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第005話 パーティーのはじまりだー


 アトレイアは修羅の世界である。


 人間も野蛮だし、魔物も多い。

 魔物は動物と違い、体内に魔石を持つものの総称だ。


 例えば、私のような吸血鬼、エルフ、ドワーフは体内に魔石を持たないため、魔物ではなく、亜人に分類される。

 逆に白猫のような魔族、ドラゴン、ゴブリンなどは体内に魔石を持つため、魔物に分類される。


 しかし、亜人だからといって、人類の脅威に変わりはない。

 そのため、基本的には皆、争っている。

 もちろん、同じ種族の間でも争っている。


 争いばっかな世界。

 それがアトレイアなのだ。


 そんな弱者に厳しい世界では力を持つものが絶対である。

 力を持つ種族の代表格が吸血鬼、魔族、ドラゴンだ。


 この3種族には階級がある。


 階級なし→男爵級→子爵級→伯爵級→侯爵級→公爵級→大公級→王級


 もちろん、王級が一番上だ。


 王の中の王である真祖の吸血鬼、≪少女喰らい≫ハルカ・エターナル・ゼロ(はるるん) ← 私、私!

 世界を絶望と暴力に染めた魔王、≪暴君≫しゅてふぁにー(?) ← 白猫のこと

 黄金を愛し、暴風と炎で世界を焼き尽くした古代竜、≪支配者≫ルブルムドラゴン(名前は知らん) ← こいつ嫌い


 どう?

 強そうでしょ?

 これが王級と呼ばれた各種族の頂点にて、すべての生物が恐れをなす、絶対的強者である。


 その一角である魔王は現在、ドラッグストアで狂っている。


『うひょー! それも美味そうじゃのう!! どれにしようかなー!? こっちも良さそうじゃし、あっちも良さそう!! なあ、全部、買うてくれ』


 白猫は今、ドラッグストアにあるペットフードコーナーでテンションがマックスになっていた。


 うひょー、だって…………


 魔王の威厳はどうやら食欲に負けたらしい。

 他の魔族が泣くんじゃない?


 私は会社を辞めたあと、帰り道にドラッグストアに寄った。

 会社を辞めた記念パーティーをするために、食材とお酒を買いに来たのだ。


 そして、あるコーナーの一画に来ると、白猫の念話が聞こえたのだ。


 キャットフードが食べたいと……

 どうやら、昨日のテレビCMからずっと食べたかったらしい。


『2個に絞って。お金の問題以前にこんなに持って帰れないわよ』


 何種類あるのよ。


『アイテムボックスに入れればよかろう』

『こんな街中で使えるわけないじゃない』

『探索者とやらがおるのじゃろう? 大丈夫、大丈夫』


 会社で調べた結果、探索者は魔法が使えるらしい。

 どうやらダンジョンのモンスターを倒すと、力や魔力が上がり、魔法を覚えたり、能力が向上するらしい。


 これはアトレイアと同様だ。

 魔力を持つ敵を倒すと、魔力を吸収し、力を得る。

 まあ、簡単に言えば、レベルアップだ。


 もっとも、私達吸血鬼は敵を倒すよりも血を吸った方が効率がいいのだが。


『空間魔法の認知度がわからないし、目立ちたくないわ。勇者がいたらヤバいでしょ』

『うーむ、仕方がないのう…………じゃあ、そっちのとこっちのを買うてくれ』


 私は白猫が要望したキャットフードの値段を見る。


 たっけぇー…………


 これは早く探索者になってお金を得ないと貯金が尽きるな…………


 私は値段を見て、嫌だなーと思ったが、今日はパーティーだし、仕方がないかーと思い、かごに入れた。


『楽しみじゃのう! 楽しみじゃのう!』


 めっちゃ嬉しそうだ。

 まあ、白猫は100年も一緒にいる家族のようなものだし、これくらいの出費は許容しよう…………


『あ、あとワインな』

 

 これだから城住みの魔王は…………


 私は白猫指定のワインも入れ、ビール、ハイボールなどの酒類と共にポテトチップスなどの駄菓子も買い込んだ。

 そして、会計を行い、重い袋を持って帰路についた。


 帰りも電車に乗り、家に帰った時には、すでに夕方になっていた。


 私は服をすべて脱ぐと、魔法で愛用のドレスに着替える。


「昨日のジャージではないのか?」


 白猫はドレスに着替えた私に疑問を持ったようで聞いてくる。


「まあいいから、いいから」


 私は白猫の問いを煙に巻き、ポテチやキャットフードの封を開け、白猫用の皿にワインを注いだ。

 そして、買ってきたビールをワイングラスに注ぐ。


「私は帰ってきた!」


 私は立ちあがり、大きな声で言った。


「なんじゃ、急に?」


 いいから、聞け。


「200年もの間、あっちの世界で死ぬ思いをしてきた。しかし、私は幸運だった。真祖に生まれ、真祖の力を引き継ぎ、最強となった。そして、あなたという最高のファミリーに出会い、多くの眷属や恋人達が私を愛してくれた! 最後はクソ勇者のせいで楽園を奪われたが、今、こうして元の世界に帰還し、会社という牢獄から脱出することができた! 明日からは探索者としてお金を稼ぎ、一生遊んで暮らすのよ!! それが私達の野望なのよ!!」

