第063話 Cランクかー…………まあいいか
私はアンジュとパリティが姉弟になったところで別れ、家に帰ることにした。
こうなれば、私はもう必要ないだろうと思ったのだ。
話はある程度、まとまったし、後は若い2人に任せればいい。
「ただいまー」
私は家に帰ると、リビングにいる3人に声をかける。
「おかえり」
「おかえりなさい」
「どうでした?」
部屋にいるウィズ、サマンサ、キミドリちゃんは3人でゲームをしていたらしく、テレビの前に座っていた。
「いやー、めんどかったよー。何で私がこんなことをしなきゃいけないんだろうねー」
私は冷蔵庫から缶のハイボールを取り出しながら愚痴をこぼす。
「アンジュは受けたのか?」
「まあねー」
私は冷蔵庫から取り出したハイボールを持ったまま、自分のベッドに腰かけると、ハイボールを飲む。
そして、先ほどのアンジュとパリティとのやりとりを説明した。
「ふーん。そんなユニークスキルもあるんじゃなー」
ウィズはユニークスキルが気になったようだ。
「私はあんなユニークスキルは要らないなー」
「おぬしが使うと、危ないスキルじゃしな」
「何で?」
「アホな縛りをして、自滅しそうじゃ」
う-ん、否定できないなー。
実際、私ならパリティが言っていたお互いを裏切らないっていう契約を結びそうだ。
そして、普通に約束をすっぽかし、死亡。
「まあ、アンジュは慎重だし、大丈夫でしょ」
臆病とも言うけど。
「そのパリティという見た目子供の天使が探索者になるんですか…………ウチのギルドが保育園と呼ばれる日も近いですねー」
キミドリちゃんは私とサマンサを交互に見ながら半笑いで言った。
「キミドリちゃんは保育士さんだもんねー。どうせ、キミドリちゃんが試験官やるんでしょ?」
「うーん、ムッキーさんかロビンソンさんに任せることにします。これ以上、からかわれるのは嫌ですし」
これは私が知らないところでも結構、言われてそうだなー。
「でも、あいつら、パーティーを組むって言ってたからキミドリちゃんは依頼で関わると思うよ」
「まーた、天使ですか…………しかも、伯爵級? 何故か殺したくなりますね…………」
見えないけど、キミドリちゃんからどす黒いオーラが出ている気がする。
「キミドリちゃん、落ち着いて! スカイ君を壊したのは同じ伯爵級でもハワーの方だよー」
キミドリちゃんの心にいるバーサーカーが目覚めちゃう!
「おーっと、危ない、危ない。暗黒面に落ちるところでした」
キミドリちゃんは復讐の悪鬼からいつものダメ人間に戻ってくれた。
「まあ、パリティも変なことはしないと思うけど、気を付けてね。ゾロネとかいうのもいるらしいし」
「サマンサさんに血の操作の魔法を教えてもらいましたし、今度こそ返り討ちにしてやりますよ!」
うーん、キミドリちゃんは頼もしいなー。
でも、不安だなー。
「やっぱ、私もついていこうか?」
「大丈夫ですよ。それより、明日はどうします? ダンジョンに行きます?」
「そろそろ16階層に行きたいしねー。というか、Bランクになって、制限をなくしたいなー」
Cランクは20階層までしか行けないが、Bランクになれば、そういった制限はなくなる。
そうすれば、今みたいにチマチマとお金を稼がなくても、どーんっとお金が入るだろう。
「ですねー。私もその方が借金を返しやすいです。じゃあ、明日はダンジョンに行きましょう」
キミドリちゃんは気合が入っているようだ。
「ウィズとサマンサもそれでいい?」
私はウィズとサマンサにも確認する。
「いいぞ。妾も次の動画を撮りたいし」
「私もかまいません。はるるん様のお尻……じゃなくて、後ろにいるだけですので」
ウィズは趣味の配信用の動画を撮りたいらしい。
サマンサはこれまでのダンジョン探索と同様に何もせず、私のお尻を見ているだけらしい。
「じゃあ、明日の昼からねー。サマンサ、こっちにおいでー」
私はゲームをしているサマンサをベッドに呼ぶ。
「何ですかー?」
サマンサは立ち上がると、嬉しそうにトコトコとやってきた。
そして、ベッドに上がる。
「サマンサ、私のことをお姉ちゃんって呼んでみて?」
「はい?」
サマンサは理解できなかったようで、首を傾げながら聞き返した。
「呼んでみて」
私は再度、呼ぶように言った。
「えっと、お、お姉ちゃん」
サマンサはおずおずと私のことをお姉ちゃんと呼ぶ。
「そのまましゃべってみて」
「あのー、これは何ですか?」
「あ、敬語も止めて」
「う、うん。お姉ちゃんは何がしたいの?」
おー、タメ口のサマンサは新鮮だなー。
「サマンサ、お姉ちゃんがいけないことを教えてあげよっか?」
「はい!」
サマンサは食い気味に即答した。
「サマンサ…………わかってよ……あなたは何のためにいつもえっちな本を読んでるの?」
「あ、はい、ごめんなさい……じゃなくて、お姉ちゃん、ごめんね」
サマンサは意図をくみ取ってくれたようで、上目づかいで不安げな表情をした。
「サマンサ、お姉ちゃんがいけないことを教えてあげよっか?」
「いけないこと? いけないことはダメだよ、お姉ちゃん」
サマンサはかわいらしい表情で私を睨んだ。
「…………あのー、なんか始まりましたよ?」
「ほっとけ。いつものアホと変態の遊びだ」
「ですよねー。続きをしましょうか」
「そうじゃな。あ、そこに行くと、チェンソー使いが出てくるぞ」
「言うのが遅いんですけど!」
キミドリちゃんとウィズは私達を無視することにしたようだ。
その後、私とサマンサは楽しく遊びましたとさ…………ちゃんちゃん。
◆◇◆
私はサマンサといちゃついた後、ベッドでサマンサと携帯のアプリで遊んだ。
そして、夜になると、サマンサと共に起き、キミドリちゃんが買ってきたお酒とご飯で宴会を始める。
宴会はいつものように深夜まで行い、就寝した。
翌日、昼前に起きた私達は出かける準備を終えると、キミドリちゃんの車で北千住のギルドに向かう。
ギルドに着くと、キミドリちゃんはいつも通り、順番を無視し、馴染みの受付嬢に話しかけた。
そして、受付嬢とわるーい顔で話していると、私達がいる所に戻ってきた。
「やりましたね! 3人とも、今日からCランクです」
(ずるを)やりましたね!
