第085話 というか、猫って300年も生きられんの?
食事を終えた私はキミドリちゃんを誘って、再度、大浴場に向かった。
そして、星空とロリを堪能した。
…………堪能しすぎた。
「うえー……」
気持ち悪ーい……
「…………ハルカはどうしたんじゃ?」
ウィズがキミドリちゃんに聞く。
「温泉にお好みの姉妹がいましてね……ずっとガン見してたらのぼせたそうです」
「目が離せなくてー……」
「おぬしは成長せんのう」
「いや、この前の捕まりかけたことを反省して、混じるのは自重したし……」
本当は声をかけたかった……
でも、キミドリちゃんに止められちゃった。
「大丈夫ですかー?」
心優しきサマンサは呆れている2人とは違い、私を心配しながら団扇を仰いでくれている。
これが真実の愛だと思う。
「サマンサー、ビール持ってきてー」
「はーい」
サマンサは備え付けの冷蔵庫にビールを取りに行く。
「あ、私も飲も」
「妾も」
私を呆れていた2人もお酒を取りに行った。
「はい、どうぞ」
サマンサは甘い酎ハイとビールを持ち、戻ってくると、私にビールを渡してくる。
「ありがと。せっかくだし、外で飲もうか」
「はーい」
サマンサは本当にかわいいなー。
「露天を足湯にして飲みましょうよー」
キミドリちゃんが粋なことを言い出した。
「キミドリちゃん、かしこーい」
私はもうお風呂はいいから露天風呂に入りながら飲むのはできないが、足湯なら温かいし、楽しそうだ。
私達はそれぞれの飲み物を持ち、外に出る。
そして、足をお湯につけながらお酒を飲み始めた。
「風流ですねー」
「だねー」
和の心だねー。
「よくわかりませんねー」
「妾は無理じゃな」
異世界人と猫は和の心を持ち合わせていないようだ。
「私、温泉に来るのって、何気に高校の時の修学旅行以来だわ」
「友達とかと旅行に行かなかったんですか?」
まーた、キミドリちゃんが地雷を踏む。
「友達?」
「あ、いないんでしたね。そんなんでしたら修学旅行は地獄では?」
別にそんなことはない。
私は私で勝手に楽しんでいたから。
「みーんな、私と同部屋は嫌がってたね」
お風呂も私が入ると、やたら隠してた。
高校生は興味ないってんだ。
1年の後輩に良さげな子はいたけど……
「あー……あなたの性癖って、皆、知ってたんですね」
「そらね。別に隠すことでもないし」
「ふつーは隠しますよ」
「どっちみち、小学校から一緒な人は知ってるし、高校の近くに小学校があったんだよね」
それでその高校を選んだと言っても過言ではない。
「張ってるのを目撃されてたわけですか……」
『沢口さん、何してるのー?』
『小学生の女の子を見てる』
『そ、そう……?』
ここまでがテンプレートだ。
「まあ、失敗だったのは近所で不審者が出ると、毎回、先生に呼ばれたことねー」
実にめんどくさかった。
「信用がなかったわけですか……」
「いや、犯人は私だっていう信頼があったんだよ。実際、9割9分で私だし」
嫌な世の中だと思う。
ちょっと声をかけただけで事案だ。
アトレイアならそのまま家屋裏に連れていっても無問題なのに……
「そら、例の高校生の時も警察も第一容疑者であなたを挙げるわ。実際、あなたでしたしね」
「もうやんないよ……さすがにこの歳になると、普通に捕まっちゃうみたいだもん」
昔は怒られるだけで済んだのに、今は警察も悪ふざけではなくて、ガチなことに気付いている。
これが大人になるっていうことなんだろう。
「そうしてください」
キミドリちゃんがうんうんと頷いているが、私は逆にあんたが心配だよ……
「そういえば、私も警察に声をかけられたことがありますね」
私達の会話を聞いていたサマンサがポツリとつぶやいた。
「サマンサが?」
「意外ですね……」
サマンサは外では変なことをするような子じゃない。
というか、ものすごく存在感を消している。
「年齢を聞かれた後にはるるん様との関係を聞かれましたね」
それって…………
「女児誘拐と思われてるじゃないですか」
やっぱそうだよね……
「なんて答えたの?」
「特には……」
警察を無視すんなよ……
「ねえねえ、あんたって、なんで外だとしゃべらないの?」
サマンサは家だと普通なのに、一歩外に出ると、急にしゃべらなくなる。
しゃべる時も声量を落とすし、時には耳打ちまでしてくるのだ。
サマンサが恥ずかしがり屋には見えないし、内弁慶なのだろうか?
「私もそれ気になってました。ロビンソンさんから聞きましたけど、試験時も他の人が話しかけても全部無視してたらしいじゃないですか。話しかけた女の人がガチでへこんでたって言ってましたよ」
ひっで……
多分、その女の人は心配して声をかけたのだろう。
でも、無視するロリ……
そら、へこむわ。
「王族はむやみやたらにしゃべってはいけないのです。いつどこで言質を取られるかわかりませんし、お忍びでも、しゃべって王族と思われてもトラブルを招くだけです」
そういう教育をされてんのね。
「日本だと関係ないような気がしますが……」
「まあねー……」
というか、王族って言っても誰も信じないと思う。
「まあ、癖みたいなものです。実際、話しかけられても興味ないし、迷惑ですので」
それが本音だな。
こいつ、協調性が皆無だもん。
「ウィズもそういうのあるの? あんたも魔王じゃん」
「いや、王級悪魔のことを魔王と呼んでいるだけで妾は王族じゃないぞ。当たり前じゃが、生まれた当初は階級なんてないし」
こいつ、一人称が妾のくせに王族じゃないのか……
いつから妾って、言ってるんだろう?
