、戦う気も暴れる気もなさそうだった。

 というか、どうでもよさそうだったな。


「アイリちゃん、なんかいいスキルないの?」


 私は色んなスキルをコピーしているアイリちゃんに聞く。


「スキルですか? えーっと……例えば、どんな?」

「転移とかない?」

「ないです……時渡りも秘術も空間移動のワープもすでに使ってしまいました」


 色んなスキルがあるんだなー。

 でも、すでに使用済みなのね。


「うーん、あいつを隠すのはない? 見えなくするとか」

「透明になったりする隠密系のスキルはいくつかありますけど、自分だけです。ましてや、あんな大きい生き物は難しいかと」


 あのレッドドラゴンは体長が10メートル近くはある。

 尻尾を入れればもっとだ。

 いくら透明になっても厳しいかもな……


「いっそ小さくできない? トカゲサイズくらいにさ」


 スモールラ〇ト的な。


「できます…………」


 できんのかい!

 ってか、すげー!

 マジで便利なスキルじゃね?

 ちょっとキミドリちゃんに使ってほしいな。


「じゃあ、それで小さくして、どっかに隠そう!」

「それが…………私はスキルを1回しか使えません。一度、小さくしたら元に戻せないんです」


 そういえば、コピーしたスキルは1回しか使えない仕様だったね。


「元に戻すまでが1回じゃないの?」

「そこまで便利じゃないんです。カエルにするスキルもありますが、それも戻せません」


 変なスキルもあるんだなー。


「ちょっと待っててね!」


 私はレッドドラゴンの下に走る。


「ねえねえ、小っちゃくなるのとカエルになるのどっちがいい?」


 私は寝ているレッドドラゴンをぺちぺち叩いて起こす。


『お前、頭が悪いと言われないか?』


 片目を開けたレッドドラゴンが失礼なことを言ってきた。


「賢いことで有名よ! ねえねえ、どっちがいい?」

『意味が分からん。なんでワシがカエルにならんといけないのだ? 両生類は嫌だ』


 ドラゴンって爬虫類なのかな?

 爬虫類も両生類も一緒じゃん。

 差がわかんないよ。


「異世界って言ったでしょ? この世界にドラゴンはいないからこのままだとパニックになるのよ。だからあんたを処分しないといけないの。でも、可哀想だから小さくして、どっかに連れていこうかと思ってね」


 慈悲だね。

 優しさだね。


『めんどくさい世界に飛ばされたなー。800年も生きておるが、長く生きるとこんなこともあるのだな』


 800年だって。

 長生きなドラゴンだなー。


「あんた、どうせ寝るだけでしょ。どっかに置いておけばいいでしょ」

『そうだなー……もう戦うのも飽きたし、寝るだけだなー』


 大公級レベルまで成長しているということはかなりの敵を倒していることになる。

 飽きたのか……

 こいつ、寝るためだけに生きてるのかな?