「まあ、ツッコむ所がいくつかあったが、妾を家族と呼んでくれるのは嬉しいのう」

「そう! 私達は家族よ! 生まれも種族も違うけれども、100年間、共に生きた。そして、これからはお金と少女に囲まれる世界を共に作るのよ!!」

「いや、少女は別に……」

「お金があれば、いくらでもキャットフードが買えるのよ! さっきの店は専門店じゃないから少ししか売ってないのよ!?」

「共に稼ごうぞ!! 我がファミリー!!」


 うんうん!


「今日はその前祝いのパーティーよ!! さあ、盃を掲げよ!!」


 私はそう言って、ビールが入ったワイングラスを掲げる。


「おー!」


 白猫は猫のため、掲げることは出来ないが、気分の問題なので別にいい。


「我こそは究極にて、偉大なる夜の王である! 漆黒の神よ! 我らのこれからの道が栄光であることを確約せよ!!」

「おぬしはよく考えるとよくわからないけど、カッコいいセリフを言うのが得意じゃな」


 だーれが、厨二病じゃい!


「かんぱーい!!」

「かんぱーい!」


 私達は乾杯をし、酒を飲み干し、ポテトチップスやキャットフードを食べだす。


 パーティーは始まったのだ。


「美味いのう、美味いのう!」

「やっべ! ポテチやっべ!!」


 私達は酒を飲み、つまみを食す。

 ここに少女がいれば、まさに酒池肉林だろう。


 私達は飲み続ける。

 私達は食べ続ける。


 そして、宴もたけなわになってきた。


「こらー、しろねこー、あんた、のみすぎー」

「おぬし、もう酔ったのか? 情けないのう…………」


 あんたが強すぎるのよ。


「白猫はよくそんなに飲めるわねー。魔王だから?」

「いや、関係ないと思うが…………のう、ハルカ?」

「なーにぃー?」


 私の好きなタイプは幼い女の子よー。


「妾はここ10年ぐらい、ずっと疑問に思っていたことがある」

「疑問? 10年も? 言えばいいのに……私達はファミリーじゃなーい?」


 いえーい!


「ファミリーか…………のう? おぬし、妾の名前を呼ばんな」


 ギクッ!


「そ、そうかしら?」

「…………妾の名前を言ってみろ」


 えーっと、しゅ? すてふぁ?


「しゅ、ステファニー?」

「妾はおぬしと100年も一緒にいるし、家族のようなものだと思っていたのだがなー。妾はシュテファーニアじゃ」


 言いづらいし、覚えづらい!


「長いのよ! もっと呼びやすい名前に改名しなさい! そうよ! あなたは今日からウィズね!」

「何故、ウィズ?」


 白猫が首を傾げる。


「えーっと、よくわからないけど、頭に浮かんだのよ」

「まあ、おぬしがそう言うなら変えるが……」


 ウィズ、ウィズ、この子はウィズ!

 よし、覚えた!


「そうよ! 名前なんて言いやすい方がいいのよ」

「妾的には、はるるんより、ハルカ・エターナル・ゼロの方がカッコいいと思うんだが……」


 絶対に嘘だ。

 昔、初めて会った時にハルカ・エターナル・ゼロと名乗ったのだが、それを聞いた瞬間、こいつは噴いたのだ。

 絶対に忘れない。


「まあいいわ。どうせ、こっちの世界では沢口ハルカと名乗るから」

「おぬしのこっちでの名か?」

「そうね。この世界には戸籍とかあるから面倒なのよ」

「ふーむ、聞いていた通り、かなり文明の進んだ世界なのじゃな」


 アトレイアには戸籍などない。


「あっちの世界とは、だいぶ文化や法律が異なるから注意しなさいよ。間違っても軽はずみに人間を殺さないでね」

「まあ、その辺は合わせる。別に人間を滅ぼしたいわけじゃないからのう」


 魔王も猫になったら丸くなるのかね?


「とりあえず、明日からは我らの怠惰で堕落した野望のために、動き出すわよ。まずは探索者になることよ」

「ふむ。そうじゃな。このぼろ屋からもうちょっと良い屋敷に引っ越したいのう」


 ぼろ屋って……

 そんなにいいアパートではないけど、ぼろ屋と呼ばれるほど悪くはない。(と思う)

 まあ、でも、お金があれば、もっといい家に住めるのは確かだ。


「よーし! 頑張るぞー!」

「おー! なのじゃ!」


 私の栄光のビクトリーロードは明日から始まるのだー!

 あー、はっはっはー!

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