第049話 適材適所はいい言葉だけど、私にとってはイジメになる
10階層にやってきた私達は携帯で地図を確認しながら11階層への階段に向かって歩いていった。
道中に出てきたユニコーンは私の魔法で一掃していく。
そして、11階層へやってきた。
私は11階層に着くと、携帯で攻略サイトを見て、11階層に出現するモンスターを調べる。
「11階層は…………デビルスネイク? 蛇?」
悪魔の蛇かな?
知らないモンスターだ。
「デビルスネイクはでっかい蛇ですよ。毒はないですけど、ニシキヘビみたいに大きいです」
私は首を傾げていると、キミドリちゃんが教えてくれた。
「なるほどー。ドロップ品は蛇の皮で12000円か……」
財布にでもするのかな?
「10階層のユニコーンよりデビルスネイクの素材の方が高く売れるんですけど、デビルスネイクは数が少ないんですよ。ですので、この階層はさっさと突破した方がいいですよ」
ユニコーンは結構な数が出たからなー。
さっきも11階層に来るまでに、13匹も倒した。
「じゃあ、12階層への階段まで真っすぐ行こうか」
「ですね。ちなみに、私は爬虫類が嫌いなので、ハルカさんにお願いします」
まあ、爬虫類を好きな女子は少ないだろうね。
私は別に好きでもなければ、嫌いでもない。
「じゃあ、私がやるよ。サマンサはどうする? …………って、何してんの?」
私がサマンサの方を見ると、サマンサは肩にウィズを乗せ、ビデオカメラを私に向けていた。
「私ははるるん様の活躍を撮影しますので、お気になさらずに」
何でだろう?
サマンサがカメラを構えていると、いかがわしく見える……
多分、普段の行いのせいだろうな。
「本当に動画配信するの?」
私はサマンサに指示しているであろうウィズに聞く。
「まあ、生配信はせんよ。おぬしはちょっと派手すぎるからな。ああ、普段通りでいいぞ。妾が後で編集するから」
大丈夫かな?
ちょっと心配だ。
「私はどうしましょう?」
キミドリちゃんがウィズ監督に聞く。
「おぬしは少し下がっておれ。まあ、おぬしのくっころ動画シリーズの続きを撮りたいなら、前に出て、蛇に絡まれてこい」
それは人気が出そう。
でも、蛇って、締めつけて、丸呑みじゃなかったっけ?
猟奇的な絵になりそうなんだけど。
「嫌です。蛇に絡まれるなんて、想像しただけで、鳥肌もんですよ」
キミドリちゃんはそう言って、後ろにいるサマンサの隣に行く。
「え? 私、蛇に絡まれた方がいい?」
死にはしないし、蛇も嫌いじゃないけど、嫌だよ。
「おぬしはいつも通りでいいぞ。おぬしが演技しようとすると、絶対に大根っぽくなる。おぬしはそのままでいい。いつも通りのおぬしが一番輝く」
バカにされているのがわかる。
ウィズはいつも通りのポンコツでいいと言っているのだ。
「ふん! 我の恐ろしさを下々の者に見せてやるわ!」
私は絶対にミスしないぞーと意気込み、奥へと進み始めた。
「撮れたか?」
「大丈夫だと思います」
「私達の声が入るのでは?」
「一応、編集するが、あまり声を入れたくないから、騒ぐなよ」
聞けよ…………
私はそのままデビルスネイクを探しつつ、12階層への階段を目指して歩きだした。
私が一人で歩いていると、後ろから視線を感じる。
正直、非常にやりにくい。
「ねえ、すごく気になるんだけど…………」
私は後ろを振り向き、私を見ている3人に言う。
「気にするな」
「はるるん様、背中がかわいらしいですよ」
うーん、サマンサはやっぱりいやらしいな。
「ハルカさん、一応、経験者として、アドバイスしますと、モンスターに集中した方がいいですよ。下手に意識すると、自分ではわからなくても、他人が見たら演技感が出ますから」
くっころ動画で一時代を築いたキミドリちゃんがアドバイスをくれる。
「普通にやると、魔法で一撃なんだけど…………」
「いや、わざわざ苦戦しなくてもいいですよ。私の動画とは需要が違うんですから」
「私の需要って何?」
見た目はロリだよ。
子供っぽく、しゃべればいいのかな?
「あたし、がんばるー」
私は精一杯の高い声を出し、ぶりっ子振ってみた。
「いや、24歳はきっついですって…………」
同い年のキミドリちゃんが嫌な顔をする。
「だよね…………私も自分でやってみて、うわって思った」
さすがにきつい。
やっぱ演技は無理だな。
そもそも動画なんて小銭稼ぎだし、ほぼウィズの趣味に付き合っているようなものだ。
普通にやって、モンスターの素材集めをした方がいい。
「あ、ハルカさん、デビルスネイクの気配がします」
私と話していたキミドリちゃんが前方を指差す。
私は釣られて前を向くが、何も見えない。
「キミドリちゃんは本当にすごいねー。全然わからないんだけど」
私、自分の探知能力に優れているっていう看板を外そうと思うわ。
というか、そのシックスセンスこそ、実はキミドリちゃんの本当のユニークスキルじゃない?