「あんた、もう死んでも良くない?」

『いや、寝るのが楽しい』


 永眠でいいと思うんだけど……


「じゃあ、小さくても良くない?」

『まあ、そうかも…………』

「じゃあ、小さくなろっか?」

『小さくなって、どこに行くんだ?』

「どこがいいのよ?」

『この世界のことを知らんからなー。暖かくて、ご飯があって、外敵がいないところがいいなー』


 怠惰すぎるドラゴンだな…………

 まあ、ドラゴンなんてこんなものかもしれない。


「外敵なんて潰せばいいじゃん」

『寝ている時に耳元でハエが飛んでいるようなものだ』


 確かにそれはうざい。


「よしよし、じゃあ、あんたは私の家のパソコンの上に置いてあげよう」

『パソコンってなんだ?』


 めんどくさいなー。


「温かい箱」

『ふむ、じゃあ、それでいい。飯はその辺の雑草でいいぞ。希望を言えば、牧草がいいな』


 こいつ、草食動物なのか…………

 レッドドラゴンのくせに……


「じゃあ、そうしよっか。ちょっと待っててね」


 私は再び、走って、ベリアルの所に戻る。


「小さくして、ウチで飼うことにした」

「大丈夫か? 温厚とはいえ、ドラゴンだぞ?」

「食っちゃ寝する置き物でしょ」


 マジでただのトカゲだ。


「まあ、君がそれでいいならそれでいいか……」


 ベリアルは納得したようだ。


「じゃあ、アイリちゃん、お願い」

「は、はい。大丈夫ですかね? 近づいたら食べられません?」


 アイリちゃんはビビっているようだ。

 まあ、アトレイアで町から出られなかった子が大公級レベルのでっかいドラゴンを前にしたら怖いに決まってるか。


「大丈夫! あいつ、草食動物らしいから」

「どう見ても、肉食っぽいんですけど……」

「大丈夫だって、ほら、おいで」


 私はアイリちゃんの手を引っ張り、レッドドラゴンの元に行く。


「ほら、大人しいでしょ」


 私はぺちぺちとレッドドラゴンを叩いた。


「はぁ……? まあ、確かに」


 アイリちゃんも納得したようだ。


『また、何か小さいのが来たな…………勇者か? 珍しいものを見たな』


 さっきまで寝ていたレッドドラゴンが立ち上がった。


「わわ、食べる気だー……」


 レッドドラゴンが立ち上がったことでアイリちゃんの腰が完全に引けている。


「アイリちゃんがビビるから立つなよ!」

『ふむ、それはすまんな』


 レッドドラゴンは再び、横たわった。


「ただでさえ大きいんだから立たないでよ。首が疲れる」

『お前らが小さいのだ。しかし、そいつ、大丈夫か? そんなんで勇者をやれるのか? ゴブリンにも勝てそうにないが……』


 多分、アイリちゃんはゴブリンにも勝てないだろう。

 力とかじゃなくて、攻撃することができないと思う。


「この子はもう勇者じゃないわ。やめたの」

『ふーん、まあ、それが良かろう。で? そいつはなんだ?』

「今からアイリちゃんがあんたを小さくするからジッとしてて」

『900年も生きているが、初めての体験だな』


 さっき、800年って言ってなかった?

 ダメだ、こいつ……

 寝すぎて自分の年齢もわかってない。


「じゃあ、アイリちゃん、お願い」

「はい。行きます!」


 アイリちゃんは詠唱を始める。

 すると、レッドドラゴンが光り出した。


『まぶしいなぁ』

「我慢なさい」


 不満を言っていたレッドドラゴンだったが、その大きな体が徐々に小さくなっているのがわかる。


「どれくらいにしましょう?」


 どうやらサイズを選べるらしい。


「あまり小さいと踏んじゃうかもしれないから30センチくらいでいいよ」

「わかりました」


 レッドドラゴンは徐々に小さくなり、ついには私達よりも小さくなる。


『おー! 子供の頃を思い出すなぁ』


 はしゃぐな、じじい。


 レッドドラゴンはさらに小さくなり、ついには30センチ程度のトカゲになってしまった。


『チビ共がデカく見えるなぁ』

「あんたがチビになったからね」

『こっちの方が便利かもしれんな。いっぱい食えるし』


 子供の頃にドーナツを食べていた時に考えたことがあるな。

 小さくなったらいっぱい食べれるのになーって。

 それと同じだろう。


 私は小さくなったレッドドラゴンを掴む。


『もうちょっと優しく持て』


 うるさいなー……


 私はレッドドラゴンを持って、ベリアル達の所に戻る。


「とりあえず、持って帰るから」

「頼む。火事だけは気を付けてくれ」


 そういえば、そうだな。

 あとでちゃんと言い聞かせないと。


「皆さん、ありがとうございました」


 アイリちゃんが頭を下げた。


「いや、こちらこそ世話になった。礼を言う」


 ベリアルが答える。


「アイリちゃんはこれからどうするの?」

「スキルを全部捨てて、普通に生きます。とりあえずは勉強ですね、来年は受験ですので」


 ということは2年生か。

 アイリちゃんが持っているスキルがあれば、受験なんて簡単だと思うが、スキルは全部捨てるらしい。


「探索者にはならない? アイリちゃんのスキルなら大成すると思うけど」


 私がそう言うと、アイリちゃんは苦笑しながら首を振る。


「私には無理です。私は剣を振ることさえできない人間です。普通に生きます」


 結婚して子供を生みたいって言ってたしな。

 まあ、本人の希望がそうならそれでいいだろう。


「頑張ってね。受験は大変だよ?」


 実は私は大学を出てたりする。

 受験も頑張ったのだ。


「頑張ります、本当にありがとうございました」


 アイリちゃんは再び、頭を下げた。

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