第057話 私が一番まとも! と皆が思っている
私達は精算を終えた後、サクラちゃんと連絡先を交換した。
その日はそこで解散となり、帰宅した。
本日の仕事も無事に終了したので、帰りにお酒とご飯を買い、いつものように宴会をする。
そして、キミドリちゃんに今日会ったアンジュの事を説明した。
「へー。じゃあ、あのアンジュさんはハーフなんですかー。そういうのもあるんですねー」
キミドリちゃんはもう何杯目かわからない缶ビールを飲みながら興味深そうに聞いている。
「らしいよ。私にはちょっと殉死が理解できないけど」
なんで夫が死んだくらいで死なないといけないのだ。
伴侶が死ぬのは悲しいことなのはわかるが、子供であるアンジュがいるのに普通、死ぬか?
「ですねー。価値観や文化の違いですかね? そもそも種族が違いますし」
「まあ、私達、吸血鬼には関係ないことだけどねー」
伴侶を吸血鬼にしてしまえばいい。
そうすれば、殺されたり、死を選ばない限り、永遠に一緒にいられる。
「実際、吸血鬼って、子供を産めるんですか?」
「そりゃあ、産めるよ。産む気はないけど」
男はいらない!
でも、もし、女の子同士で子供が産めたとしても、子供はいいかな…………
女の子だろうと、男の子だろうと、自分が我が子に何をするかわからない。
「生まれてくる子は吸血鬼ですか? それとも人間?」
えーっと、どうなんだろ…………
興味ないからわかんないな。
「ゴメン、知らない。サマンサは知ってる?」
私は嬉しそうな顔でクレープを食べているサマンサに聞く。
「すみません……私もわかりません。吸血鬼は表に出てこないので、情報が少ないんです。自分が吸血鬼になった後もそういうことには興味がないので…………」
えっちは好きだけど、私とばっかだしね。
そりゃあ、子供や妊娠、出産には興味がないだろう。
「だよねー。ゴメン、わかんないや」
親として不出来な私はキミドリちゃんに謝った。
「いや、なんとなくで聞いただけですよ。実際、私も子供を産む気はないですし」
「だろうねー」
キミドリちゃんは車と結婚した人だし。
しかも、ハーレム。
「それで、そのアンジュさんは明日、長官と会うんですか?」
「そそ。マジでビビってたけどね」
「まあ、気持ちはわかりますねー。長官って、ちょっと怖いですし」
怖いのはわかる。
でも、キミドリちゃん、そんな人に結構、失礼を働いてるのに気付いていないのだろうか?
「それでさー、キミドリちゃん、悪いんだけど、明日、車出してよ。アンジュも迎えに行かないといけないんだ」
「いいですけど、サクラさん、というか、ロビンソンさんの家ですかね?」
「だねー。完全に居候っぽいよ」
「居候ですかー。なかなか肝が据わってますねー」
お前が言うな。
一銭も払わずに住みついているくせに。
「アンジュのヤツ、携帯も持ってないから待ち合わせ場所に来れなかったら面倒じゃん。だから、迎えに行こうと思う」
「なるほどー。ロビンソンさんの家なら知ってますし、いいですよ」
キミドリちゃんは車を運転するのが大好きだから簡単にアッシー君になってくれる。
「頼んでおいてなんだけど、指導の方はいいの? アンジュがいなくてもサクラちゃんはダンジョンに行けるでしょ」
ぶっちゃけ、天使であるアンジュは鍛えなくてもいいが、サクラちゃんは鍛えた方がいい。
まだ、魔力も技術も低いし。
「いや、ハルカさん、明日は月曜ですよ。普通に学校です。サクラさんはまだ高3ですし」
あー、そっかー。
私はもう自由業だから曜日の感覚がなかったわ。
「そういえば、そうだねー…………ん? まだ高校生なのに探索者になったの? 卒業してからじゃないの?」
「あー…………探索者志望の人は夏休みとかを使って、あらかじめ、探索者になって試してみるんですよ。モンスターと戦えない、才能がない人っていうのはどうしてもいますからね。卒業後に探索者になって、やっぱ無理ってなると、その後がマズいんですよ。だから、体験してみるケースが多いです。脱サラも同じですね」
なるほど。
確かにそうだ。
私は天下の王級吸血鬼だし、ウィズもいた。
だから、危険なんかはこれっぽちも考えなかったが、もし、これが生前というか、こっちの世界にいた私だったら、おそらく、探索者になりたいと思っても、会社は辞めず、試してみただろう。
そして、諦めるか、死んでいただろう。(確信)
「ロビンソン的には才能がなくて、諦めてほしかったんだろうね」
「でしょうねー。でも、あれで才能がないとは言えませんから」
実際、サクラちゃんはすごかった。
技術は荒いし、魔力も低い。
でも、度胸はものすごくある。
ゴブリン相手にもまったく怯まずに攻撃していたのだ。
多分、というか、絶対にアトレイアで200年以上生きたアンジュよりも度胸はある。
「じゃあ、次の指導は今度の土日?」
「一応、水曜の夕方に一度行きますけどね。あとは土日のどっちかです。まだ予定は決めてませんので」
「毎日は行かないんだ?」
まあ、サクラちゃんも高校生だし、友達と遊んだりするのかな?