私はまだデビルスネイクが見えていないが、前方に手をかざす。
そして、デビルスネイクがやってくるのをじっと待つ。
しばらく待っていると、地面からスッと影が現れた…………と思ったら、ものすごいスピードで大きな蛇が地面を這い、私に向かってきた。
「はやっ!」
私はかなり焦ったが、距離があったため、すぐに冷静になれた。
「すべての悪しき神よ…………我の呼び声に応え――あわわ! えーい!」
私は詠唱をしていたのだが、デビルスネイクが予想以上に速かったため、詠唱を途中で止め、魔法を放った。
私の手から放たれた絶対零度の吹雪がデビルスネイクを襲い、デビルスネイクは氷漬けとなる。
「我がエターナルフォースブリザードの前にはすべてが無に帰す…………永遠という眠りにつくがよい」
私は詠唱に失敗したため、余韻で誤魔化すことにした。
私がかっこよく、決めゼリフを言い終えると、デビルスネイクは砕け散り、ドロップ品である一辺10センチ程度の正方形の皮が残される。
私はその蛇の皮を拾うと、まじまじと見たり、引っ張ったりした。
蛇の皮は思ったより、伸縮性があり、丈夫だ。
「これが蛇の皮? 正方形なことにものすごい違和感があるんだけど」
私は後ろを振り向き、キミドリちゃんに聞いてみる。
「そこは皆、思ってます。まあ、加工しやすくていいんじゃないですかね?」
やっぱ皆、そう思うか……
「これが12000円かー。何に使うの? 財布とかバッグ?」
「まあ、そういうのにも使われているみたいですが、ほとんどは防具ですね。伸縮性に優れていますし、斬撃にも強いんですよ」
「へー、すごいねー。私は蛇の皮の防具なんて着たくないけどねー」
「激しく同感です」
キミドリちゃんは首を縦に強く振る。
「爬虫類が苦手って、言ってたもんねー。そういえば、防具はどうしてたの? キミドリちゃん、アタッカーでしょ」
前に出て、モンスターと戦うんだから鎧とかを装備するもんじゃないのかな?
実際、ギルドにいた探索者連中は鎧を着ている人もいたし、盾を持っている人もいた。
「私はスピード重視ですんで。まあ、仲間に防御魔法を使える子がいましたので、頼りきりでしたね」
「あー、防御魔法かー。サマンサが使えるんじゃないかな?」
バフ、デバフ魔法が得意って言ってたし。
「すみません。防御魔法も使えますけど、最近はまったく使っていませんでしたので、自信がないです」
話を聞いていたサマンサがカメラを下ろし、謝ってくる。
まあ、不死である吸血鬼に防御魔法はいらないもんね。
「別に大丈夫ですよー。それよりも、血の操作の魔法を教えてくださいよ」
キミドリちゃんは隣にいるサマンサに教えを乞う。
「あれ? 私が教えるよ?」
何でサマンサに聞くの?
「いや、ハルカさんって、説明が抽象的すぎますもん。人を剥こうとするし」
剥こうとはしてない。
ただ、キミドリちゃん自慢のナイスバディを拝みたかっただけだ。
でも、まあ、サマンサが教えたほうがいいかもしれない。
私は頑張って魔法を覚えたわけでなく、エターナル・ゼロの知識から魔法を使っているだけだ。
その点、サマンサは魔法学校にも通っていたし、優秀だろう。
「サマンサ、教えてあげてよ」
私はキミドリちゃんへの魔法指導をサマンサにお願いすることにした。
「えーっと、まあ、構いませんけど…………」
「じゃあ、サマンサさん、よろしくお願いします」
キミドリちゃんがきれいに礼をする。
「あのー、以前から気になってたんですけど、キミドリさんは何で敬語なんですかね? ものすごい違和感が…………」
やはりサマンサもそこが気になるらしい。
私も思ったのだが、見た目子供な私達相手に丁寧な対応をされると、非常に違和感がある。
「それはですねー。話せば、長くなるんですが……」
キミドリちゃんが話してもたいして長くない話をサマンサにし始めたので、私はあとのことをサマンサに任せ、先に進むことにした。
私はそのまま12階層の階段を目指して進み、道中、キミドリちゃんにモンスターの接近を教えてもらいつつ、8匹のデビルスネイクを倒した。
そして、12階層の階段を見つけたため、12階層へと降りていった。