第066話 ハルカちゃんだって、反省するんだよ!
私とキミドリちゃん、サマンサの3人はロビンソンの依頼であるサクラちゃんの指導の依頼を終えるためにダンジョンに向かった。
私達はキミドリちゃんの車でギルドに行くと、車を駐車場に置き、ギルドに入ろうとする。
しかし、ギルドの入口にはギルドの職員と作業着を着たおじさんがたむろっていた。
よく見ると、職員のお姉さんと作業着のおじさんは入口にあるゲートをいじくりながら話をしている。
「どうかしました?」
キミドリちゃんがギルド職員のお姉さんに声をかけた。
「あ、キミドリちゃん。実はこのゲートが不調なの」
お姉さんはゲートを指差しながら答える。
このゲートは武器を持っていると反応して、ブザーが鳴るというゲートだ。
万引き防止みたいなものだろうけど、実際に鳴ったところを見たことはない。
「不調って? 鳴らないんですか?」
「いえ、逆なの。誰も通ってないのに急に鳴ったからびっくりしちゃった」
そりゃあ、びっくりするわ。
幽霊かな?
「うーん、ちょっと原因がわかりませんねー」
作業着のおじさんがお姉さんに言う。
「ですかー……うーん」
お姉さんは悩んでいるようだ。
ゲートが壊れているとなると、武器を持ち出すヤツが現れるかもしれないからだろう。
といっても、このまま直るまでの間、ギルド内にいる人間を拘束も出来ない。
「武器を持った人が通っても鳴らないんですか?」
キミドリちゃんが再び、お姉さんに尋ねる。
「いや、さっき確認したらちゃんと鳴ったね。あくまでも急にブザーが鳴っただけだと思うわ」
「うーん、でしたら上に報告だけして、このままでいいと思います。今さら武器を持ち出す人がいるとは思えませんし、もし、武器を持ち出して、罪を犯してもギルドは関係ないです。それに、ギルドにいつまでも拘束する方が問題ですよ。あいつら、ガラが悪いので下手をすると暴動が起きます」
キミドリちゃんがギルマスしてるー。
「だよねー……キミドリちゃんがそう言うならそうしよっかなー。あ、キミドリちゃん達は通っていいよ」
お姉さんがそう言って、私達に中に入るように促す。
「じゃあ、そうします」
「うん。あ、サクラちゃん達はもう来てるよ。それと、あー…………まあ、受付で聞いて」
お姉さんはキミドリちゃんにサクラちゃん達がすでに来ていることを教えると、最後に私を見て、顔を引きつらせた。
「ハルカさんがどうかしましたか?」
さすがにキミドリちゃんも気になったらしく、お姉さんに説明を求めた。
「受付で聞いて。お客さんが来てるから。私の口からそれ以上は言えない……」
ものすごい嫌な予感がする。
「き、キミドリちゃーん……」
私はキミドリちゃんの服を掴む。
「ハルカさん、さようなら……」
おーい!
私達は吸血鬼ファミリーではないんかい!
「私、帰るね」
私はそう言い、回れ右で帰ろうとしたのだが、キミドリちゃんに肩を掴まれる。
『ハルカさん、犯行日時はいつですか?』
キミドリちゃんが念話で聞いてくる。
『えっと、忘れたけど、7月の中旬くらい……』
『まあいいです。向こうがアリバイを聞いてきたらその日は私と一緒にいた。そう答えるのです』
き、キミドリちゃん…………!
さすがは横領の常習犯で顧客情報流出を隠蔽した女!!
なんて頼もしいんだ!!
「よし! 私は何もしていないし、何も知らない」
「ですです。ここは私に任せてください。こういうのは慣れてますんで」
さすがはキミドリちゃんだ!
めっちゃかっこいい!
口裏合わせを終えた私達はギルドに入り、受付に向かう。
「こんにちはー」
キミドリちゃんがいつもの受付嬢に挨拶をする。
「こんにちは。えーっと、早速ですが、警察の方が来ています……ハルカさんに話を聞きたいそうです……奥へどうぞ」
やはり税金泥棒の警察か!
多分、というか、絶対にあの女子高生の件だろう。
だが、私は捕まるわけにはいかないのだ!
