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第061話 天使に好かれても嬉しくない。せめて幼女天使はいないのか?


「アンジュって天使を知ってる?」


 伯爵級天使であるパリティにこう聞かれた私はどう答えればいいのか悩む。


 こいつはさっき、子爵級や男爵級の天使を狩っていると言っていた。

 ましてや、アンジュは天使から狙われている。

 間違いなく、こいつはアンジュを狩るために聞いているのだろう。


 知っていると言っていいものか…………

 私はアンジュを知っているどころか、住んでいる場所まで知っている。

 天使がどうなろうと知ったことではないが、アンジュは知らない仲でもない。


 それにこいつがアンジュを狙った場合、サクラちゃんやロビンソンにまで被害が及ぶかもしれない…………


 ここは知らないふりをした方が良さそうだな。


「…………知らない。誰それ?」


 私はごまかしを選択した。


「いやいや、そんなに無言で悩んでおいて、何を言ってるの? 明らかに知ってるよね?」

「知らない。我は王級ぞ? そんな雑魚天使を知るわけがなかろう」

「急に口調が変わったし……しかも、目が泳いでるし…………いや、アンジュって雑魚かな?」

「男爵級なんて雑魚だろう。我はそんな雑魚に興味はないのだ」


 私がそう言うと、パリティは頭に手を置き、悩みだした。


「…………君さー。バカって言われない?」

「言われない」


 ウィズにめっちゃ言われてる。

 あとは純粋とか、天然とか、しゃべるなって言われる。

 悲しいね。


「…………知らないのに男爵級天使って、言ってるよ?」


 言ったっけ?


「気のせいでは? 我はそんなことは言ってないと思う」

「あっ、そう…………うーん、まあいいか。そういうことにしておこうかな。じゃあ、アンジュに会ったら伝言をお願い。ゾロネのヤツが来ているから手を組もうって言っておいて」


 うん?

 どういうこと?


「ゾロネ? 誰それ?」

「伯爵級天使、≪無情≫のゾロネだよ。僕と同じ戦闘タイプの伯爵級天使なんだけど、あっちは二つ名持ちで強さも上。あいつは天使狩りをしているんだけど、このままだと僕も狩られそうなんだ。だからアンジュと手を組んで撃退したいの」


 ハワー以上、アーチャー以下って感じかな?


「へー。でも、アンジュなんかと組んでメリットあんの? あいつ、雑魚じゃん」

「それは知ってるけど、藁にもすがりたいんだよ。他の天使は信用できないけど、≪清廉≫は信用できるからね。最悪、援護だけでもしてもらえれば、ゾロネ相手にも戦える。さっきも言ったけど、僕も一応は戦闘タイプの伯爵級天使だから」


 ふむふむ。

 なるほど、なるほど。


「あんたはアンジュを嫌悪しないの? あいつ、ハーフだから狙われてるんじゃないの?」

「そんなのは頭の固い古い天使だけだよ。僕らみたいな若手はまったく興味ない。そもそも、あいつの母親すら知らないし」


 天使も一つの考えに縛られているわけじゃないんだな。


「あんた。何歳?」

「まだ150歳くらいだよ。150年で伯爵級止まりなんだけどね」


 そうは言うが、150年で伯爵級ならそこそこ優秀だと思う。

 まあ、ウチのサマンサは30年で公爵級だけどね。(自慢)


「伝えてもいいけど、アンジュが首を縦に振るかはわからないよ?」


 もう私とアンジュが知り合いなのは完全にバレているっぽいので、誤魔化すのをやめた。


「じゃあ、もう一つ、伝えておいて。ゾロネは頭の固い古い天使だ。間違いなく、アンジュを見つけたら殺すと思う。そして、あいつはもうこの街に来ている」


 マジ?


