第080話 より取り見取りってキミドリちゃんっぽくない? いや、全然関係ないけどね
受付に魔導書を預け、オークションへの出品をお願いした私達はサクラちゃん達と別れ、家に帰った。
そして、“キミドリちゃんが借金を返しましたパーティー”の前夜祭という名のいつもと変わらない宴会をし、朝方には就寝した。
翌日、昼まで寝ていた私の目が覚めると、キミドリちゃんとウィズがパソコンの前に座っているのが見えた。
私は目をこすりながら下半身に絡みついているサマンサを引っぺがし、備え付けの時計を見る。
すると、すでに時刻は昼の1時を回っていた。
私は引っぺがしたのに再度、私の足を掴んできたサマンサを引っぺがしながらベッドを降りると、キミドリちゃんとウィズのもとに行く。
なお、その際、サマンサはベッドから落ちたのだが、頭だけが床につき、下半身はベッドに引っかかっているという変な格好で寝続けていた。
「どんな感じ?」
私はパソコンを注視する2人に聞く。
「あ、おはようございます……って、服を着てくださいよ。サマンサさんはゾンビというか、貞〇みたいになってるし……」
キミドリちゃんに言われてサマンサを見るが、さっきと同じ格好でピクリとも動いていなかった。
「まあまあ、いいじゃん。で? 売れそう?」
「上々です。ヒールが人気で50万円を突破しました」
ヒール、すげー!
初級魔法のヒールは軽いケガや打ち身を治す程度なのに、そんなにお金を出す人がいるのかー。
「マジ?」
「逆にライトは不人気ですね。と言っても、2万円は超えそうです」
それでも、たかが懐中電灯に2万円を出すヤツがいるのか……
「すごいねー」
「この世界は魔法が身近ではないからな。物珍しさもあるだろうが、ファンタジーに憧れを持つ者が多いんじゃろう」
ウィズがうんうんと頷いている。
「まあ、わかるわ。私も吸血鬼になった当初は魔法を使いたかったもん」
ロクに使えませんでしたけどね。
「ですよねー。やっぱり魔法は憧れますもん」
「ヒールは何冊あったっけ?」
「ヒールは8冊しかないです。まあ、こればっかりは仕方がありません」
狙ってドロップ出来ないからねー。
「何時までやんの?」
「夕方の6時までです」
「短くない?」
オークションだし、日を延ばした方が高くならないのかな?
「思ったより値段が伸びてると同時に、各地のダンジョンのマミーが出る階層に探索者が集まってるようです。このままだと、早いうちに値崩れを起こしそうなんですよ。これは早めに売って、契約成立が得策ですね。値崩れした後にごねる人もいるんで」
まあ、50万で落札したけど、今なら10万円で買えますってなったらごねるか……
その辺のことはキミドリちゃんが詳しいだろう。
こういうことの常習犯みたいだし。
「後半に出すやつは即決を入れた方が良くないか? ヒールや攻撃魔法はともかく、生活魔法は冷静になったら誰も買わんぞ」
「ですかねー。生活魔法は5万で即決を入れるか……」
私は順調そうだなーと2人の様子を眺め、ベッドに戻る。
ベッドにはさっきと同じ格好のまま寝ているサマンサがいた。
私がベッドに腰かけると、サマンサのお尻をぺちんと叩く。
「サマンサー、丸見えだよー。はしたないよー」
「……起こしてくださーい。眠いですー」
サマンサはむにゃむにゃと眠そうに頼んでくる。
私はサマンサを引っ張り上げて、ベッドに戻した。
そして、私も眠いので、サマンサと共に二度寝することにした。
◆◇◆
「はるるん様、はるるん様」
サマンサの声がしたので、目を開けると、サマンサが私を揺り起こしていた。
「なーに?」
「もう夕方です。お腹が空いたのでご飯を買いに行きましょう」
「キミドリちゃんと行ってきなさいよー」
私はもう少し寝たい……
「キミドリさんもウィズ様もパソコンの前から動いてくれません」
まーだ、見てんのか……
「テーブルの上に財布があるから私の分も買ってきてー」
「一緒に行きましょうよー」
私が誘っても、眠いからって言って断るくせに……
こいつ、こういうところがあるんだよな。
「わかったから……起きるから……目からハイライトを消さないで」
あんたの濁った目のハイライトが消えると、髪が伸びる人形みたいで怖いんだよ……
「今、何時?」
私は上半身を起こすと、時間を聞く。
「5時半です」
オークションは6時までって言ってたし、今がラストスパートか。
そら、パソコンから離れられないわね。
「コンビニにでも行こうかー」
私はそう言って、起きると、ベッドの周囲に散乱している服を拾う。
「はい。お着替えをお手伝いしましょう」
サマンサが手を伸ばして、私の服を取ろうとする。
「いらない。あんた、ヘタクソだし、いちいち匂いを嗅ぐからやだ」
「……ガーン」
わざとらしくガーンって言うなよ。
「匂いを嗅がないならいいわよ」
「じゃあいいです」
サマンサはあっさりと手を下げた。
どうして、ウチの子達は変なんだろうね。
私は服を着ると、サマンサと共にコンビニに行き、食べ物やお酒を購入する。
そして、さっさと帰宅した。
「ただいまー」
「ただいま戻りました」
私とサマンサはリビングに戻って、パソコンの前にいる2人に声をかける。
「おかえり」
「おかえりなさい」
私は買い物袋をテーブルの上に置くと、2人の近くに行く。
「どう?」
「無事に終わりました! このままいけば借金返済でーす!」
キミドリちゃんが両手を上げ、嬉しそうに笑った。
「良かったねぇ」
「いくらになりましたか?」
サマンサが私の後ろからひょこっと出てきて聞く。
「7000万くらいですねー。まあ、ここから手数料とかを引きますから6000万ちょいかな……」
高っ!
