第079話 時代が時代なら天下を取ったと思う。そして、失脚してたと思う
魔導書を集め出して1週間になる。
その間、私とキミドリちゃんは魔導書集めに精を出していた。
朝から19階層に行き、マミーさん相手に私の魔法やキミドリちゃんの剣を駆使し、魔導書と包帯を集めまくっていた。
今日も無事に集め終え、家に帰り、お酒を飲んでいると、キミドリちゃんの携帯が鳴った。
「なんですって!? 同じことをしているカスがいる!?」
キミドリちゃんが電話に向かって怒鳴る。
いや、カスって……
『そうなのよー。本のことを上に報告したんだけど、どうやら同じことを考えた人がいるらしくて、探索者を雇って本を集めようとしているわ』
「欲深いヤツめ!!」
キミドリちゃん、最近、ブーメランな発言しかしないな。
『どうしよう?』
「人海戦術を取られたら勝てません。こうなったら仕方がないです。公表時期を早めましょう」
『どうやって?』
「もっと上にリークするんです。ギルドが新情報を独占して、金儲けなんて許されません」
『具体的には?』
「私が長官に電話します!」
『大丈夫? キミドリちゃんや私達も危なくない?』
「私は魔法が苦手なただの探索者です。魔法を覚えようとして集めたけど、余ったから通っているギルドのオークションで売る。たまたま高値で売れた。セーフです!」
『キミドリちゃん、すごーい』
ホントね……
「あとは任せてください。そちらもオークションの調整をお願いします」
『了解!』
キミドリちゃんは電話を切ると、次にベリアルに電話をする。
『もしもし?』
「あ、長官ですか? 青野であります! 至急、お耳に入れなければならないことがあります!」
『君から? 天使案件ではないだろうな…………』
ベリアルもロクな用件じゃないと思ってるっぽいな。
「そんなことよりも大事なことです!」
そうなの?
『…………なにかね?』
あ、やっぱりベリアルも呆れてる。
「ギルドで不正が見つかりました!」
『君のか? いっぱいあったが、まだあったのか? 君が自供するとは思えんが…………』
いっぱいあったんかーい!
横領と個人情報流出の隠蔽だけじゃないんかーい!
「私は関係ありません! なんとギルドが情報を隠して金儲けをしようとしているのです! 許される行為ではありません!」
『君がよくやってたことだろ…………』
やってたのね……
だから慣れてるのね。
「今はそんなことどうでもいいでしょう! 私は元ギルド関係者として、このような悪を許せないのです!」
こいつ、ホント、すげーわ……
『めんどくさいな、こいつ…………コホン! まあ、わかった。で? その悪とやらは何かね?』
ベリアルにここまで言わせるキミドリちゃんはホント、すげーわ。
「長官は魔導書をご存じですか?」
『魔導書? ああ……人間が魔法を覚えるための本か……』
「それです! 実はマミーから高確率でドロップすることが判明したのですが、まだ、魔導書の詳細は認知されておらず、ただの珍しい本ということになっているのです」
『ああ……大体わかった。その情報の公表の前から本を集めてるんだな』
「そうです! いけないことです!」
『君は集めてないのかね?』
「いえ、長官もご存じでしょうが、私は魔法が不得手です。それをハルカさんとサマンサさんとウィズさんがバカにするので、魔法を覚えようと集めております!」
こいつ、私らのせいにしやがった!
『そうか……もういい。公表時期を早めるように言おう。明日でいいか?』
あ、めんどくさくなったんだ!
