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第071話 今日から私はドジを卒業する!


 私は今、温泉に入っている。


 周囲には若い子からおばさんまで、多くの人がおり、皆が満天の星を見上げ、至福の時を満喫していた。

 一人旅の人間もいれば、家族連れっぽい人もいる。

 ただ、ここは女湯なため、男の人はいない。


 日が沈めば、少し肌寒さを感じるこの季節に入る露天風呂は最高だろう。


 皆は至福の湯につかりながら都会の町では見れない星空を見上げている。

 とても良いことだと思う。


「いや、ハルカさんも空を見てくださいよ。なーにを小学生っぽい姉妹がきゃっきゃしてる脱衣所の方を嬉しそうに見てるんですか…………」


 隣で長い黒髪を上げ、湯につかっているキミドリちゃんが呆れてたように話しかけてきた。


「あそこにもきれいな星があるんだよ…………混じりたいなぁー」


 星空よりも少女やでぇー。


「あなた、それで捕まったんでしょ」

「捕まってないから! ギリセーフだったから! これ重要!」

「長官に感謝してくださいねー。しかし、いい湯ですねー。お酒が欲しいです」


 キミドリちゃんはキミドリちゃんでダメ発言をしているんだよなぁ。


「さすがに大浴場じゃ無理だよ。そうだ! あとで部屋の露天風呂でやろうよー」

「いいですねー。今はサマンサさんが一人で入っているんですかね? サマンサさんも来ればいいのに」


 この大浴場の温泉には私とキミドリちゃんしか来ていない。

 猫であるウィズは当然無理だし、サマンサも大浴場に来るのを拒否したのだ。


「仕方ないよ。サマンサは王族だし、アトレイアには大衆浴場の文化がないからねー」

「痴態は見せつけてくるくせに、温泉が嫌な理由がわかりませんねー」

「まあ、サマンサ的にはキミドリちゃんは同じ眷属の吸血鬼だし、仲間意識があるんでしょ。だから身内に見せて興奮してるんだよ」


 私はキミドリちゃんにサマンサの性癖を説明しているが、実は私もよくわかっていない。

 というか、口に出すと、本当に意味不明だな。


「いらない仲間意識ですねー。サマンサさんって、昔からあんなんだったんですか?」

「そうでもないんだけどね。サマンサは他の眷属の子が嫌いだったし」


 他の2人がその場にいると、すぐに部屋の隅っこに行き、本を読みながら嫉妬でこっそり睨んでいた。

 正直、そのうち呪い殺すんじゃないかと思っていた。


「それで、何故、私はいいのか…………」

「キミドリちゃんは頭がおかしいからねー。多分、サマンサも引いてるから敵対しないんじゃない? まあ、9割はキミドリちゃんがでっかいからだと思うけど」


 サマンサはキミドリちゃんが私の首を刎ねたくだりを聞いて、ドン引きしてた。

 まあ、私も引いてるけど……


「サマンサさんに頭がおかしいって思われてんか…………」

「まあ、しょうがないよ。多分、キミドリちゃんって、自分が一番マシって思ってるでしょ」

「当たり前じゃないですか。変態とバカよりマシです」

「私も思っている。横領女と変態よりマシだって」


 多分、サマンサも似たようなことを思っているだろう。


「……………………」

「……………………」


 私とキミドリちゃんは揃って空を見上げる。


「きれいですねー」

「だねー」


 本当に満天の星が綺麗だ。

 そう…………まるで私達の心のように…………


「来て良かったですねー」

「だねー。たまにはこうやって外に出るのもいいもんだねー」


 私とキミドリちゃんはそのままずっと湯に入り続けた。




 ◆◇◆




 時は少し戻り…………



 私はパリティからパリティの真の目的や色んな事を教えてもらったあと、急いで、家に帰った。


「ねえ? この動画はなーに?」


 家に帰ると、ウィズはもう起きていたので、携帯で動画サイトを開き、問い詰めた。


「あー…………」


 ウィズはその動画を見ると、視線を上に向ける。


「うーーむ…………」


 今度は俯いた。


「あんた、私のカリスマを撮るんじゃなかったの?」

「いやのう…………そのつもりだったし、ちゃんとおぬしのかっこいい動画を投稿した。実際、そこそこ人気も出たし、まあ、それはそれでよかった」


 その動画は以前に見た。

 私がかっこいい詠唱を唱え、ポイズンスライムを倒していた動画だ。


「それでいいじゃん」

「いや、あの時はポイズンスライムばっかでバリエーションがなかったろ? そこでNG集を投稿したんじゃ。ほれ、映画のエンディングとかであるじゃろ」


 んー?