あんな低級魔法のくせに高すぎる!
「マジ?」
「マジです。ヒールが200万を超えました」
すげー!
ヒールごときが200万超えかー。
「ヤバくない?」
「ヤバいです。明日からは19階層に人が殺到するでしょうね」
いくらハズレが500円だとしても、当たりは200万円だもんなー。
「お金はいつ入るの?」
「本は預けてますし、後はギルドにお任せです。契約が成立次第、順次入ってきますよ!」
おー!
すごーい!
キミドリちゃんはただの車バカじゃなかった!
「やったね!」
「ですです。これで温泉に行きましょうねー」
「わーい」
キミドリちゃん、すごーい!
「サクラさん達も驚いてるんじゃないですかねー。あの人達の本の中にもヒールが1冊ありましたから」
マジ?
ヒールはサクラちゃんが使ったって言ってたけど、ダブりがあったのか……
運いいな……
でも、アンジュ、死んでないかな?
あの貧乏人に200万円って言われたら死ぬんじゃないかな?
聞いてみよ!
私はサクラちゃんにメールを送ることにした。
『オークションサイト見たー? めっちゃ高く売れて良かったねー』
私は送信ボタンを押すと、すぐに返信がくる。
『はい! 一緒にやっていただき、ありがとうございました! 良かったんですけど、アンジュの情緒がまた不安定になりました……パリティ君は床で笑い転がってます。どうしたらいいですか? 天使ってこんなんなんですか?』
そんなんなんだよ……
『アンジュに大金を持たせたらダメ。そいつ、今はホームレスの貧乏人だけど、元は貴族だからすぐに浪費するわよ…………パリティは蹴飛ばしときなさい』
サクラちゃんも変な天使2人に好かれて大変だなー。
『パリティ君がこれを2倍にしようって、アンジュに言い始めました!』
もうね……
あのガキんちょ……
『絶対に止めて。競馬かなんかで擦らせる気よ。パリティの目的はアンジュの絶望に歪んだ顔を見て大笑いすることだから』
アンジュなんか簡単に騙せるって言ってたもんなー。
騙されて200万円を失い、病むアンジュが簡単に想像がつく。
「サクラさんは何て?」
私が携帯でポチポチしていると、キミドリちゃんが聞いてくる。
「あっちは大変みたい。貧乏なアンジュと性悪パリティがいるからね」
「お察しします……」
私は携帯をしまい、テーブルの上に置いた袋からお酒を取り出す。
「まあ、今日は飲もうよ」
「ですねー。“キミドリちゃんが借金を返しましたパーティー”の前夜祭の続きですねー」
もうよくわからないけど、飲もう。
どうせ、毎日飲んでるんだから理由なんかいらない。
「ようやくキミドリちゃんの借金も返せそうだし、今日は朝まで飲もうかなー」
「そんなこと言って、すぐにベッドに行くじゃないですかー」
「私はあんたらほど強くないのよ」
ウィズとキミドリちゃんはめっちゃ飲むが、私はそんなに強くないので、すぐにベッドに避難しているのだ。
「そこでおっぱじめるのが問題なんですよ。私らは何を見せられながらお酒を飲んでるんだろうと思ってますよ」
だって、サマンサが誘ってくるんだもん。
「はるるん様が襲ってくるんですよ」
いや、ベッドで横になっている時に後ろから耳元で『……今日はしてくれないんですか?』って、艶めかしい声でささやかれたら襲うでしょ。
これ常識!
私の中の辞書にはそう書いてある!