「そのゾロネってヤツがもう東京にいるの?」

「この目で確認したからね。すぐに逃げたけど、間違いなく、ゾロネだった」

「あんたはこの街から逃げないの?」


 そんな危ない天使なら逃げればいい。

 わざわざ危険を冒してまで戦う必要はないだろう。


「逃げてどうすんのさ? 逃げた先にもっと強い天使がいるかもしれないじゃん。だったら、同じ伯爵級を倒し、強くなった方がいい。それにこの街には、あんたやシュテファーニアがいる。天使も表立っては動けないだろうし、人も多いこの街は隠れるには都合がいい」


 ウィズの存在もバレているのか…………


「私達は狙われないかな?」

「うーん、僕は探知魔法が得意だし、動画を見て、当たりをつけてたからわかったけど、他の天使はどうかな? というか、わかったとしても、どこのバカが王級を狙うんだよ…………いや、そうか…………君らは僕らに興味がないから知らないのか…………」


 パリティが悩みだす。


「どうしたの?」

「もし、君らみたいな王級を狙う天使がいるとしても、そいつは上級天使だろう? 実は上級天使のほとんどはこの国にはいないんだよね」

「どういうこと? 海外にいるの?」


 天使のグローバル化?


「知っていると思うけど、天使ってさ、人間を騙すのが好きなんだよ。でも、そうなると、この国はちょっと都合が悪いんだよね。だから、上級天使は皆、騙しやすい国に行ったんだ。まあ、アーチャーは残ってたけど…………」


 アーチャーはハワーの仇を討つためって言ってたからなー。


「日本はダメなの?」

「豊かすぎるし、宗教的にちょっとね…………」


 うーん、まあ、確かに目の前に天使を名乗る人間が現れても、誰も信じないかもしれない。

 以前の私だって、信じないし、無視しただろうね。


「じゃあ、この辺には雑魚しかいないんだ?」

「伯爵級を雑魚と言えるならそうだね。アーチャーみたいな例外もいるから確実にとは言えないけど」


 ふむふむ。

 これは良いことを聞いたな。

 アンジュからアズラーとかヤバいヤツがいるって聞いていたが、この国にはいそうにない。


「なるほどねー。じゃあ、今のところの脅威はそのゾロネってヤツなわけね」

「そういうこと。こいつさえいなくなれば、僕もこの東京でひとまずは平和に生きられるってもんだ。だから、アンジュにそう伝えてほしいの。こんなよくわからない世界に連れてこられたと思ったら次は同族に狙われるんだもん。たまったもんじゃないよ」


 そう考えると、こいつらも被害者なんだな。

 こいつらだって、アトレイアで遊んでいた方が良かったのかもしれない。

 これっぽっちも同情できないけど。


「まあ、わかったわ。アンジュに伝えておく」

「じゃあ、よろしく。あ、これが僕の電話番号だから、これにかけてくれるように言っておいて。あ、それと、この話はシュテファーニアには内緒だよ」

「何で?」


 ウィズに黙っておくわけないじゃん。


「悪いけど、魔族は信用できない。あいつら、僕を捕まえて八つ裂きにするつもりだからね」


 アンジュもだけど、天使の中の魔族って、どんなイメージなんだろ…………


「ウィズはそんなことしないよー」

「ウィズ? 誰?」


 いちいち、訂正がめんどくさいなー。


「魔王なんちゃら。改名したの」

「シュテファーニアね。ふーん、改名したのか…………まあいいや。悪いけど、種族的に天使と魔族は相容れないんだ。だから内緒ね」


 ホント、天使と悪魔って仲が悪いな……


「わかったー」

「頼むよ。じゃあ、僕は行くよ。吸血鬼を昼間のこんな時間に拘束させて悪かったね。良い返事を待っている。じゃあね」


 パリティは結界を解き、どこかに行ってしまった。

 私はそれを確認すると、家に帰ることにした。




 ◆◇◆




「――――と、いうわけなんだよ」


 私は家に帰ると、買ってきた昼ご飯を渡し、ウィズに先ほどの天使との会話を話した。


「ほうほう…………なるほどな。確かに、そのパリティとかいう天使の言うことには筋が通っている。嘘も混じっておるかもしれんが、大筋は間違ってはないだろう。しかし、内緒なのに速攻でバラすんじゃな…………」


 ウィズが若干、呆れている。

 魔族は約束を守るからだろう。

 でも、吸血鬼にそんな信条はない。


「いや、内緒にするわけないじゃん。それよか、ゾロネって知ってる?」

「知らんな。もちろん、そのパリティも知らん」


 やっぱりかー。


「うーん、どうしよっか?」

「とりあえず、ベリアルに報告すればいいのでは? その後、アンジュに伝えれば良かろう」


 なるほど。

 ウィズ、賢い。


「じゃあ、ベリアルに電話してみる」

「そうしろ」


 ウィズはそう言って、猫缶を食べ始めた。

 なお、サマンサはまったく興味なさそうにお菓子を食べている。


 私は携帯を取り出し、ベリアルに電話をかける。


 プルッ――ガチャ


『もしもし』


 だから、なんでそんなに速いんだよ!