「サクラちゃん達は?」
「サクラさん達は先にダンジョンに行っておられます。3階層で連携の確認をしておきたいそうです」
先に行ったか……
まあ、パリティもいるし、キミドリちゃんがいなくても3階層程度なら問題ないだろう。
「よーし、無実を訴えるぞー」
「あのー、ハルカさん、他意はないんですけど、あまりしゃべらないでください」
ん?
どういう意味かな?
うーん、でも、ウィズにも言われたことがあるし、しゃべらないようにしようかな。
「わかった」
私達は受付嬢に案内され、奥の部屋に通される。
部屋に入ると、若い女性とおじさんが2人で座っていた。
私はこの2人の組み合わせに見覚えがあった。
「あ」
私は2人を見て、思わず声が出た。
「ご無沙汰しております」
「久しぶりだね。沢口さん」
若い女性とおじさんは笑顔で私に挨拶をする。
『知り合いですか?』
キミドリちゃんが念話で聞いてくる。
『昔、プールの更衣室で痴漢した時に事情を聞かれた刑事さん…………』
『ああ……前に言っていたプールの更衣室事件ですか…………痴漢って……』
キミドリちゃんが引いている。
お願い、キミドリちゃん!
見捨てないでー!
ちょっと水着が着崩れしている子がいたから直してあげただけなの!
「あなた方は?」
女の刑事さんがキミドリちゃんとサマンサを見ながら聞いてくる。
「探索者の仲間で同居人です」
キミドリちゃんがはっきりとした口調で答える。
キミドリちゃん、かっこいい!
「出来たら遠慮してほしいのですが…………」
「いえ、それは出来ません。ハルカさんは非常に混乱していますので」
混乱してませんが?
「そうですか…………じゃあ、仕方がないですね。早速ですが、沢口さん、この女性をご存じですか?」
女の刑事さんはそう言って、私に写真を見せてきた。
もちろん、写っているのは例の女子高生だ。
えーっと、キミドリちゃんもウィズもあんましゃべんなって言ってたな。
よーし!
「黙秘します!」
「…………はい?」
女の刑事さんが聞き返す。
『バカロリ!! 黙秘権を行使するところじゃねーよ!! 知りませんって言え!!』
キミドリちゃんが念話で怒鳴ってきた…………
「やっぱ知りませーん……」
そんなに怒らなくてもいいのに…………
「知らないですか…………名前も知らない?」
女の刑事さんは表情を変えずに聞いてくる。
「聞いてないねー」
『ドジロリ!! 聞いてないはおかしいだろ!! それだと面識があるみたいじゃん!! 知りませんって言え!!』
またもやキミドリちゃんが念話で怒鳴ってきた…………泣きそう……
「やっぱ知りませーん…………」
『そのやっぱもやめろ!!』
はーい……
「では、形式として聞くのですが、7月14日の夜は何をしていましたか?」
女の刑事さんはあくまでも無表情で聞いてくる。
「7月14日…………キミドリちゃんと一緒にいたような……気がするなー」
チラ。
「ええ、そうですね。その日はずっと一緒にいました。間違いないですね!」
さすがはキミドリちゃんだぜ!
平気で嘘をつく。
「そうですか? 調べによると、その日、青野さんはこのギルドで残業をしていたようなのですが…………」
おーーい!!
バカミドリ!! 何で残業なんてしてんだ!?
『ああ…………そういえば、残業代を稼ごうと、パソコンいじりながら時間を潰していた時期です…………』
しかも、空残業じゃねーか!!
死ねよ! 強欲ミドリ!!
あかん。
このままでは逮捕だ…………
「し、知らないもん……」
私は俯き、泣いているフリをする。
昔からこの手で同情を誘い、難を逃れてきたのだ。
キミドリちゃんは役に立たないし、今回もこの手で逃れてやるぜ!
「沢口さん…………あなた、その手を使うのは何回目ですか? あなた、もう24歳でしょう?」
おや?
「し、知らない…………」
私は無実!
悪いことなんてしてない!
「そうですか…………一応、署までご同行を願いたいのですが? 詳しくは署で聞きましょう」
いやーー!