 香港とかの映画で見たことあるような気もする。


「なるほどねー。おまけ的なもん?」

「そうじゃ。しかし、そっちの方が人気が出た。おぬしは容姿はいいが、かっこいい系より可愛い系じゃろ? やっぱり世間の男共はドジっ子の方が好きだったみたいじゃ」


 まあ、それはわかる。

 私はエターナル・ゼロやキミドリちゃんとは違い、身長も低いし、顔立ちも幼い。

 そりゃあ、ドジっ子の方がウケるとは思う。


「ドジっ子路線は嫌だなー」

「いや、まあ、そうじゃな…………」


 でも、おぬしってドジじゃろって、思ってそうだな。


「まあ、やってしまったものはしょうがないか…………でも、もうやめてね」

「うむ、すまんな。それと当分は動画の投稿は控えるつもりじゃ」


 ウィズはしょんぼりと俯く。


「いや、そこまで反省しなくても…………」

「うーん、実はな、この間の生配信があったじゃろ? キミドリとおぬしが料理をしたやつ」


 あー……あったね。

 ゲロマズカレーで吐いたやつ。


「あの動画がどうかしたの?」

「うむ。大炎上した」


 あちゃー……

 キミドリちゃんのせいだな。

 間違いない。


「ふざけすぎたかなー?」

「じゃな。食べ物で遊ぶなとか、ケンカすんなとか、酒飲むな、とかじゃな」


 うーむ、否定できない。


「やっぱダメだったかー」

「せっかく撮ったし、アーカイブを残してあるが、低評価と辛辣なコメントだらけじゃ」


 いや、消しなよ。


「でしょうねー」

「うむ。というわけで当分、撮影はするが、投稿は控えることにした」

「まあ、いいんじゃない?」


 私はどっちでもいいし。


「すまんなー。ところで、おぬしはどこに行っておったんじゃ?」

「あ、そうそう。買い物に行ったらパリティに会ったんだよ」


 私はウィズにパリティとの先ほどの会話を伝える。


「ふーむ、なかなかな策士じゃなー。天使らしいというか、なんというか……」

「どちらにせよ、私らには関係ないっぽいね」


 身内同士で勝手にドロドロしてればいいよ。


「じゃなー。ベリアルには?」

「伝えたー。とりあえずは静観だってさ。目下の敵であるゾロネは死んだし」


 パリティとアンジュは結構、強そうに言ってんだけど、知らないうちに死んでた。

 何だったんだろう?


「めんどいのが消えたならいいじゃろ。妾は現場におらんかったから知らんが……」

「アンジュがみっともなかったねー」


 醜態と書いてアンジュだ。


「まあ、200年も一人だったんじゃし、しょうがないじゃろ。気持ちはわかる」


 ウィズはアンジュをかばうように頷いている。


 多分だけど、ウィズも一人だったんだろうなー。

 アトレイアのダンジョンにも一人で行ってたって言ってたし。

 ウィズは魔族だし、友達や仲間を作って群れるようなタイプには見えない。


「ウィズには私がいるよー」


 私はそう言って、ウィズを抱える。


「そうじゃなー」

「うんうん」


 ファミリーだよー。


「ところで、今、いくらぐらい金があるんじゃ?」


 ウィズはファミリーを信用してないな。

 まあ、私が悪いんだけども……


「500万くらいはあるから大丈夫だよ」


 ここ最近はロビンソンの依頼もあったし、結構、頑張っているのだ。


「だいぶ貯まったのう」

「と言っても、屋敷を買うには全然だけどね」


 いくらかかるかは知らないけど、軽く億は行くだろう。


「まあ、そこは気長で良いじゃろ。今はこのマンションで満足じゃし、ダンジョンの奥に行けるようになれば、その分、収入も良くなる」

「まあねー。時間だけはいっぱいあるし、焦ってもしょうがないもんねー」


 不死だし、時間はいっぱいある。

 いくらでも稼げるし、そのうち屋敷を買って引きこもることもできるだろう。


「逮捕だけはやめてくれよ…………」

「うん。もうしない…………」


 はるるん反省ー☆彡


 私達はその後、ようやく起きてきたサマンサとご飯を食べると、3人でゲームをした。

 そして、夕方になると、キミドリちゃんがお勤めから帰ってきたので、いつものように4人でお酒を飲みながらご飯を食べ始める。


「いやー、参りました。あの動画はマズかったっぽいですねー」


 キミドリちゃんがいつもののり弁を食べながら今日、ギルドであったことを話し始めた。


「動画って? 私のドジ動画? キミドリちゃんの料理動画?」


 マズい動画は2つもある。

 私の方はただ私がバカにされる動画だけど。


「料理の方ですよ。北千住の探索者は大半が見たらしいです。誰かが宣伝をしてたようで…………」

「あちゃー、見ちゃったかー。まあ、動画サイトに投稿してるんだからしょうがないけど、あの動画はキミドリちゃんのダメさ加減がピックアップされてるからなー」


 キミドリちゃんの元ギルマスで優秀なイメージがー。


「いや、まあ、私の良いイメージって、もうそんなにないんですけどね。主にハチマキのせいで…………」


 借金返済中か……

 確かに…………


「からかわれた?」

「ですねー。ハルカさんはイメージ通りらしいですけど、私はもっとまともかと思ってたって笑われました。元同僚からは料理できなくても大丈夫だよって慰められましたね」


 ちょい待ち!


「いや、私がイメージ通りって?」

「あなたはあの動画がなくても、北千住ではドジで有名ですから」


 なんでやねん!


「私って、そんなにドジかな?」

「はい! ドジです!」


 食い気味に言わなくても……


「気を付けよーっと」


 私がそう言うと、キミドリちゃんがニヤニヤしだした。

 うぜー……

 絶対に無理だなって思ってそう……


「…………今日はそんだけ? 事件とかなかった? アンジュがみっともなかったりしなかった?」

「サクラさん達は今日は来てなかったっぽいですねー。あー、でも、事件というかニュースはありましたよ。新アイテムドロップ情報です」

「何それ?」

「19階層のマミーのレアドロップが判明したんですよー」


 マミーさんね。

 どうせくだらないものだろうなー。


 私はこれまでの不死仲間のドロップ品の安さからまったく期待を持つことが出来なかった。

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[一言] マミーのレア泥ってことは、それだけ狩った人がいたか それとも単純に運がよかったか…
[一言] これは高い予感!
[一言] はるるん間違いなく懲りてないな… そのうちまた官憲のお世話になるようなことやらかしそう マミーのレアドロップ、乳酸菌飲料だったりして
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