第083話 キミドリちゃん~乱暴運転~やめてくれ~小さい子が~乗ってるんだぞ~♪
私達は数日を使って、行く時間と泊まる旅館の予約などを行った。
その間、キミドリちゃんはずっとフリーズしていた。
あまりにも悩み続けているキミドリちゃんを見かねたサマンサが修理から戻ってきたスカイ君に乗りたいですと言ったため、ようやくキミドリちゃんが復活してくれた。
「ささ、サマンサさんには特等席である助手席に座ってもらいましょう」
出発前、地下にある駐車場でキミドリちゃんが笑顔でサマンサを助手席に促す。
「え? 私、はるるん様の隣がいいです」
サマンサは当然のごとく拒否した。
「ダメです。あなたの要望通り、サマンサさんはスカイ君と風になるんですよ」
「私、そんな要望出しましたっけ!?」
「ささ、乗るのです。というか、あなた方を後ろに2人で乗せるとおっぱじめるでしょ。シートが汚れます」
ひっで。
多分、そうなるけど……
「ああ……はるるん様ー!」
嫌がるサマンサはキミドリちゃんに腕を掴まれ、助手席に放り込まれた。
まるで誘拐の一場面のようだ。
「ウィズ、後ろに乗ろっか」
「じゃな」
私はウィズを抱えたまま、後部座席に乗り込む。
「全員乗りましたねー。忘れ物はないですかー?」
キミドリちゃんが引率の先生みたいに聞いてくる。
「あなたは道徳を忘れてますね」
サマンサは拗ねてらっしゃるようだ。
「この場に道徳を持ってる人は見当たりませんね。きっと最初から持ち合わせていないのでしょう。しゅっぱーつ!」
キミドリちゃんが車を発進させる。
「フンフーン。いやー、いい天気ですねー。絶好の運転日和です。スカイ君も喜んでいますねー。サマンサさん、聞こえますか? スカイ君の笑い声が!」
薬キメてんのか?
「理性も忘れたようですね」
「申し訳ありません。それだけはあなたに言われたくないです」
「ケンカしないでー」
仲良くしてー。
ぶっちゃけ、どっちもどっちだから。
私達は会話をし、楽しみながら車に乗っていると、車は高速に入った。
キミドリちゃんが運転する車は高速に入ると、宣言通り、風となっていく。
「今、何キロ?」
私はあまりにも飛ばしているので気になってきた。
「たいして出してませんよ。昼間ですし……」
私は後部座席から速度計を覗き込む。
速度は150キロを超えていた。
これでたいしたことないんだ……
じゃあ、夜だったらどんだけ出すんだろう?
「思ったより早く着きそうじゃな……」
ウィズが携帯を見ながらつぶやく。
「だねー。でも、あんた、酔うわよ」
「妾が酔うわけないじゃろ。問題ないわ」
いや、こいつ、そもそも乗り物酔いを知っているのか?
アトレイアにも船ぐらいはあったが、空を飛ぶことができるウィズが乗ったことがあるとは思えない。
「大丈夫かな……?」
ちょっと心配になってきた。
「ウィズさん、ドリフトって知ってます?」
「やめろ」
何を危険運転しようとしてんだ。
ウィズを殺す気か?
「冗談ですよ」
キミドリちゃんが言うと、冗談に聞こえないんだなー。
「酔い止めを持ってくればよかったかなー」
「大丈夫じゃ」
フラグにしか聞こえないが、猫だし、三半規管は強いのかもしれない。
◆◇◆
「うえー…………」
「…………いや、ハルカさんが酔うんかい」
気持ち悪いよー……
ウィズを心配してチラチラと見てたのが悪かったっぽい……
「大丈夫ですか?」
サマンサが背中をさすってくれる。
「酔い止めを持ってくるべきじゃったな」
ホントだよ……
「とりあえず、チェックインして部屋で休みましょう。少し横になれば、回復するでしょうし」
「そうするー……」
私はサマンサに手を繋がられ、旅館に入ると、ロビーにあったソファーに座る。
その間、キミドリちゃんがチェックインの手続きと説明を聞いていた。
なお、ウィズは私の影に隠れている。
この旅館はペット禁止らしい。
「自然が多くて、良いところですねー」
サマンサは窓の外を眺めている。
ここは山の上にある旅館であり、ビルが多く、コンクリートだらけの都会とは別世界である。
私の乱れた三半規管もマイナスイオンとやらで回復しそうな気さえもする。
「サマンサの国も同じように水が多い国だったけど、全然、違うもんねー」
「はい。リンガ王国はほとんど山がありませんでしたからね。ここは木がいっぱいです」
うんうん、口を開けて、窓を眺めるロリはいいもんだ。