「眠れ!」
後ろからサマンサの声が聞こえたと思ったら、刑事の2人はその場に崩れ落ちた。
「あわわ。サマンサ、何をしてんの!?」
私は睡眠魔法を使ったサマンサに慌てて事情を聞く。
「はるるん様、落ち着いてください。私はこれからこいつらに催眠魔法をかけて記憶を消します。はるるん様はその間に、ベリアルに事情を説明し、手を回してもらってください。ベリアルは権力者ですからこういうのをもみ消せると思います」
おー!!
さすがは王族!
汚い!! 発想も行動も汚い!!
「サマンサ、すごーい! …………それに比べてキミドリちゃんは……」
えっらそうに言ってたのに使えねー…………
「いやいや、ハルカさんの答えの方がひどかったですよ! なーにが黙秘します、ですか!」
「キミドリちゃんがしゃべるなって言ったんじゃーん」
「余計な事をしゃべるなって意味ですよ!」
じゃあ、そう言え!
「あのー、低レベルな言い争いは止めてもらえます?」
サマンサがものすごく冷たい目で私とキミドリちゃんを見る。
「う、うん…………」
「すみません…………」
私とキミドリちゃんは素直に謝った。
そして、私はベリアルに電話をかける。
プルルッ――ガチャ
『もしもし』
相変わらず、速い!
「もしもし、ベリアル様? 今、ちょっといいかしら?」
『…………急にどうした?』
ベリアルはいきなり様呼ばわりの私を不審に思っているようだ。
「あのねー。実は私、ピンチなの」
『天使にでも襲われたのか?』
まだ、大公級天使のアズラーの方がマシだわ。
「ううん。警察に捕まりそう…………」
『…………何をした?』
「あのね、少女とね、スキンシップしたりした…………」
『ああ…………例のやつか…………』
ベリアルも理解したらしい。
「警察がね、ギルドにやってきてね、警察署に連れて行かれそうになってね、サマンサがね、眠らしてね、今、催眠魔法で記憶を消しているところ」
『落ち着け。ねが多い。そいつらはそのまま帰らせろ。あとは私が何とかする』
ベリアル様、すげー!
さすがは大公級悪魔、≪煉獄≫のベリアルだ!
「私、悪くないよね?」
『悪いか、悪くないかで言えば、ものすごく悪いが、吸血鬼はそういう種族だからな…………まあ、貴様が捕まると、めんどうになる。こっちでなんとかするからこれ以上は民間人を襲うな』
「うん。ありがとう、ベリアル。お礼にロッリロリのエロ本をあげる――――って、切れちゃった……」
いらないのかな?
「はるるん様、こいつらはあくまでも聞き込みに来ただけという催眠をかけ、はるるん様のことは忘れさせました」
私が通話が切れた携帯を見ながら首を傾げていると、サマンサの方も終わったらしい。
「ありがと。あとはベリアルが上手くやるらしいわ」
「そうですか……では、こいつらを起こします。キミドリさん、適当に誤魔化してください」
サマンサは私ではなく、キミドリちゃんにお願いする。
もちろん理由はわかっているので異論はない。
「わかりました」
「では…………起きろ」
サマンサが魔法を解くと、刑事の2人は目を覚まし、起き上がる。
「あれ?」
「私達はどうしてここに?」
刑事の2人は顔を見合わせている。
「刑事さん、お話はわかりました。でも、私達は何も知りませんので、お答えできません」
キミドリちゃんが混乱している2人に告げる。
刑事の2人はキミドリちゃんの言葉を聞いて、一瞬、考えるそぶりを見せたが、すぐに状況を思い出したようだ。
「そ、そうですか。わかりました。お時間をちょうだいし、申し訳ありません。ご協力、感謝いたします」
女の刑事さんがそう言って、敬礼すると、刑事の2人は部屋を出ていった。
「悪は去った…………」
ふっ……
「人のことを言えませんが、良い根性してますね」
横領女の目が冷たいぜ。
「今日はたっかいお酒を飲んでいいよ…………」
「そうしましょう。“ハルカさん捕まらなかった記念”パーティーですね」
「血も好きなだけ飲んでいいよ…………」
「いただきます」
「じゃあ、私も…………」
飲め、飲め!
好きなだけ飲むといい!