第053話 弱そうな〇〇
キミドリちゃんからロビンソンの依頼を聞いた私達は宴会を再開し、ご飯を食べ始めた。
キミドリちゃんの話では、ロビンソンの娘であるサクラちゃんとその相方とは午後から待ち合わせをしているらしいので、この日は遅くまで4人で飲み明かした。
翌日、11時くらいに起きた私は隣で眠るサマンサを起こし、出かける準備を始める。
そして、昼ご飯を食べた後、キミドリちゃんの車でギルドに向かった。
ギルドに着くと、キミドリちゃんが受付に行き、なじみの受付嬢に声をかける。
キミドリちゃんと受付嬢は少し談笑すると、キミドリちゃんが待っている私達の所に戻ってきた。
「サクラさん達はもう来ているらしいので、行きましょう。前に試験をやった部屋です」
待ち合わせは13時からであり、今はまだ12時45分なのだが、もう来ているらしい。
感心なことだ。
私達はキミドリちゃんを先頭に受付近くの部屋の前まで来ると、キミドリちゃんがドアをノックし、部屋に入った。
私達もキミドリちゃんに続き、中に入ると、そこには茶色い髪をした少女と金髪の女の人がいた。
茶髪の方はショートカットであり、身長はそこまで高くない。
もちろん、私やサマンサよりも大きいが、160センチもないだろう。
明るそうな雰囲気だし、どことなく目元がロビンソンに似ているため、こっちがロビンソンの娘のサクラちゃんだと思う。
そして、もう一方の金髪の方は身長が高く、165から170センチはありそうだ。
多分、キミドリちゃんよりも高いだろう。
長い金髪を野暮っぽく後ろに1本に縛り、どことなくおどおどした感じだ。
そのため、キミドリちゃんよりも身長が高いのに小さく見える。
私はこの金髪の女を見た瞬間にあることに気付いた。
「あ……」
金髪の女は私を見て、目を大きく開いた。
「ん?」
金髪の女が声を上げたので、全員が金髪の女に注目する。
「あわわ……しょ、少女喰らい……! ひ、ひえ……」
金髪は私を見て、涙声で震え、怯えだした。
あー…………
こいつ、天使だ…………
「えーっと、ハルカさん、お知り合いですか?」
キミドリちゃんが私に聞いてくる。
「まあ、そんな感じかなー」
なんて言えばいいんだ?
ここにはロビンソンの娘がいる。
巻き込むのはマズい。
「めっちゃおびえてますけど、なんかしました?」
キミドリちゃんが目を細め、追及してきた。
まあ、言いたいことはわかる。
女の人が私を見て、震えているのだから、私がこの子になんかしたと思っているのだろう。
「そんな覚えはないわね。どう見てもわかるでしょ」
キミドリちゃんよりも大きいこの子は私のストライクゾーンから大きく外れている。
「し、失礼しました。高名な方だったので、ビックリしただけです。すみません」
金髪の天使は取り乱していたが、襟を正し、頭を下げた。
うーん、何で天使がここにいるのかな?
というか、こいつ、天使っぽくないな。
『ハルカ、知り合いか?』
ウィズが念話で聞いてくる。
どうやら、ウィズはこいつが天使であることに気付いていないようだ。
『こいつ、天使よ』
『は? 全然、魔力を感じんし、天使要素が皆無じゃぞ』
私もたいして、魔力を感じないが、それは隠しているのだろう。
見た目というか、雰囲気もおどおどしており、性悪な天使とはかけ離れているが、血の匂いは間違いなく天使なのだ。
キミドリちゃんはまだ吸血鬼になったばかりでわからないだろうが、私やサマンサはわかる。
そう思った私はサマンサをチラッと見た。
しかし、サマンサはいつものように無表情であり、濁った目はどこを見ているかわからない。
興味ないのか……
『間違いなく天使よ。ただ、魔力は低いし、ウィズが魔族なことに気付いていない。多分、低級天使でしょ。ここにはサクラちゃんもいるし、事を荒立てたくないわ』
何で天使が探索者をやっているかは知らないが、ひとまずは放っておこう。
『了解した』
ウィズも私の意見に了承してくれた。
「えーっと、まあいっか。サクラさん、アンジュさん、こちらが私の仲間であるハルカさんとサマンサさんです」
キミドリちゃんがルーキー2人に私とサマンサを紹介した。
なお、アンジュという天使はサマンサの名前を聞いた瞬間、ビクッとしたため、おそらく、サマンサの名前も知っている。
『≪狂恋≫のサマンサを知っておるな…………天使かどうかはわからんが、アトレイアの住人で確定か……』
アンジュの反応を見たウィズは確信を持ったようだ。
「サクラと言います。よろしくです。いつも父がお世話になっています。あ、ちなみに、探索者ネームもサクラですので、サクラと呼んでください」
サクラちゃんは明るく、そう言い、頭を下げた。
サクラちゃんは本当に笑顔が明るく、キミドリちゃんがコミュニケーションおばけというのも頷ける。
「アンジュと言います…………探索者ネームもアンジュです。よろしくお願いいたします」
アンジュはおどおどとしているが、丁寧に頭を下げた。
ホント、天使っぽくないな。
ハワーとアーチャーを見習ったらどうだろう?
