第074話 さすキミ
高貴な私は良い人なことに定評のあるロビンソンを捕まえると、19階層へのタクシーを頼んだ。
良い人なロビンソンは私の色香に惑わされてしまい、首を縦に振ることしか出来なかった。
これが魔性な私の罪なのだろう。
「このチビ、何言ってんだ? 色香って……」
「貴様にはわからんか…………我の魅力が」
これだからノーマルなヤツは…………
「いや、わかったらマズくね? 娘より年上かもしれないけど、そうは見えんし。おじさん、捕まっちゃうよ」
「じゃあ、アンジュみたいなのが良いの? それともキミドリちゃん?」
「いや、どっちにしろダメだろ。嫁さんに逃げられちゃうよ」
もし、そうなったらパリティが爆笑しそうだな。
「うーん、まあいいわ…………うむ! ご苦労であったぞ。この働きに報いてやろうではないか。何かないか?」
おすすめのロッリロリなエロ本がいいかな?
「ついでだし、別にいらねーよ。前にも言ったが、サクラ達を頼むわ。じゃあな」
19階層に着いた私達だったが、ロビンソンは別行動をするつもりらしい。
「サクラ達を頼むわ…………これがロビンソンの最後の言葉となることは今の私達にはわからなかった…………」
「やめろや」
「いや、1人で大丈夫なの? ここ19階層だけど…………」
人間には辛くないだろうか?
マミーは魔法や特殊な攻撃をするわけではないが、単純に強いし、生命力も高い。
「俺はBランクだぜ? さすがにマミー相手に後れは取らねーよ。それに目的が同じ場合は分かれるもんなんだよ。揉めるとめんどいし」
うーむ、さすがは揉め事を回避したがるロビンソンだ。
「そっかー。じゃあ、まあ、ここでお別れね。あ、サクラちゃんによろしく。それとアンジュに余裕を持つようにアドバイスしておいて。このままだと、あんたの望みは叶えられないって」
「アンジュの望みって?」
「それはあんたは知らなくていいことよ。あんたは子離れしなさい」
「わかってはいるんだけど、嫌だなー」
ロビンソンはそう言って、肩をすくめながら奥へと歩いていった。
「実際、一緒に行動すると揉めるの?」
私はロビンソンを見送りながらキミドリちゃんに聞く。
「揉めることもありますが、ロビンソンさんの人間性を考えると、私達と揉めることはないでしょう。気を使われたんですよ。多分、ロビンソンさんはあなた方やあの天使姉弟が人間じゃないことに気付いています。ただ、特に害なす存在とは思えないから見ないようにしてるだけですね」
だよねー。
どう考えても私達はおかしいもん。
「昔からああいう人間は長生きするもんじゃ。賢い生き方を知っている」
ウィズが私を見上げながら言う。
「でしょうね。アニメとかにいるベテランキャラだわ」
主人公とかにアドバイスする人。
「さて、ロビンソンさんに連れてきてもらったことだし、マミー狩りといきますか!」
キミドリちゃんは気合十分といった感じだ。
「あ、そういえば、さっき受付のお姉さんと何を話してたの?」
「魔導書の説明とその情報の公表時期の調整ですね。公表して即オークションに出すので」
ホント、たくましい人だなぁ。
「オークションに出すんだ…………」
「新アイテムは値段がつけにくいんですよ。こういう場合はオークションに出すのが通例です。ある程度、時期が経てば、値段も落ち着くんですけどね」
なるほどー。
そういうものかもしれない。
「時期はいつ?」
「3週間後に上に報告してもらうようにしました。公表は1ヶ月後くらいですかねー。それ以上遅くすると、誰かが気づくかもしれませんし、その辺がタイムリミットでしょう」
その1ヶ月の間に集めまくるわけね。
「実際、儲かると思う?」
「もちろんです。新アイテムは発見初期こそが最大のブーストなんですよ!」
「それにしては、人がいなくない?」
ダンジョンに来たばっかりだけど、誰もいない。
「他の人は本がどんなものか知りませんし、19階層ですからねー。低ランクは来れませんし、高ランクはお金を持っているのでスルーです。来るのは中堅連中ですが、まだ様子見でしょう。なにせハズレは500円ですからね」
確かに、9割の確率で500円では本当に売れるかもわからない本を集める気になれんな。
「なるほどねー」
「ですので、公表された翌日には、この19階層に探索者があふれていると思いますよ。私達はその隙に北千住のギルドでオークションを開催し、ぼろ儲けです。私の借金はさようなら。北千住のギルドも手数料で儲かる。皆、ハッピーです」
こういうことは上手なキミドリちゃん。
さすがはギルマスの地位を最大限に活用(横領)していただけのことはある。
「それって、何とか法になんない? インサイダー?」
「株じゃないですし、私は情報を横流ししてもらったわけでもないです。逆に情報を提供しただけですよ。ギルドも情報の精査に3週間かかっただけです。何か問題が?」
「ないでーす」
「よろしい。では、参ろう! 儲かったら温泉に連れていってあげましょう!」
「おー!」
さすがはキミドリちゃんだぜ!
