第048話 1ヶ月ぶりのダンジョン
預金が残り少ないことが発覚、というかバレた翌日、私達は午後からキミドリちゃんの車で北千住のギルドに向かった。
サマンサを入れた4人でダンジョンに行くのは初めてであり、楽しみではあるのだが、家を出る前にウィズが色んな機材をサマンサに渡していたのが気になった。
まさかと思うが、本当に動画を撮るのか?
キミドリちゃんはともかく、私やサマンサはマニアックになると思うのだが…………
というか、私は別にいいけど、サマンサはなー。
目立つことを本当に嫌うんだよねー。
うーん、まあ、サマンサを映さなければいいか。
私はまあいいかと思い、特に追及せず、ギルドまで行くと、受付で申請し、武器屋に武器を受け取りにいく。
そして、武器屋のお爺さんがサマンサに武器を渡したのだが、銃だった。
それもロビンソンと同じようなリボルバー式のハンドガンだ。
「サマンサの武器ってそれ?」
私はお爺さんから銃を受け取ったサマンサに聞く。
「はい。何でも良かったので、試験官だったロビンソンさんと同じものにしました」
まさかのロビンソンリスペクトじゃないよね?
「へー……高くないの?」
知らないけど、銃って高そう…………
「これは安いやつですので、10万円くらいでしたね」
高くね?
「サマンサ、そんなにお金持ってたっけ?」
「はい。はるるん様達と再会する前に適当に奪っていましたので」
この子は何を言ってんだ?
ほら、武器屋のお爺さんがめっちゃ怪訝な目をしてんじゃん。
「ワシは何も聞こえなかった…………」
おじいさんはそっぽを向き、明らかにヤバそうなサマンサと関わるのをやめたようだ。
「ってか、銃っていいの? 危なくない? ロビンソンのヤツも持ってたけど」
私はそっぽを向いたお爺さんに聞いてみる。
「あー、もちろん銃の所持は違法だ。だが、これは銃じゃねー。ダンジョンの宝箱にある武器だ。弾は魔力だし、マジックアイテムと思ってくれればいい。まあ、どっからどう見ても銃だが、法律上は銃じゃない」
グレーゾーンなのかな?
まあ、それを言えば、剣も槍もアウトか。
「魔力? 銃弾はないの?」
「体内の魔力を撃ち出す感じかな? ワシは探索者じゃないから具体的に聞かれるとわからん。だが、魔力が尽きると、弾が出なくなるらしいぞ」
ほほー。
夢の無限弾じゃん。
ゾンビを一掃できるやつじゃん。
「私もそっちに変えようかなー」
「やめとけ。威力がねーんだ。リボルバーだが、ただのハンドガンだしな。命中率も微妙だし、モンスター相手には剣の方が強い。距離を取れるっていう利点もあるが、だったら、魔法を使えって感じだ」
あー、そっかー。
ゴブリンやコボルトはともかく、でかいモンスターには威力不足なんだ。
「ロビンソンは? あいつ、B級何位なんでしょ?」
「あれはお前さんと同じでこだわりだ。一応、ダンジョン奥で見つけたレア物の銃を使っているが、多分、あいつは銃を使わない方が強い」
ダメじゃん。
まあ、無駄に刀を選んだ私もだけど。
「まあ、こだわりなら仕方ないね」
「そういうヤツは一定数いる。まあ、お前さんのように完全に飾りにするヤツはいないがな」
おや?
私が刀を一切使っていないことがわかるのかな?
「何でわかるの?」
「ワシは武器を預かりもするが、メンテナンスもする。あー、別に金は取らんぞ。メンテナンス代は上から補助金から出るんでな。とまあ、そういう仕事なんだが、お前さんの刀は刃こぼれどころか、一切、刀を鞘から抜いた気配がない。というか、値札がついたままだぞ」
お爺さんはそう言って、私の刀を渡してくれた。
私は受け取った刀を細かく見る。
すると、刀の鍔部分に値札が貼ってあった。
「値札が貼ってあると、一気にお土産感が出てくるなー」
京都の映画村とかに売ってそう……
「使ってないんだから似たようなもんだろ。まあ、お前さんはどう見ても接近戦をやるタイプに見えないから好きにすればいいんだが、普通、魔法使いは杖とかだぞ?」
「普通? 我に相応しくない言葉だな。我はこの “吸血丸”と共に行く」
いざ、行かん!
楽園へ!