気になるけど、厨二くさいし、黒歴史の可能性があるから触れないでおいてあげようかな。
「でも、ウィズさんって、妾って言うじゃないですかー。女王様っぽいじゃないですかー」
キミドリちゃん……
ここには何がある?
そう、空気だよ。
読も!
空気を読もう!
いや、こいつには無理か……
「…………うーん、いつから妾って言ってたかなー。昔は私だったような……うーん……えーっと…………」
覚えてないのね……
キミドリちゃんのせいで、おばあちゃんが悩んじゃったじゃないか……
「王級になってからでしょ」
「多分…………うーん、エターナル・ゼロが我とか言ってて、妾もマネしたような気がする。そっちのほうが偉そうだし…………もしくは、城を建てた時だったかな……」
全然、覚えてないのね。
というか、私のマネすんなよ。
いや、エターナル・ゼロだけど……
「ウィズさんって、どんなんだったんですか? 猫のイメージしかないんですけど」
私もそのイメージ。
だって、猫だもん。
「妾か? 強かったし、ちゃんと魔王しとったぞ」
魔王するってなーに?
「世界を滅ぼす的なことですか?」
「まあ、そんな感じかな……」
「世界を滅ぼしてどうすんのよ…………」
暇なんか?
「うーん、周りの者が担ぎ上げるし、妾は妾で強者が集まってくるからちょうど良かったのじゃ。魔族は強い者と戦いたいのじゃが、ベリアルも言ってた通り、強い王級はどこにいるかわからんからなー」
どっかのサイ〇人かな?
強いヤツに会うとワクワクすんのかな?
「ルブルムドラゴンとやりなよ」
王級の中で唯一、ルブルムドラゴンの居場所は誰だって知っている。
まあ、それでベリアルは死んじゃったんだけどね。
「あやつは嫌じゃ。ブレスで妾の髪を燃やしてくるし」
こいつ、めっちゃわがままだな。
そんくらい我慢しなよ。
どうした戦闘民族?
「ウィズさんの髪? ああ……猫じゃない時のか」
「自称ボンキュッボンらしいわよ」
自分ではなんとでも言える。
「事実なんじゃがなー。今はこんなにちっこいが」
まあ、猫だし。
「髪は白ですよね?」
「それ、今の妾を見てじゃろ……妾はおぬしやサマンサと同じ黒髪じゃったぞ」
黒だったのか……
意外だ。
「うーん、想像がつかないなー」
「写真とかないしのう……その辺はなんとも……」
「そのボンキュッボンさんは勇者にやられちゃったんでしたっけ?」
その言い方だと別の意味に聞こえちゃうね。
「まあのう……300年以上前の話じゃがな」
「そんなに前の話なんですねー。ところで、ものすごく今さらなんですけど、勇者ってなんです?」
確かに、ものすごく今さらだ。
「神の加護を受けた人間のことじゃ。アトレイアは人間より強い者がうじゃうじゃおるからな。人間が絶滅しないように神から遣わされた人間のことをそう呼ぶ。バランサーじゃな」
私も詳しくはないが、そう聞いたことがある。
弱肉強食の世界におけるバランサー、それが勇者だと。
「魔王を倒すくらいに強いのかー。その勇者さんはその後、どうされたんです?」
「普通に結婚して、子供を作って死んだぞ」
「え? 死んじゃうんですか?」
「そら、加護を受けているとはいえ、人間じゃし。100年程度で死ぬ」
「だったら勇者が死ぬのを待てばいいじゃないですか」
正論。
「うむ、その通り。実際、他の王級連中は勇者の登場と共に雲隠れしおった。妾は城を離れたくないから仕方なく、戦い、負けたわけじゃな」
実際、エターナル・ゼロもその当時は勇者が怖くて、雲隠れしている。
まだ、ギリギリ生きる気力があった時の話だ。
「な、なるほどー。お城が大事だったわけですね」
だから猫になってまでお城に住んでたらしい。
なんでそこまで執着するんだろう?
「おぬしらも城を建てて、何百年も過ごせばわかる。離れるのは嫌じゃ」
ウィズがしんみりと項垂れる。
「……今も帰りたいの?」
「いや、エアコンがないのは嫌じゃな」
その程度の思い入れかい!
「真面目に聞いて損したわ」
「というか、妾の城を我が物顔で奪ったのはおぬしじゃろ」
「めっちゃ人聞き悪くない?」
ちょっと住まわしてもらっただけだ。
「妾の玉座でふんぞり返っておったし、妾のベッドに少女を連れ込んでイチャコラしとったではないか」
そういうこともあったかもしれない!
「ファミリーって、素敵ね」
「どっかのお笑いみたいなことを言っておるのう……」
あんたはこっちの世界に染まりすぎでしょ。