私の乱れた三半規管もロリイオンで回復しそうな気さえもする。
「鍵を受け取ってきましたよー……って、外を見るサマンサさんを見るハルカさん。どうしていかがわしいんでしょうね?」
戻ってきたキミドリちゃんが失礼なことを言ってくる。
「親として見守ってるだけだから」
「犯罪者は皆、そう言うんですよ」
まあ、それで昔、小学校で張ってた時に先生から注意されたけど……
「部屋はどこ?」
「1階だそうです。園児達、行きますよー」
誰が園児やねん。
私達はキミドリちゃんに案内され、部屋に向かった。
部屋に入ると、すぐに影からウィズを出し、横になる。
「結構、広いわねー」
「ですねー。あ、お茶入れます」
キミドリちゃんは備え付けのお盆から湯呑を取り出す。
「そういうのって、仲居さんがするもんじゃないの?」
イメージだけど、仲居さんが部屋を案内し、お茶を淹れながら当旅館は~的なことを説明している気がする。
「断りました。ウィズさんがいますし」
なるほどね。
「サマンサ、そこの饅頭を取って開けてくれ。猫の手じゃ包みを開けられん」
「はい」
皆が思い思いに旅館を楽しんでいると思う。
「あー……今、何時ー?」
「一人、オヤジ臭いですねー。4時です」
気持ちが悪いから横になってるだけなのにオヤジ臭いって言われちゃった。
「4時かー。お風呂は入れるの?」
「いつでもいいそうですよー。ご飯は6時ですんで、その前に行きましょう。はいどうぞ」
キミドリちゃんがお茶を私の前に置く。
「キミドリちゃんって、こういうのを率先してやるよねー」
気が利くというか、気遣いがすごい。
「こういうのが大事なんですよ。とても裏で横領しているようには見えないでしょ?」
……クズだった。
「そのためにしてんのかい……」
「いや、冗談ですよ。単純に慣れてるだけです。ギルドでもギルマスとはいえ、私は若いですからね。ふんぞり返ってるわけにはいきませんよ。それにこういうのが好きなんです」
「ふーん」
嘘くさ。
いい女アピールにしか聞こえない。
「あ、信じてないなー。私、いっつも掃除してるんですよー」
うん?
「掃除? 車の?」
前にサマンサからキミドリちゃんが毎日、車の掃除をしているらしいと聞いたことはある。
「家の掃除です。あなた方が一切、掃除しないから私がやってるんですよー」
マジ?
そういえば、投げていたダンボールとかのゴミが翌日には消えている気がする。
というか、洗濯もキミドリちゃんがやっているような……
お風呂もキミドリちゃんがいれてくれてるような……
「いつ?」
「あなた方が裸でスヤスヤ寝てる時とかです。掃除機かけてんのに起きないのがすごいですよ」
「ほえー。キミドリちゃん、すごーい」
お母さん!
「でしょう? あ、でも、1回、サマンサさんに睨まれて舌打ちされましたね。昼に掃除してキレられるのは理不尽でした」
「この子、寝起きは機嫌が悪いから」
前にもサマンサが抱きついてきたくせに、暑いって、キレられたことがある。
なお、蹴って、ベッドから落としてやったらそのまま寝てた。
「あ、この前は掃除を手伝ってくれてありがとうございました」
4つあった温泉饅頭をウィズと取り合いをしていたサマンサがキミドリちゃんに頭を下げた。
「いえいえー」
「何の掃除?」
「サマンサさんの部屋です。漫画だらけでしたんで…………」
あー、えっちなやつね。
普通の漫画も読んでるみたいだけど、えっちなやつが多い。
「サマンサはお姫様だから掃除が苦手なんだよ」
知らんけどね。
少なくとも、お姫様が掃除をしているイメージはない。
「まあ、汚かったですね。というか、物置と化してました。なんか剣とか落ちてたし」
サマンサは私のベッドで寝てるからなー。
「ん? 剣? 聖剣?」
サマンサが勇者からパクったやつ?
「ですね。キミドリさんが危ないから捨てなさいって言うんで、海に捨てました」
ええー!
聖剣を捨てちゃったの!?
「マジ? 伝説の聖剣なのに……」
「いらなかったから捨てたんですけど、いりました?」
「いや、いらんし、危ないからいいんだけど……」
勇者君、この事実を知ったら泣くだろうな……
「私が使おうかと思ったんですが、サマンサさんに鼻で笑われました」
「笑ってませんし」
「でも、内心、似合わねーって思ってたでしょ」
「キミドリさんにはもっといい剣がありますよ」
絶対に魔剣だな。
私もそう思ってる。
だって、キミドリちゃんは勇者じゃなくて、悪者だもん。