第058話 でかい女の2人に挟まれたくない
アンジュとサクラちゃんに指導し、アンジュが天使であることが判明した翌日、私はアンジュをベリアルに会わせるために朝10時には起床した。
隣には、裸ですやすや眠るサマンサと枕元で丸まっているウィズがいる。
ここ最近、サマンサは自分の部屋で寝ていない。
就寝時間になると、サマンサはいっつも枕を持ってやってくるのだ。
さすがに毎日一緒に寝るのもどうかと思い、たまには自分の部屋で寝たらと言ったことがある。
すると、サマンサの表情が暗くなり、ただでさえ濁っている目からハイライトが消えた。
そのまま≪狂恋≫が発動しそうになっていたので、私は慌てて、サマンサの腕を引っ張り、ベッドに引きずりこんで誤魔化した。
アトレイアにいた頃はここまで積極的な子じゃなかったが、あの事件以来、サマンサは自分の欲求や意見を隠さなくなった。
それはとてもいいことだと思う。
でも…………
「サマンサ、起きて。ベリアルの所に行くよ」
私はサマンサの肩に触り、揺らす。
「うーん、眠いです…………ベリアルも天使もどうでもいいです…………私は行かないです…………」
夜以外の付き合いは悪くなった。
「ウィズー」
私はウィズにも声をかけた。
「妾は怠惰なのだ…………」
それ、私のセリフなんだけど…………
私はすやすやと眠る2人を諦めて、ベッドから降りると、キッチンに行き、水を飲む。
すると、キミドリちゃんがリビングにやってきた。
「おはようございます……って、また素っ裸ですか…………」
キミドリちゃんが私の姿を見て、呆れている。
「暑くてねー」
「いやいや、わかりますから。しかし、ハルカさんとサマンサさんのロリボディに見慣れてきた自分が悲しいです」
私が逆の立場なら眼福だけどね。
「まあいいじゃん。それよか、朝ご飯はどうする?」
「今日は例のホテルで長官のおごりですよね? 朝は抜きます」
私もそうしようかなー。
あのめっちゃ高いパフェを食べよう。
「そうしよっかー」
「はい。ところで、あの2人はまだ寝てるんですか?」
キミドリちゃんが私のベッドで寝ている2人を見ながら聞いてくる。
「あの2人は眠いから行かないんだって」
「そうですか…………ハルカさんもですが、あの2人って、本当に朝、起きないですよねー」
「まあ、猫も吸血鬼も夜行性だからねー。朝になったら寝るんだよ。これでもこっちの世界に戻ってからは起きてる方なんだよ? 吸血鬼は太陽が苦手だから、夜以外は寝てるし」
アトレイアにいた頃は下手をすると、1ヶ月単位で太陽を拝まないこともあった。
それほどに日中は引きこもっていたのだ。
「マジですか…………というか、私は別に太陽が苦手じゃないですよ?」
「まあ、普通の吸血鬼は下手をすると、日光でダメージを負うんだけど、キミドリちゃんは偉大なる真祖の吸血鬼の眷属だから、へっちゃらなんだよ」
私、すごーい。
「ハルカさんがすごいのはなんとなくわかるんですけど、そう思えないのは何ででしょうかね?」
「ダメ人間だからじゃない? キミドリちゃんと一緒」
「ですか……一緒にダメダメ道を歩みましょう」
いえーい。
私とキミドリちゃんはその後、出かける準備をし終えると、キミドリちゃんの車でアンジュが居候しているロビンソン宅に向かった。
ロビンソンの家は本当に私達が住むマンションに近く、車で5分程度の距離だった。
到着したロビンソンの家は結構大きい2階建てであり、ロビンソンはBランク上位なだけあって、やっぱり稼いでいるようだ。
キミドリちゃんは家の前に車を止めると、車から降り、家のチャイムを押す。
すると、家の中からおばさんが出てきた。
多分、ロビンソンの奥さんでサクラちゃんのお母さんだろう。
キミドリちゃんとそのおばさんがしばらく談笑していると、奥からアンジュが出てきた。
アンジュはシンプルなシャツとスカート姿だが、上下ともに丈が若干短い。
多分、サクラちゃんの服だろう。
アンジュはおばさんに笑顔で見送られると、キミドリちゃんがおばさんに一礼した。