私は友達がいなかったから知らんけどね。
「いや、毎日は無理ですよ。ハルカさんは吸血鬼だから体力が有り余っているでしょうけど、普通の人間は疲れますし、休む日が必要です。ましてや、サクラさんは学生で授業があるんですから」
あー、そうか…………
私やサマンサは死なないし、疲れないから毎日のように行けるけど、人間はそうじゃないんだ。
人間じゃなくなって、200年も経つから忘れてた。
「普通はどのくらいのペースなの?」
「週に1回、行くか、行かないかですかねー。ハルカさんのように毎日のように行くDランクはいませんよ」
うーむ、もしかしないでも、私がそこそこ有名なのはその辺もあるかもしれないな。
「少しペースを落とした方がいいかな?」
変に注目されてもアレだし。
「別にいいと思いますよ。上位ランカーの中にも毎日のように行く人もいますし、ハルカさんはどうせ、そのうち行かなくなるでしょう?」
「それはしょうがないよ。だって、休みが欲しいもん」
そもそも怠惰な生活を送るために探索者になったのに毎日働いてどうすんだ。
1、2週間ほど集中的に働き、1ヶ月以上休む。
これでいいな。
「私もそうしたいですよ…………ハルカさん達が昼間からビールを飲んで、ゲームしている時に私は一人でモンスターと戦闘です」
うーん、かわいそうだが、一切、同情できない。
「残りの借金はどれくらいなの?」
キミドリちゃんは毎日のようにダンジョンに行ってるし、結構、返したんじゃないかな?
「残り半分ですよ」
この1、2ヶ月で5000万円も稼いだのか…………
すげーな。
「キミドリちゃん、すごくない? 前もそれくらい稼いでたの?」
「いえ、以前はそんなことないですよ。当時は40階層くらいで、素材は高く売れたんですけど、その分、敵が強く、数を狩れません。宝箱からレアアイテムを手に入れて、儲ける時もありましたが、パーティーで分けますからね。それに、今は私も吸血鬼になりましたから疲れませんし、ケガもしません。稼ぎは今の方が断然多いですよ」
キミドリちゃんのパーティーが何人パーティーだったかは知らないが、パーティーで等分したら安くなるのか。
だからといって、パーティーの人数を減らしたらその分、危険になる。
難しそうだし、揉めそうだなー。
「私達パーティーで行く分のやつも分けたほうがいい?」
「いえ、それは大丈夫です。私は家賃も食費も払ってませんし、今後、屋敷を買うんでしょう? それの資金にしてください。その際は駐車場もつけてくださいね」
どうやらキミドリちゃんはこれからもずっと寄生するつもりのようだ。
まあ、いいか。
こいつを一人にすると、何をしでかすかわからないし、見える位置に置いておいた方がいい。
「サマンサは? お金いる?」
同じパーティーメンバーであるサマンサにも聞く。
「私も大丈夫です。必要な物ははるるん様が買ってくださいますし、個人的に買うのは本くらいですから」
サマンサは服屋や化粧品、アクセサリーに興味を持たないので、私が買ってあげている。
そして、この子は家から出ないし、本を読んでるか、ゲームしているか、私に絡んでくるかしかしない。
多分、私以上の引きこもりだろう。
「ふむふむ。じゃあ、そうするか。とりあえず、明日はアンジュを悪魔に引き渡して、明後日には16階層に行こう。どうせCランクになってるだろうし」
「そういう言い方をすると、私らが悪く思えるから不思議ですねー」
でも、事実なんだよねー。