「もしもし、ベリアルー? さっきはあんがとねー」

『気にするな。あの天使は良い情報源だったし、扱いやすそうだった』


 まあ、あんなにビビってればねー。


「あんまイジメちゃダメだよー」

『イジメてるつもりはないんだがな…………それで? 律儀にお礼の電話をしてきたのか?』

「まさかー。私がそんなことをするわけないじゃん」


 あはは。

 ないない。


「自慢げに言うことか…………?」


 私達の会話を聞いていたウィズが呆れたようにつぶやいた。


『では、何かね? 別に構わないのだが、私も仕事中なのだが……』


 そういや、今日は月曜だった。


「いやー、さっき、帰り道で天使と遭遇してねー」

『ほう……詳しく話せ』


 私は先ほどの会話をベリアルに伝える。


「――――ということなんだよー。あんた、パリティとか、ゾロネって知ってる?」

『知らん。しかし、天使同士で争いとはな。そんなことになっているとは…………とても有益な情報だ。感謝する』

「それでさー。どうしたらいいかな?」


 私は今後、どうすればいいか尋ねる。


『どうもこうも、アンジュにそのまま伝えれば良かろう』

「いいの? あんたがそのゾロネとかいうのを始末すればいいじゃん」


 天使狩りがあんたの仕事じゃないの?


『情報が少なすぎてどうもできん。≪無情≫のゾロネはそのパリティとかいう天使と争うのだろう? 天使同士で争ってくれるのならそれはそれでかまわん。人に被害が出そうなら対処もするが…………』

「アンジュが負けたらマズくない?」


 ってか、勝てるのかね?


『まあ、こればっかりはな…………一応、そのパリティとやらは勝算があって、アンジュと組みたいのだろう。じゃなきゃ、危険を冒してまで、君と接触はせん』

「何で私を経由するんだろ……?」


 めんどいなー。


『おそらくパリティは君とアンジュが繋がっていることをあらかじめ知っていたな。アンジュに直で接触すると、アンジュはまず間違いなく逃げるから、君に橋渡しを頼んだのだ。あとはあわよくば、君がゾロネを始末することに期待している。まあ、こんなところだろう』


 あのガキ、知ってたのに、聞いてきたのか!

 そして、内心では私をバカにして、笑ってたんだな!

 性悪天使め!


「ケッ! どいつもこいつも私をバカにして! ふーんだ!」

『そう気にするな。それが君の美徳でもある。だから、警戒心の高いアンジュもパリティも君を信用しているんだ』


 美徳ってなーに?

 もしかして、こいつも私をバカにしてないかな?


「そうかしら? まあいいわ。じゃあ、アンジュに伝えてみる。絶対に受けないと思うけどね」


 あのビビりが二つ名持ちの伯爵級天使に挑むわけがない。

 絶対に逃げるだろうな。


『まあ、出来たら受けるように言ってほしいがね。知らないところで争われるよりも知っている方が対処しやすい』

「だったら協力してあげたら?」

『そうしたいが、まずパリティは受けないだろう。天使は悪魔を信用せん』


 あー、そんな感じだったなー。


「じゃあ、まあ、説得はしてみるわー」

『頼む』


 ベリアルはそう言って、電話を切った。


「ハァー……めんどくさ…………」


 私は思わず、ため息が出た。


「まあ、仕方あるまい。さっさとアンジュに電話せい」


 怠惰な私が何でこんなことをしなければならないのだろうか?

 天使ってヤツはホンマ…………

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[一言] >天使ってさ、人間を騙すのが好きなんだよ。でも、そうなると、この国はちょっと都合が悪いんだよね。だから、上級天使は皆、騙しやすい国に行ったんだ  この露骨な伏線臭よ。  何章か先で、騙くら…
[一言] はるるん頑張れー。 パリティなぁ、さくらちゃんのこと人質にしなきゃいいけど。。。w あと、これは内容関係ないんだけど 感想必ず返してくれるから、嬉しくなって返しちゃう。 …いいね押し忘れる…
[気になる点] 天使達のせいで海外の各国が地獄と化しそう… 種族レベルで天使は性悪と知れ渡っているアトレイアですら騙される人がいるぐらいですし。
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