そして、2人は車へとやってくると、キミドリちゃんが運転席に座り、アンジュが後部座席に乗り込んできた。
「おはよ」
私は後部座席に座ったアンジュに挨拶をする。
「おはようございます。今日は可愛らしい格好ですね」
アンジュが挨拶を返すと共におべっかを使ってくる。
多分、ベリアルから庇ってほしいのだろう。
「ありがと。あんたも似合っているとは思うけど、サイズが合ってないわよ。サクラちゃんの服?」
「はい…………服は一着しか持ってないので」
「あんた、居候かもしれないけど、家にお金を入れる前に、まずは自分の身の回りを整えなさいよ。一応、女の子でしょうが」
身体や服を綺麗にする魔法もあるが、女子ならば、ちゃんとお風呂に入ったり、着る服を洗濯するべきだろう。
「ですね…………昨日、ダンジョンで稼いだお金を渡そうとしたらおば様とサクラさんにも同じことを言われました」
でしょうねー。
誰だって心配になるだろう。
「というか、あんた、何て言って居候させてもらってんの?」
「親も家もないホームレス生活してたって言ってます」
まあ、合ってるけど…………
めっちゃ同情されたんだろうな。
私はこっちの世界に戻ってきただけだから不自由はなかったが、アンジュもサマンサも大変だったんだろうなー。
文化も違えば、種族さえ違う。
私は他人事のように大変だなーと思っていると、キミドリちゃんが車を発進させた。
キミドリちゃんはいつものように道交法と警察にケンカを売るスピードでホテルを目指している。
「速いですねー…………私が飛ぶより速いです」
アンジュは窓から外を見ながら感心している。
「速度違反だけどね」
「え? そうなんですか? キミドリさん、いけませんよ!」
いい子ちゃんなアンジュはキミドリちゃんに注意する。
「法定速度で走ると、ウチのハッチ君は怒るんですよー」
キミドリちゃんは何を言っているんだろう?
「それでもですよ! ハッチ君を躾けるのが責任ある大人の務めです!」
アンジュも何を言っているんだろう?
私、ついていけないや…………
私はキミドリちゃんとアンジュのハッチ君トークを聞き流しながら外の風景を眺めていると、見覚えのある豪華なホテルが見えてきた。
キミドリちゃんが車を駐車場に止めると、私達は車を降り、ホテルに向かう。
そして、ホテルの中の喫茶店に入ると、やはり以前と同様にお客さんがオールバックのおっさん一人だった。
「あ、あれがベリアル…………」
アンジュは震えるどころか私の服を掴み、完全に固まってしまった。
「ただのおっさんじゃん。ほら、行くよ」
私はカチコチになったアンジュに声をかける。
「と、とんでもない魔力を内包している…………あれが大公級悪魔…………」
アンジュは完全にビビってしまったようだ。
「いや、私の方が魔力は上だよ」
「それはわかりますけど、≪少女喰らい≫は魔力が高いだけの雑魚で有名ですし…………」
それは合ってるけど、なんかムカつくな。
「言っておくけど、私はあんたを一瞬のうちに消滅させることが出来るからね! 敬え! 恐怖しろ!」
私は舐められまいとアンジュを脅す。
「…………ハルカさん」
アンジュは私が脅したのに逆に笑顔になって、手を私の頭の上に乗せてきた。
「何?」
「私を元気づけようとしてくれたんですね。こんなに健気に…………」
あ、完全に子供に見られてるし。
そりゃあ、身長差がめっちゃあるし、見た感じは子供と大人だろう。
もちろん、私が子供でアンジュが大人。
「あんた、私が200年を生きた偉大な真祖の吸血鬼なことを忘れてない?」
「ハルカさん、ハルカさん、すみませんが、私もアニメを見た後の子供にしか見えませんでした」
キミドリちゃんが笑いながら言う。
「あっそ。そんな可愛いロリっ子が自分なのが残念だわ。ほら、行くよ。私はチョコレートパフェを食べるんだから!」
そのために来たと言っても過言ではない。
「いやー、子供ですねー。まあ、私もチョコレートパフェを食べようと思ってましたけど…………」
女の子はいくつになっても女の子なのだ………………いや、やっぱ16歳までかな……