「明日!? いえ、明日は土曜日です! 土日を挟んだ月曜がいいと思います!」
土日で集めるのね……
『こいつをギルマスにしたのは誰だ……? …………わかった。月曜の昼に公表する。もういいか? これから会議なんだ』
「お疲れ様です!」
キミドリちゃんが敬礼する。
「ベリアル、ごめんねー」
私は電話に向かって謝罪した。
『貴様の眷属だろ! ちゃんと管理しろ』
「ホント、ごめん……でも、キミドリちゃんだから」
『だろうな! 遺憾ながら私の元部下だ。切るぞ』
ベリアルは電話を切った。
「さて、ギルドの人達に残業をお願いせねば…………」
こいつ、ロクな死に方せんな……
その後、キミドリちゃんはギルドのお姉さんに電話し、指示を出していた。
そして、土日は皆でダンジョンに行くことになり、早めに就寝した。
翌日の土曜からは気合マックスのキミドリちゃんを先頭にマミーさんを狩りまくった。
多分、キミドリちゃんのステータスにはマミーハンターの称号があると思う。
翌日の日曜も朝からダンジョンに行き、マミーを狩りまくった。
そして、夕方になり、ようやく長いマミー狩りを終えたのであった。
「ふむふむ。合計で124冊ですか…………予定より少ないですが、仕方がありませんね」
キミドリちゃんはそう言うが、満足そうに頷いた。
「本当に儲かるの? これで売れなかったらきついよ」
ずっと手伝ってたから疲れたよ……
「それは明日の昼のお楽しみです」
「オークションは昼にするの?」
「ええ。魔導書の公表が昼の12時ですので、オークションも12時に開催です。たまたまこうなりました」
たまたまかー。
「値段、上がるかねー」
「大丈夫です。あらかじめ、昼にギルドからすごい情報が発表されると噂を流しておきましたから……」
「妾がやったんだぞ!」
お前ら、何してんだよ……
「それこそアウトじゃない?」
「妾はかもしれないとしか書いておらん。そんな気がしただけじゃ」
ウィズ……
そっちに行かないで……
帰っておいで。
「よーし! 帰りますか! 今日は集めた本をギルドに預けて終了です! 今日は“キミドリちゃんが借金を返しましたパーティー”の前夜祭です!」
キミドリちゃんは意気揚々と帰っていったので、私達もそれに続いた。
ギルドに戻ると、キミドリちゃんが受付で悪いお姉さんと話しながら本を渡している。
私はそれを後ろから眺めていると、知っているパーティーが階段を上がってきた。
「あ、ハルカさん、こんにちはー」
サクラちゃんである。
その後ろにはアンジュとパリティもいた。
「こんにちは。ダンジョン帰り?」
「そうです。今日は5階層に行きました」
「おつかれー」
サクラちゃんは頑張っているようだ。
「そういえば、アンジュ、サクラちゃんに魔導書を渡したの?」
アンジュはロビンソンに頼み、魔導書を10冊も集めていた。
「ん? あー、あれね。渡したぞ。えーっと、何の魔法を覚えたんだっけ?」
アンジュがパリティに聞く。
「ファイアーボールとアイスランスとヒールだね。アンジュさー、天使のくせに魔法文字が読めないなんてありえないでしょ」
アンジュも読めないのか。
サマンサに教えてもらおうかな……
こいつと一緒はなんか嫌だ。
「ホントねー。いきなり、はいこれって渡されて、何これってなったよ」
いきなり渡されて、魔導書ですと説明されたんだろうな。
で、何の魔法かは文字が読めないのでわかりません、か……
パリティがいて良かったね。
「全部、使えばいいじゃないですか」
「ライトを覚えても仕方がないじゃん。いらないよ」
「夜道に便利ですよ?」
「いや、この辺は普通に街灯があるから……」
田舎に行けば、街灯がない所もあるだろうけど、この辺は24時間明るいからなー。
「じゃあ、その3つだけ覚えてんだ?」
「そうですね。便利な物もあるんですねー」
「残りの7冊は?」
「お父さんに返したんだけど、いらないって言われたから売ります」
「もう売ったの?」
「いえ、パリティ君がもう少し待てって」
私はそう言われてパリティを見る。
「売るなら高い方がいいでしょ。いい加減、アンジュの身の周りの物を揃えないと冬になっちゃうし」
こいつには情報が筒抜けなんだよなー。
まあ、便乗して、商売敵になったらキミドリちゃんがブチ切れると思うけど。
「そういえば、あんた、自転車が欲しいって言ってたわね」
「ん? あー、おじさまが買ってくれたぞ」
ロビンソンも甘いなー。
「お礼は言った?」
「んー? 言ったかなー」
「言ってたよ! すごく言ってたよ!」
パリティがものすごく慌てている。
なんだこいつ?
「…………まあいいわ」
「はるるん様、ついでにサクラさん達が持っている本もオークションに出してしまっては? ついでですし」
サマンサが急に耳元でささやいてきたので、びっくりしてしまった。
なんでサマンサは外だと普通にしゃべらないんだろう?
「どうする?」
私はパリティに聞く。
「そっちの方が高いか……じゃあ、お願いしようかな。アンジュ、本をちょうだい」
「え? 売るの?」
「高い方がいいでしょ。いいから出して」
アンジュがアイテムボックスから本を7冊出したので。それを受け取り、キミドリちゃんの所に向かう。
「キミドリちゃん、キミドリちゃん」
私は受付で話しているキミドリちゃんに声をかけた。
「ん? どうしました?」
「これも出して」
「どこで拾ったんです?」
落ちてるわけないじゃん。
それともカツアゲの隠語か?
「アンジュというか、ロビンソンが集めたやつだよ。サクラちゃんが使った余りだからついでに出してあげてよ」
「なるほど。すみません。これもお願いします」
「任せておいて!」
受付嬢はウキウキでアンジュ達の本を受け取る。
「行けそうですか?」
「ちょっと残業になるけど余裕よ!」
「すみませんねー」
「大丈夫! キミドリちゃんが借金を返したらお祝いしようね」
「私が焼肉を奢ってあげますよ!」
「おー、さすがはキミドリちゃん!」
キミドリちゃんは人気だなー。
同じクズでも、ホント、アンジュとは正反対だわ。