「お前さん、思い出したようにキャラを作るな…………」
お爺さんは呆れてしまった。
◆◇◆
武器屋で各自の武器を受け取った私達は魔方陣に乗って、10階層までやってきた。
「さーて、11階層を目指すとするかなー」
「あのー、ハルカさん、一応、決めておきたいんですが、このパーティー、どうやって戦っていきます?」
私が11階層への階段を目指して歩こうとすると、キミドリちゃんが止めてくる。
「どうやってって…………適当でいいんじゃない? 他の人達はどうやってるの?」
なんかやり方があるのかな?
「基本的には役割を決めますね。魔法や飛び道具で援護する人と剣や槍で直接戦う人です」
「じゃあ、決まってんじゃん。私とサマンサが魔法を使って、キミドリちゃんが切りかかる!」
行け! バーサーカーキミドリちゃん!
「いや、ハルカさんがこの前出した格子ビームをやられると、私もバラバラになっちゃうんですけど…………」
ダークプリズンのことかな?
「あー、言われてみれば、ちょっと危ないかも…………私の魔法は殺傷能力が高めだから。サマンサは?」
私は魔法を得意としているサマンサに聞く。
「私は直接的な攻撃魔法は得意じゃないわけじゃないですけど、補助とか回復とか呪い魔法を主にしたメイジです」
そんなんだったかな?
サマンサは争いごとを好まないからあまり戦っているところを見たことがない。
「適当でよかろう。キミドリが鍛えたいなら譲ればいいし、そうでなければハルカの魔法で片づければよい。別にこの辺りの階層で苦戦もせんじゃろ」
ウィズの言う通り、11階層程度で苦戦するはずはないだろう。
「キミドリちゃん、鍛えたいなら譲るよ? 階級持ちになりたいって言ってたし」
「いえ、私もこの辺りの階層で戦っても強くなれる気がしませんので、ハルカさんにお任せします」
まあ、元はAランクだしね。
「キミドリちゃんは何階層まで行ったことがあるの?」
「42階層ですねー。まあ、パーティーで行きましたけどね」
そういえば、以前、動画で見たけど、パーティーを組んでたな。
「その時の仲間はどうされたんですか?」
珍しく、サマンサが人に興味を持ったようだ。
なんだかんだで、サマンサはキミドリちゃんを気に入っているらしく、よく2人で話しているところも見る。
まあ、キミドリちゃんはクズだけど、人と仲良くなるのは得意そうだしね。
「解散した後は皆、引退しましたね。散財をしなければ、一生暮らせるお金は得たんです。最初に引退を決意して、パーティーを抜けると言ったのは私ですけど、皆も一生もののケガをする前に引退しようってことになりました。最後に皆で引退パーティーをしたのが良い思い出です」
そんな良い思い出だったのに、横領と借金で復帰か……
元仲間達も苦笑いだろうなー。
「キミドリちゃんはさっさと借金を返しなよ」
「すぐに返しますよ。そのために、私は一人でもダンジョンに行っているんですから」
そういえば、この1ヶ月は私達が家でゴロゴロしている間もキミドリちゃんは一人で行ってたな。
「キミドリちゃんは今何位?」
「Dランクの8位ですよ。Cランクに上げようかと思ったんですけど、足並みを揃えた方がいいと思いまして」
私が遊んでいる間にそんなに上がっていたのか…………
「別に揃えなくてもいいよ。さっさと上がって、もっと奥で稼ぎな」
Dランクは15階層までしか行けない。
Cランクになれば、20階層まで行けるのだからそこで稼げば、もっと早く借金を返せるだろうに。
「いえ、私達の足並みは揃えた方がいいんですよ」
「何で?」
「間違いなく、寄生と思われて、ハルカさんとサマンサさんがフルボッコで叩かれます。サマンサさんは寡黙ですし、あまり目立とうとはしない性格なので、まだいいですが、ハルカさんはやばいです。多分、誹謗中傷の雨あられです」
そんなに?
「私って、そんなに叩かれそうかな?」
「あなたはすでに一部では有名です。そんな恰好であんなしゃべり方をするロリがあっという間に10階層まで来ましたからね。しかも、よくわからないけど、二つ名持ちのルーキーですから。そういうのはすぐに噂になります」
そんなロリが実は元Aランク2位に寄生か……
確かに叩かれそうだ。
「なるほどー。じゃあ、一緒に行こうか」
「ですね。じゃあ、さっさと10階層はおさらばして、11階層に行きましょう。私はもうユニコーンを一生分見ましたので」
あー……ウィズといっぱい狩ってたもんねー。
「ちなみに、キミドリちゃん、ユニコーンに乗れる?」
キミドリちゃんはサイドブレーキで喪失したんでしょ?
「昔、男共の間でそういうのが流行りましたね。めちゃくちゃ叩かれてましたよ」
ああ……
私は男脳だったのか…………