「えーっと、まあ、すでに名乗りましたが、ロビンソンさんの娘さんのサクラちゃんとアンジュさんです」
キミドリちゃんが私達に2人を紹介する。
「こんにちは。私がハルカでこっちの寡黙な方がサマンサよ。あと、この猫がウィズ」
「どうもです。サマンサです」
「にゃー」
私は自分の紹介をした後、ついでにサマンサとウィズも紹介した。
「ではでは、一応、確認なんですが、今回はサクラちゃんのお父さんであるロビンソンさんの依頼で、私達があなた達に探索者としてのノウハウを教えます。よろしいですね?」
キミドリちゃんが実にギルド職員っぽいことを言って、まとめようとしている。
キミドリちゃん、ギルマスっぽいね!
「はい。それが父と約束した探索者になる条件ですので…………アンジュもいいよね?」
サクラちゃんは自分より背の低いサクラちゃんに隠れようとしている天使に確認する。
「は、はい。私達はシロウトですので、ご教授をお願いできればと思います、はい」
お前は天使だろ。
荒事は…………うーん、苦手そうだ。
昨日の夜にキミドリちゃんが性格が向いていないって言っていた意味が分かるな。
「じゃあ、早速、ダンジョンに行きましょうか」
「はーい」
「はい…………」
キミドリちゃんがサクラちゃんとアンジュを促すと、サクラちゃんは元気に腕を突き上げ、アンジュは俯いて返事をした。
なんか対照的な2人だなー。
◆◇◆
私達はダンジョンに行くことに決めると、武器屋に立ち寄った。
私とキミドリちゃんとサマンサはすぐに武器をもらったのだが、武器屋のお爺さんはサクラちゃんとアンジュに武器を渡すと、武器の指導を始めた。
サクラちゃんの武器は槍であり、今はお爺さんが使い方を熱心に教えている。
アンジュは魔法を主体にするらしく、杖を持って、指導風景を真剣に見ている。
私達はそんな3人から少し距離を置き、お爺さんによる熱い指導を入口近くで見学していた。
「お爺さんも気合が入っているねー」
私の時はそこまでしてなかった。
「ロビンソンさんが頼んだんですよ。ほら、私達とここで会ったでしょう? あの時に頼んでいたらしいです」
私がお爺さんの気合の入りように疑問を持っていると、キミドリちゃんが教えてくれた。
「なるほどねー」
ロビンソンは本当に娘が心配なんだな。
「あのー、ハルカさん、アンジュさんが天使ってマジですか?」
「あれ? 私、言ったっけ?」
「いや、ウィズさんと念話で話してましたよね?」
そういえば、キミドリちゃんは人の念話を盗聴できるんだった。
「天使だと思う。だけど、無害じゃないかな? はっきり言って、雑魚だと思う。あのハワーよりも確実に格下ね」
伯爵級天使のハワーは、魔力は高かったが、接近戦は弱かった。
しかし、このアンジュという天使は間違いなく、それ以下だ。
とても、戦闘タイプの天使には見えない。
「まあ、確かに脅威は一切感じませんね。しかし、何で探索者なんてやってんですかね?」
「さあ? あとで捕まえて尋問しましょう。向こうも私やサマンサを知っていたし、抵抗はしないでしょ」
私とサマンサも戦闘向きではないが、さすがに格が違う。
あの怯えようから見ても、逃げることはあっても抵抗はしないだろう。
「わかりました。とりあえず、指導に集中します」
キミドリちゃんも納得したようだ。
「サマンサもいい?」
私はサマンサにも確認をする。
「え? あ、まあ、はい……」
こいつ、マジで興味ないんだな。