「これで16階層に行けるねー」
「ですです。早速、行きましょー」
私達は武器屋に立ち寄り、自分達の武器を受け取った後、ダンジョンに向かった。
そして、ワープの魔方陣を使い、一気に16階層にやってきた。
「キミドリちゃん、16階層は何が出るの?」
私は16階層に到着したので、ダンジョンに詳しいキミドリちゃんに出現モンスターについて聞く。
「16階層は黒鳥と呼ばれるでっかい鳥ですね」
「黒鳥? 白鳥じゃなくて?」
というか、それはカラスでは?
「うーん、あれはなんですかねー。白鳥というよりも鴨ですかね。よちよち歩いてきて、かわいいですよ。ちょっと大きいですけど」
うーん、黒い鴨ってかわいいかなー。
「何を落とすの?」
「羽毛ですねー。結構な量を落とすので、アイテムボックス必須です」
「羽毛かー。羽毛布団にするに100円」
「正解です! あとでジュースをおごってあげましょう」
いらないよ。
キミドリちゃんのなけなしのおこづかいじゃん。
「羽毛は高く売れそうけど、いくらなの?」
「だいたい2万円ですねー。ただ、価格がかなり変動しますので、大量に入手するのは止めたほうがいいです」
まあ、羽毛なんてそんなに使わないか……
「キミドリちゃんは20階層には行けたよね?」
確か、昔はワープの魔方陣で一気に20階層まで飛んでいたと聞いたような気がする。
「はい。20階層はアウルベアーっていうフクロウの顔をした熊です。普通に強いです」
アウルベアーは知っている。
アトレイアではそこら中の森の中にいるクマさんだ。
顔がフクロウのせいか、夜行性であり、昼間にはめったに姿を見せないが、夜に野営をしていると襲ってくるという結構、危ないモンスターである。
「そいつは何万円?」
「3万円ですねー。ただ、数が出ないので、他所の階層がおすすめです」
「自分は20階層でやってたのにおすすめは違うんだ?」
「こういう情報は探索者を辞めた後、ギルマス時代に学びましたからねー。昔ももう少し、情報を集めれば良かったと思ってます。攻略サイトとかありますから」
完全にゲームだなぁ……
「生配信を見ておると、そういうのがうざいぞ? 探索者でもない者が攻略サイトを見て、コメント欄であーだこーだ言っておる。まったくマナーというものがなっておらんな」
ウィズはため息をつくが、この猫、コメント欄とかでケンカしてそう…………
「まあ、そういうのも含めて楽しむものですよ」
キミドリちゃんって、大人だなー。
「それで、元ギルマス的にはどこの階層がおすすめなの?」
私は話を本題に戻す。
「18階層のマンドラゴラですかね? 数もそこそこ出ますし、ドロップ品であるマンドラゴラの根は25000円で売れます。しかも、これもユニコーンの角と同じく、医療用素材なので値崩れはほぼ起きません」
おー、なんか良さげ!
「じゃあ、18階層に行こうか…………ちなみに、他の階層は?」
「17階層がサハギンという半魚人です。数は大量に出てくるんですが、うろこが10000円と比較的安価ですね」
サハギン……
あの気持ち悪い魚人間か……
「残りの19階層は?」
「マミーと呼ばれるミイラですね。包帯をドロップするんですが、人気がなく、500円です」
そら、ドロップ品だから丈夫で何かに使えるかもしれないけど、ミイラの包帯なんかいらんわな。
不死友達である私でもいらない。
この中ではやはりマンドラゴラかなー。
しかし、私の友達は人気がないな…………
マミーさんだって、よく見ればかわいいかもしれないのに……
いや、それはさすがにないか……