「温泉って何ですか?」
「でっかい風呂らしいぞ」
「へー」
サマンサとウィズのテンションがあまり高くないな。
お金に困ったことがないサマンサはお金に興味がなく、ウィズは眠いからだろう。
私達はキミドリちゃんを先頭にマミー探しに向かった。
私達がマミーを探していると、先頭のキミドリちゃんの足が止まった。
「ん? いた?」
私はキミドリちゃんがシックスセンスでマミーを見つけのだろうと思い、聞いてみる。
「ええ。いますね。さあ、来い! この≪瞬殺≫が相手にしてやる!」
ダンジョンでやる気のあるキミドリちゃんを見るのはいつぞやのユニコーン以来だなー。
あの時以降、私達とダンジョンに潜っている時はあんま戦うことはないのだ。
キミドリちゃんは剣を取り出すと、正眼に構え、マミーを待ち構える。
キミドリちゃんの構えは凛としており、本当に剣道少女っぽい。
キミドリちゃんが剣を構え、静止したままでいると、奥から全身を包帯でぐるぐる巻きにした男が現れた。
もちろんケガをした人間ではなく、マミーだ。
マミーは見た目は人間サイズと変わらないが、れっきとしたモンスターであり、力も強い。
そして、最大の特徴は不死系モンスターであるため、なかなか死なないということだ。
マミーは私達を見つけると、走って先頭にいるキミドリちゃんに襲いかかった。
キミドリちゃんはそんなマミーを見ても一切動じず、ただただ静かに構えたままだ。
マミーはキミドリちゃんに接近すると、腕を振り上げる。
それを見たキミドリちゃんが動いた。
キミドリちゃんは左足で踏み込むと、ものすごいスピードでマミーを切った。
マミーは一瞬、動かなくなると、そのまま崩れ落ちるように倒れる。
私が倒れたマミーを確認すると、マミーは二つに分かれており、完全に死んでいた。
直後、マミーは煙となって消えてしまった。
「キミドリちゃん、すごーい!」
「かっこいいです!」
「本当にすごい剣技じゃのう!」
後ろにいる私達は拍手でキミドリちゃんを称賛する。
「ふっふっふ。見ましたか? これが≪瞬殺≫です!」
キミドリちゃんは本当に強いなー。
これだけ強いんだから魔法なんかいらないだろうに…………
「おっ! 1割の確率なのに、早速、魔導書をドロップしたようです! 幸先がいいですねー。きっと私の日頃の行いが良いおかげでしょう!」
う、うん。
「…………きっとそうだよ」
「小声で同意しなくてもいいですよ。冗談なので」
キミドリちゃんはそう言うと、落ちている魔導書を拾う。
そして、本をパラパラとめくった。
「うーん、やっぱり読めないなー」
「貸してください」
サマンサがそう言って、キミドリちゃんに手を伸ばすと、キミドリちゃんが魔導書をサマンサに渡す。
サマンサは魔導書を受け取ると、表紙をじっくりと見た。
「これはライトですね」
サマンサが魔導書に書かれている魔法をキミドリちゃんに教える。
「読めるんですか?」
「昔、魔法学校で古代魔法文字は習いました。ただ、古代魔法文字も完全に解明されたわけではないので、抜けがありますけど」
サマンサって、本当に才女だな。
魔法学校を首席で卒業しただけのことはある。
「ライトかー。以前、ウィズさんが使っていた光る魔法ですよねー……」
キミドリちゃんの反応的に微妙そうだ。
「アトレイアでは人気の生活魔法なんですけどね。ただ、まあ、こちらの世界では使いませんね」
電気あるもんね…………
正直、要らないだろう。
「どうする? キミドリちゃんが覚えてもいいけど…………」
さすがにいらないかな?
「戦闘の最中に目くらましとかできます?」
キミドリちゃんがサマンサに聞く。
「生活魔法ですので、そこまでの光量は望めないかと……魔力を込めれば出来ると思いますが、燃費は悪いです」
それじゃあ、魔力の低いキミドリちゃんでは無理かな。
「これは売りに出しましょう。物珍しさで金持ちが買うかもしれません」
まあ、キミドリちゃんの言う初期ブーストで買う人もいるかもしれない。
「そうかもねー」
「よーし! 次です! 次に行きましょう!」
キミドリちゃんはめげずに頑張るようで、意気揚々と奥へと進んでいった。




